【20】
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
「次からは、あたしも同行します!」
翌日。少しだけ血色の戻った俺の前に立ち塞がったリナは、両手で杖を握り締めながら、半ばヤケクソのような大声でそう宣言した。
「馬鹿か。お前、戦場に出ると固まるんだろうが。俺は魔物からお前を守る気なんて一切――」
「守らなくていいです! 隠れてますから! でも、同行します!」
「死ぬぞ」
「ここで待っていて、またあなたが血まみれで倒れ込むのを見るくらいなら……一緒にダンジョンに行きます。すぐそばにいれば、あなたが致命傷を負っても、一秒で治癒できますから!」
理屈はめちゃくちゃだ。だが、彼女の瞳には、かつてのギルドの隅で怯えきっていた色とは違う、頑固で奇妙な強さが宿っていた。
結局、折れたのは俺の方だった。
どうせダンジョンの入り口に立てば、昨日みたいに恐怖で腰を抜かして動けなくなるだろう。そう高を括っていたのだ。
だが――俺の予想は、またしても裏切られることになった。
「……ひ、ひぃぃ……っ」
「おい、嘘だろ。本当についてきてるのかよ……」
「き、来てます! 来てますからぁ……!」
『黒鳴の洞穴』の第一層。
薄暗く、生臭い風が吹き抜けるダンジョンの中を、俺は半分呆れながら進んでいた。
驚いたことに、彼女はあんなに恐れていたダンジョンの入り口を、まるで何かの魔法が解けたかのように、すんなりと越えてしまったのだ。
いや、「すんなり」というのは語弊があるかもしれない。
彼女の顔は紙のように真っ白で、身の丈に合わない杖を抱え込むようにしてガチガチと歯の根を鳴らしている。奥から魔物の唸り声が聞こえるたびに「ひゃっ」と小さく悲鳴を上げ、俺の背中のマントの裾をギュッと掴んで離さない。
完全に怯えきっている。歩幅も狭く、涙目で俺の背中に隠れるようにして、必死の形相でついてくるのが精一杯といった様子だった。
しかし、それでも彼女の足は『止まっていなかった』。
(……なんで、動けてるんだ)
戦場という空間に対する彼女のトラウマは、昨日入り口で倒れ込んだ姿を見れば本物だとわかる。
だが、今の彼女は、恐怖で呼吸を浅くしながらも、絶対に俺の背中から離れようとしない。
まるで、暗闇や魔物への恐怖を、『俺を死なせることへの恐怖』が無理やり上書きして、彼女の背中を強引に押し出しているかのようだった。
「……おい、引っ張るな。歩きにくい」
「だ、だって……離れたら、死んじゃいます……わたしが……」
「お前が死ぬのかよ」
「あ、あなたが死にそうになったら、すぐヒールしなきゃいけないし……っ」
支離滅裂な言い訳をしながら、彼女はさらに俺のマントを強く握り締めてくる。
邪魔だ。これでは、思い切り死地へ向かって突っ込むこともできないじゃないか。
そう思いながらも、背中越しに伝わってくる彼女の小刻みな震えが、なぜかひどく人間らしく、温かいものに感じられて、俺は無下にその手を振り払うことができなかった。
「……勝手にしろ。ただし、絶対に俺の背中から離れるなよ」
「は、はいっ……!」
俺の言葉に、彼女は涙目のままブンブンと首を縦に振る。
死を求める最弱の剣士の背中を、恐怖で泣きそうな最弱の魔法使いが必死に掴んで歩く。
到底まともなパーティーとは呼べない歪な足取りのまま、俺たちはふたりで第一層の暗闇を奥へと進んでいった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近戦闘シーンを書いていなかったので、ただただ「泥臭い死闘」と「痛みを伴う戦闘」が書きたくて始めました。
高尚なテーマやメッセージ性はありません。死にたがりの男と、後ろから勝手についてきて全回復させてしまう少女。このバグった二人が限界の死線でどんな最適解を弾き出すのか、作者自身もシミュレーションを回すような感覚で書いています。
チートのない血みどろの戦闘がお好きな方は、この先もお付き合いいただけますと幸いです。




