【2】
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
暗がりから姿を現したのは、三頭のブラッドウルフだった。
一頭倒したところで、俺の体力はとうに限界に近い。右肩からは未だに血が流れ続けている。
だが、俺の足は止まらなかった。
死地を求める心に、ブレーキをかける意思は存在しない。
俺は血濡れた剣を構えたまま、三頭の群れの中へと真っ直ぐに飛び込んだ。
先頭の一頭が、地を蹴って襲いかかってくる。
俺は迎撃の剣を振り上げた。だが、相手の力と質量が圧倒的に上だった。
ガァンッ!!
「ぐあっ!?」
刃を弾かれ、丸太のような前脚の突進をまともに喰らう。
俺の軽い身体はあっけなく宙を舞い、数メートル先のゴツゴツとした岩壁に激しく叩きつけられた。
肺から空気が強制的に吐き出され、視界が明滅する。全身の骨が軋むような激痛。
普通の冒険者なら、ここで心が折れてうずくまるか、恐怖に身体をすくませて絶望するだろう。
だが、今の俺には「死への恐怖」が完全に欠落していた。
休む間もなく、残りの二頭が壁際の俺へ向かって跳躍してくる。
身動きの取れない獲物の喉笛を食いちぎるための、無慈悲な連続攻撃。
(……また、見える)
スローモーションのように感じられる死の瞬間に、俺の身体は奇妙なほど淀みなく動いた。
恐怖で身体が硬直しない。安全に躱そうという迷いがない。
俺は躊躇いなく地面を無様に転がり、続けざまに襲い来る二連続の噛みつきを間一髪で躱した。
耳元で空を切る牙の音が鳴り、背後の岩壁が砕け散る。飛んできた岩の破片が頬を裂いた。
本来なら、最弱の俺の反応速度では絶対に躱せないタイミングだ。だが、体勢を崩すことも厭わない捨て身の回避行動が、またしてもミリ単位で俺を死地から引き剥がした。
「ハハッ……!」
血の味が広がる口から、乾いた笑いが漏れる。
弾き飛ばされた衝撃も、頬を裂かれた痛みも、脳内を駆け巡る異常なアドレナリンが麻痺させていく。
死ぬために突っ込んでいるのに、極限の死の淵に立てば立つほど、俺の身体はこのオーバースペックな戦闘環境のスピードに『強制的に』順応し始めていた。
「まだだ。まだ、死んでないぞ……!」
壁を蹴り、即座に立ち上がる。
息をつく暇もない。三頭が再びフォーメーションを立て直し、一斉に襲いかかってくる。
俺は歓喜すら混じった叫び声を上げ、再び致死の暴風の中へと身を投じた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近戦闘シーンを書いていなかったので、ただただ「泥臭い死闘」と「痛みを伴う戦闘」が書きたくて始めました。
高尚なテーマやメッセージ性はありません。死にたがりの男と、後ろから勝手についてきて全回復させてしまう少女。このバグった二人が限界の死線でどんな最適解を弾き出すのか、作者自身もシミュレーションを回すような感覚で書いています。
チートのない血みどろの戦闘がお好きな方は、この先もお付き合いいただけますと幸いです。




