【12】
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
第二層の空気は、これまでとは次元が違っていた。
肺に吸い込むだけで重くまとわりつくような、濃密な死の気配。その冷たい闇の奥から、地響きと共に「それら」は姿を現した。
まるで悪夢を寄り合わせたかのような、二体の異形だった。
一体目は、見上げるほどの巨躯を誇る熊のような魔物だ。鋼のように隆起した筋肉と、丸太のように太い剛腕。その腕が軽く壁を擦っただけで、硬い岩盤が飴細工のようにボロボロと崩れ落ちる。一撃まともに食らえば、肉が裂けるどころか全身の骨が粉々に砕け散るであろう、圧倒的な『質量と暴力』の化身。
そしてもう一体は、その巨獣に寄り添うように蠢く、人間の背丈を優に超える蟷螂のような魔物。暗闇に溶け込むような深緑の外骨格と、そこから伸びるぎらつく二振りの凶悪な大鎌。風切り音すら立てずに滑るように移動するその姿は、想像を絶する『速度と斬撃』を予感させた。
「……ははっ」
乾いた笑いが、自然と喉からこぼれ落ちた。
剛と柔。力と速さ。
見るからに強大で、そして、放たれるプレッシャーからそれがハッタリではない確かな『本物』であることが肌を刺すように伝わってくる。
ブラッドウルフなど束になっても一蹴されるだろう。前衛の分厚い盾も、後衛の強力な魔法も持たない底辺のソロ剣士など、一秒たりとも生き目を晒すことは許されない絶望的な戦力差だ。
(……これだ。これなら、俺を殺せる)
心臓が、大きくドクンと跳ねた。
恐怖ではない。足のすくみでもない。
ようやく探し求めていた本物の死刑台を見つけたという、純粋で歪んだ歓喜の震えだった。
「来いよ、化け物ども」
俺は安い鉄剣をだらりと下げたまま、一切の防御の構えを取らずに二体の強大な魔物を見据えた。
生存本能が完全に焼き切れた脳髄に、異常な量のアドレナリンが駆け巡る。
ズシンッ!!
咆哮すら上げず、熊の魔物が地面を砕いて一直線に突進してくる。
同時に、蟷螂の魔物が姿をかき消し、死角から首を刈り取らんと超高速で回り込んでくる気配がした。
今度こそ、間違いなく死ねる。
俺は歓喜の笑みを浮かべながら、圧倒的な死の暴風が吹き荒れる中心地へと、自ら歓んで身を投げ出した。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近戦闘シーンを書いていなかったので、ただただ「泥臭い死闘」と「痛みを伴う戦闘」が書きたくて始めました。
高尚なテーマやメッセージ性はありません。死にたがりの男と、後ろから勝手についてきて全回復させてしまう少女。このバグった二人が限界の死線でどんな最適解を弾き出すのか、作者自身もシミュレーションを回すような感覚で書いています。
チートのない血みどろの戦闘がお好きな方は、この先もお付き合いいただけますと幸いです。




