【11】
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
剣が風を切る。僅かな抵抗の感覚と共に、三頭目となるブラッドウルフの首が宙を舞い、ドサリと地面に転がった。
「…………」
俺は血濡れた剣を下ろし、自分の身体を見下ろした。
息は全く乱れていない。新しく増えた傷は、左腕に僅かな掠り傷が一つだけ。先日のような、リナの治癒魔法を必要とするような深手は、いくら無防備に突っ込んでも全く負えなくなってしまっていた。
段々、このエリアの危険度が下がってきている。
いや、違う。魔物が弱くなったわけではない。俺の動体視力と身体の反応速度が、ブラッドウルフの機動力に『完全に順応』してしまったのだ。
死ぬために防御を捨てて突っ込んでいるのに、敵の予備動作が見えすぎてしまう。
殺意のベクトルが手に取るように分かるため、身体が無意識のうちに最短距離で致命傷を避け、相手の急所を的確に貫いてしまうのだ。もはや無謀な突撃ではなく、ただの洗練されたカウンター攻撃の連続に成り果てていた。
「これじゃあ、無理だ」
ポツリと呟いた俺の声は、薄暗い洞窟の中に虚しく響いた。
ブラッドウルフ程度では、もう俺は死ねない。
俺が求めているのは、生存本能すら焼き切れるような圧倒的な死地。こんな、あくびが出るほど単調な戦闘の果てにある安い死ではない。
俺は転がる獣の死骸を一瞥すると、踵を返して出口へ向かう……のではなく、洞窟のさらに奥深く、真っ暗な闇が口を開けている下層への通路へと顔を向けた。
ここから先は、中級ダンジョン『黒鳴の洞穴』の第二層。
ギルドの連中の話では、第一層のブラッドウルフを餌にするような、さらに凶悪で強力な魔物が徘徊しているという。まともなパーティーでも、十分な装備と前衛の強固な盾役がいなければ絶対に立ち入らない領域だ。
「そこなら……俺を、殺してくれるか」
冷たく淀んだ空気が、下層から這い上がってくるのが分かる。
生臭く、そして圧倒的な暴力の気配を孕んだ重い風。普通なら本能が警鐘を鳴らし、足がすくむようなそのプレッシャーを前にして、俺の口元は自然と歪な弧を描いていた。
ようやく、まともな死刑台が見つかったかもしれない。
俺は血の滴る鉄剣を軽く振りかぶり、一切の躊躇いなく、より深く絶望的な闇の中へと足を踏み入れた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近戦闘シーンを書いていなかったので、ただただ「泥臭い死闘」と「痛みを伴う戦闘」が書きたくて始めました。
高尚なテーマやメッセージ性はありません。死にたがりの男と、後ろから勝手についてきて全回復させてしまう少女。このバグった二人が限界の死線でどんな最適解を弾き出すのか、作者自身もシミュレーションを回すような感覚で書いています。
チートのない血みどろの戦闘がお好きな方は、この先もお付き合いいただけますと幸いです。




