●カバラ
西暦70年、エルサレムの神殿がローマ人に破壊されて以来、ユダヤ教徒は流浪の民の時代へと入る。
ほうぼうへ散ったが、スペインにたどり着いたユダヤ教の一派が、不思議な花を咲かせることとなった。
11世紀、スペインの地にソロモン・イブン・ガビロールという神秘主義者が現れ、ユダヤ神秘主義とその瞑想体系に対して「カバラ」という名前をあたえた。そして、カバリストたちは着実に増えていった。
1280年、スペインのカバリスト、モーセス・デ・レオンが大作『ゾーハル(光輝の書)』を著す。この書は、古代からこの時代までのユダヤ神秘主義のエッセンスが詰め込まれた内容を有しており、カバラの総体のなかでも最も重要とされている。いわば、『ゾーハル』はカバラの神秘哲学の精髄である。ゾーハルとは、強烈な光のことであり、(西洋で発達した概念としての「神」の)無限の光を意味する。その後、印刷術の革新とともに『ゾーハル』は、さまざまな地域に飛び火していった。地域によっては、内容の深さ、読解する人の心に深く響いてくる神秘性ゆえに、この書を危険なもの、禁書として扱うべきだと主張する人たちも現れた。
『ゾーハル』には、次のような一節がある。
はじめに王が命令を下さんとして心を動かされしとき、
彼はいと高き処の艶やかなる霊気に御徴を刻まれた。
すると一条のまばゆき光が、
最奥の秘められた領域にて、
さながら形なき霧のごとく、
無限の神秘よりほとばしり、
ひとつの円として灯りけり。
かの光、白くもなければ黒くもなく、赤でもなければ緑でもなく、いかなる色も帯びざりし。……
これは、まさしく真空点のことである。「いかなる色も帯びざりし」というのは色が無いのではなく、その逆であらゆる色を持っていて、玉虫色のように見る角度によってどんどん変化していって、一言で言い表せるような言葉がないということである。




