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透明な神経の向こう側  作者: poruru09
第1A部 パトグラフィ

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●事例

〈周期的波動、躁うつ状態〉

 精神的創造力は、いかなる種類のであっても、一生涯を通じて不断に休みなく、かつ少しの変化もなくつづき得るものでは決してない。天才の場合はとくにしかりである。のみならず、傑出人の精神生活の流れにはしばしば独特の波動起伏が見られ、熱情の高揚と疲労の沈滞とがするどい対照をなすものが多い。一たびその霊的活動に口火が点ぜられると、それがもし芸術的天才であるならば、彼の全霊はたちまち浮かび出るもろもろの形象と、ひびきわたるもろもろの音調とで充たされ、もし科学的天才であるならば、湧き出る知恵と直観とで圧倒される。彼は今その胸中に萌え出た想念を有形のものにしようと、夜を日に継いでただひたむきに狂熱的に己を一事に没入する。そしてそれが成熟するとともに、今までの火と燃えた興奮はぱったりと消えてしまって、それからしばらくの間は、完全な倦怠、無思考、無為の日がつづく。―このような精神生活の周期性こそ天才的創造力の特徴であり、それが同じことを繰り返す常人の職業的活動と全く区別される主要な点である。常人の精神生活は伝達と習慣によってはぐくまれるもの、十年一日のような単調な繰り返しにすぎない。


 しかし天才の精神生活におけるこのような著しい周期性は、天才という精神力の最高峰においてのみ認められる形而上的な神秘では決してないのである。それとはむしろ正反対で、いかに秀でた精神活動にせよ、実は宇宙現象と緊密に結びついたものであり、また一方、精神と、他方、肉体およびこれを囲繞する自然現象の諸法則と、離れ難い相関性を持つことを示すものなのである。実に天地星辰の運行に原因して、生きとし生けるものすべて周期性を持たぬはない。四季の移り変わり、月のみちかけ、昼夜の別、これらのけじめに応じて、あらゆる動植物の生の営みは労働と休養に分節される。人類においても、性生活の周期性が、精神生活の周期的分節に対してもっとも有力な生物学的背景を形作っている。青春期のシュトゥールム・ウント・ドラング(「嵐と衝動」)、更年期から老年の衰耗期にかけての深い心情的な動揺、このほか季節の影響によって絶えず繰り返される軽易な精神生活の波動、これらのすべてが、人の感情と行為とを正しく理解するために、ことに天才の創造力を理解する上に、非常に重要な意義を持つ。ところがこれらの一般的法則を越えて、身体と関連を持ついくつかの気質形態がある。そのあるものは強い周期的現象を示すが、他のものにはかかることが少ない。少数ではあるが極端な例では、これらなお正常域の気質や周期がいっそう高まって、一種の精神障害にまで立ち至ることがある。それは周期性あるいは循環性精神病と呼ばれ、特別の遺伝素質の上にあらわれるもので、精神医学ではこれを躁うつ病と呼んでいる。躁うつ病者は、上述したような生物学的影響に対して特に強く反応しやすいばかりでなく、典型的な場合には、この生理的動揺のほかに、一生を通じて規則正しく循環する憂うつ期の哀愁感と精神的抑うつ、躁病期の爽快感と創作衝動とを示すのである。


 人類におけるこの躁うつ性あるいは循環性の素質は、種々の程度であらわれる。すなわち健康な感情家の、きわめて軽い、しかしなおそれと認められる周期的波動から、病者の重篤な抑うつから興奮状態に至るまで、種々さまざまの段階がある。これと同様の素質は天才の中にも見いだされ、時には芸術家の家系に数代にわたってこうした病気が繰り返し発することさえある。このことは理解に難くない。なぜならば、躁病の症状の中に見られるあふれるばかりの生の歓喜、思想の充満、勤労の愉悦等は、ある種の芸術家や学者の天才的創造期とふかく相通ずるところがあり、それと反対にこの病気の抑うつ期は、多くの天才の活動期の中間に介在する精神的空虚、無能、絶望感、疑惑感等に非常に似通っているからである。


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