●カオスの縁
生命、社会、文明、どれを取ってもよいが、そこでは長い時間経過に伴い段々と多様で複雑な構造になっていくに連れて、不調和なカオスの中に秩序だった調和したものが形成されていく現象が見られる。しかも、その調和した系は一つではなく少なくとも二つ見られる。だから、社会の場合であれば、矛盾した二つの体系ができて対立構造になっている場合が散見される。
生命現象であれば、例えば脳において、記憶の入力・蓄積を引き受けている海馬は、諸刃の剣のような機能を備えている。そして、一見無駄に見える部分、つまりカオス的な部分が多い。海馬は記憶にとって重要であるが、てんかんを引き起こす原因にもなっている。
そして記憶自体もよく矛盾を起こす。例えば、認知症は認知機能が衰えることで、本来ある事実の記憶を失ったり、不必要な情報が残ったりすることがある。客観的には認知症の人が「作り話」をするという状況が見られても、認知症の本人は「嘘をついているつもりはありません」となる。つまり、客観的事実と主観的事実が矛盾するということである。
イリヤ・プリゴジンの『散逸構造理論』(1977年ノーベル化学賞受賞)、ルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィの『一般システム理論』、古くはファラデーの発見(ロウソクの炎からわかること『ロウソクの科学』第一講 21頁)からはじまる“カオスと統合”の現象(散逸構造、非平衡開放系、複雑系など人によって呼び名は変わる)を追求する多くの研究がある。
カオスの縁とは簡単に言うと、エネルギーの入出力がある状態において、静的すぎず動的すぎない、秩序とカオスのあいだの絶妙なバランスを保っている境界・場のことを指す。木星の大赤班、地球上で起こるハリケーン、生命の自己組織化、経済システムの自立的成長、ロウソクの炎などが例として挙げられる。




