【1】
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
俺は剣士だ。
それも最下層クラスの最弱剣士だ。
だから、俺と組もうとする奇特な冒険者はいない。
いつも、バカにされているだけだ。
「よう、最弱ぅ。ずっとソロで活躍してるなんて、流石最弱様だな。俺たちにはとてもとてもお前の真似なんかできねぇよ」
「そういうこった。何時まで続くかは知らんが、まあ、生きるなり死ぬなり目立たないところで頼むな」
と、こんな感じで、常に嘲笑の標的なのだ。
もう、生きていく希望も見つからない。
そこで、俺は決心した。
『俺自身を殺してやる』
――その日のうちに、俺は街外れにある中級ダンジョン『黒鳴の洞穴』へと足を踏み入れた。
最弱の俺がソロで入れば、間違いなく死ぬ場所だ。
ポーションなどの回復アイテムはもちろん、予備の武器すら持っていない。手にあるのは、使い古した安い鉄剣一本だけ。
仲間を求めることもしない。助けを呼ぶつもりもない。
俺はここで、これまでの惨めで弱い「俺」を終わらせるのだ。
薄暗い洞窟を進むと、すぐに濃密な獣の匂いが漂ってきた。
暗がりから飛び出してきたのは、鋭い牙と凶悪な爪を持つ『ブラッドウルフ』だった。本来なら、前衛が盾で防ぎ、後衛が魔法で仕留めるような素早く獰猛な魔物だ。
これまでの俺の動体視力では、その飛びかかってくる軌道すら追えなかったはずだった。
「……来いよ」
防御の構えを取らない。
逃げるための足運びもしない。
ただ、死を受け入れるためだけに、俺は全身の力を抜いて剣を上段に構えた。
――死ぬ。これでやっと終わる。
そう思った瞬間だった。
生き残ろうとする執着、恐怖による体の強張り、中途半端な防御への意識。そうした「生存本能」の一切を投げ捨てたことで、奇妙な感覚が訪れた。
(……見える?)
死を凝視する極限の集中力が、ほんの僅かだけ、ブラッドウルフの動きを捉えた気がしたのだ。
俺は半ばヤケクソで、上段から剣を振り下ろした。
回避すら一切考えていない、完全な捨て身の突撃。
ザシュッ!!
肩口に熱い痛みが走る。
ブラッドウルフの爪が俺の肉を深く裂いた。
しかし、致命傷には至らない。捨て身で前に突っ込んだことによる極端な前傾姿勢が、偶然にも首への致命の軌道をズラしていたのだ。
それと同時に、俺の振り下ろした鉄剣が、無防備に突っ込んできたブラッドウルフの脳天をカチ割っていた。
「ハァッ……ハァッ……」
ドサリ、と魔物の死骸が崩れ落ちる。
血が滴る右肩を押さえながら、俺は荒い息を吐いた。
マグレだ。完全にただのラッキーでしかない。
もし生き残ろうとしていれば、中途半端に身を引いて、間違いなく喉笛を噛み千切られていただろう。完全に死ぬ気で前に出たからこそ、結果として致命傷を避けて相手を殺せたに過ぎない。
「いっ、てぇ……。けど、まだ生きてる……」
死ねなかった。
なら、次はもっと無謀に突っ込むだけだ。
血の匂いに誘われて、洞窟の奥からさらに複数の唸り声が近づいてくるのが分かる。
俺は再び、血塗れた剣を握り直した。
このオーバースペックな死地に身体を放り込み続ければ、いつか確実に死ねる。
そう信じて、俺は痛む肩を気にすることもなく、魔物の群れへと単身突撃していった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近戦闘シーンを書いていなかったので、ただただ「泥臭い死闘」と「痛みを伴う戦闘」が書きたくて始めました。
高尚なテーマやメッセージ性はありません。死にたがりの男と、後ろから勝手についてきて全回復させてしまう少女。このバグった二人が限界の死線でどんな最適解を弾き出すのか、作者自身もシミュレーションを回すような感覚で書いています。
チートのない血みどろの戦闘がお好きな方は、この先もお付き合いいただけますと幸いです。




