【7】
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
傷が塞がるまでの数日間、俺は安宿の硬いベッドの上でひたすら痛みに耐え続けた。
高熱にうなされ、裂けた肉が引きつるたびに走る激痛。本来なら高価なポーションや神官の治癒魔法に頼るべき重傷だが、底辺の俺には己の治癒力だけが頼りだった。
熱が引き、ようやく自力で歩けるようになった頃。
日課の報告と僅かな物資の補充のため、俺が冒険者ギルドの重い扉を開けると――喧噪に包まれていたギルドが、水を打ったように静まり返った。
「……おい、嘘だろ」
「あいつ、死んだんじゃなかったのか……?」
「あの出血量で何日も姿を見せなかったんだぞ。絶対にスラムの路地裏で野垂れ死んだって噂になってたのに……」
冒険者たちが、まるで幽霊でも見るかのような青ざめた顔で俺を遠巻きに眺めている。
だが、そのざわめきすら俺にとっては酷くどうでもいいことだった。彼らが俺を嘲笑しようが、怯えようが、今の俺の心には何の波風も立たない。
ただ用事だけを済ませ、誰とも目を合わせることなくギルドを後にした。
向かう先は、一つしかない。
俺は再び、あの『黒鳴の洞穴』へと足を踏み入れた。
洞窟の空気が肌に触れる。血と獣の匂い。
すぐに暗がりから、複数の赤い眼光が俺を捉えた。以前と同じ、ブラッドウルフの群れだ。
低い唸り声を上げ、一頭が俺の喉笛を食いちぎらんと一直線に跳躍してくる。
しかし――。
「……遅い」
俺の口から、無意識にそんな言葉が漏れていた。
地を蹴り、宙を舞う魔物の挙動が、あくびが出るほど単調で緩慢に見える。
迫り来る牙を前にしても、心臓の鼓動すら跳ね上がらない。恐怖もない。脅威の欠片も感じない。
俺は前回と同じように、回避を放棄した最短距離の剣を振り抜いた。
ザンッ!
一閃。
俺の頬を魔物の爪が掠め、薄く皮を裂く。
だが、痛みに顔を歪めるより早く、すれ違いざまに放たれた俺の鉄剣は、ブラッドウルフの首をいとも容易く刎ね飛ばしていた。
「次」
ドサリと落ちる死骸を一瞥もせず、俺は群れの中へと無造作に歩みを進めた。
二頭目が側面から飛びかかってくる。
腕を差し出し、噛みつかれる軌道をわざと作ってから、そのがら空きの胴体へ向けて剣を突き立てる。
浅く肉を噛まれる痛みが走るが、俺の腕の骨に届く前に、魔物の命の方が先に絶たれていた。
軽傷は負う。流血もする。
だが、どれだけ無防備に突っ込もうと、もはや『致命傷』には全く届かないのだ。
あの死の淵で強引に引き上げられた俺の動体視力と反応速度は、すでにこの階層の魔物のスピードを完全に上回ってしまっている。
捨て身で飛び込めば飛び込むほど、俺の身体は最短・最速で敵を殺すための『最適解』を自動的に選択してしまう。
「……これじゃ、死ねない」
血を振り払いながら、俺は深い溜め息をついた。
俺は絶望的な死を求めているのに、魔物を狩れば狩るほど、皮肉にも己の身体に『強者としての戦い方』を深く刻み込んでいく。
ブラッドウルフ程度では、もはや俺を殺せない。
俺は未だ癒えきっていない身体に新しく幾つかの掠り傷を増やしながら、さらに深い階層へと続く暗闇の奥を目指して歩き出した。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近戦闘シーンを書いていなかったので、ただただ「泥臭い死闘」と「痛みを伴う戦闘」が書きたくて始めました。
高尚なテーマやメッセージ性はありません。死にたがりの男と、後ろから勝手についてきて全回復させてしまう少女。このバグった二人が限界の死線でどんな最適解を弾き出すのか、作者自身もシミュレーションを回すような感覚で書いています。
チートのない血みどろの戦闘がお好きな方は、この先もお付き合いいただけますと幸いです。




