【10】
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
翌日、再びダンジョンへと向かう道すがら、俺は昨日の出来事を少しだけ思い返していた。
(変な魔法使いもいたもんだ)
戦場に出ると恐怖で魔法が使えなくなるという、致命的な欠陥を抱えた少女。だが、安全圏であるギルド内で見せたあの『ヒール』の威力は本物だった。
とはいえ、それだけだ。俺は死に場所を求めてダンジョンに潜り続けるだけの存在であり、彼女は戦場に立てない魔法使い。住む世界が違うというか、そもそも生きる目的が交わらない。
今後、俺が彼女と深く関わることなどないだろう。俺はそう考えていた。
しかし――その予想は、あっさりと裏切られることになった。
それからというもの、俺がオーバースペックな死闘の末に傷つき、ギルドのあの薄暗いテーブルに座り込むと、決まって彼女が姿を現すようになったのだ。
「……あの、失礼します。『ヒール』」
周囲の冒険者たちが「また最弱の二人が底辺同士で群れてるぜ」と下品な嘲笑を向けてきても、彼女はビクビクと肩を震わせながら、決して俺のそばから逃げ出そうとはしなかった。
淡い光が、ブラッドウルフの牙や爪で裂かれた傷を塞いでいく。俺の無謀な突撃の代償は、彼女の魔法によってあっという間に無かったことにされてしまった。
傷が完全に塞がったのを確認すると、俺は立ち上がり、懐から銅貨数枚と低級魔物の魔石をテーブルの上に無造作に置いた。
「……これ、受け取れ」
「えっ? あ、あの、そんなの受け取れません! 私、勝手にやっているだけで……その、練習にもなりますし!」
慌てて手を振るリナに対し、俺は短く首を振った。
「タダで治癒してもらう訳にはいかない。借りができるのは面倒なだけだ」
「でも……」
「それに、ポーション代よりはずっと安い。俺にとっても得な取引だ。取っておけ」
突き放すような言い方になってしまったが、それが俺なりの本音だった。死に急ぐ身とはいえ、他人の厚意にタダ乗りするほど図太い神経は持ち合わせていない。
俺が背を向けて歩き出すと、彼女はオロオロと戸惑いながらも、やがてテーブルの上の僅かな報酬を、大切そうに両手で包み込んでいた。
それから、それが俺と彼女の間の奇妙な『日課』になった。
俺は死を求めて無謀な戦いを繰り返し、傷だらけで帰還する。
彼女はギルドの片隅で俺を待ち、治癒魔法をかけ、俺はささやかな報酬を渡す。
「今日の傷、昨日よりも深いです……無茶しすぎです……」
「そうか? これでも浅く済んだ方だ」
「痛覚が麻痺してるだけですよ、もう……」
最初は言葉を交わすことも少なかったが、日々治癒を繰り返すうちに、少しずつ雑談めいた会話も交わすようになっていった。
パーティーを組んだわけではない。友達になったわけでもない。
ただ、狂ったように死地へ向かう男と、戦場に立てない臆病な少女という、ふたりの『最弱』の間にだけ成立する、歪で穏やかな契約関係だった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近戦闘シーンを書いていなかったので、ただただ「泥臭い死闘」と「痛みを伴う戦闘」が書きたくて始めました。
高尚なテーマやメッセージ性はありません。死にたがりの男と、後ろから勝手についてきて全回復させてしまう少女。このバグった二人が限界の死線でどんな最適解を弾き出すのか、作者自身もシミュレーションを回すような感覚で書いています。
チートのない血みどろの戦闘がお好きな方は、この先もお付き合いいただけますと幸いです。




