第2A部 社会のゆらぎ
平均化とゆらぎ/カオスの縁/社会とロウソク/エルデシュが見たもの/英雄としてのブッダ/カバラ/リルケが伝えたかったことー「ドゥイノの悲歌」「オルフォイスへのソネット」/奥底にあるもの ー真空点とは何かー
●平均化とゆらぎ
過去200年間のあいだに経済的な先進諸国では社会の不均衡を是正する取り組みが急激に発展した。これによって、不満はあるものの曲がりにも平等な社会というものが実現してきた。裏を返せばその社会に住む人々を平均化する取り組みである。その取り組みはおおむね教育、法の整備、法の執行という形で表れている。この反動として社会の負の資産も生みだされてきた。事実、平等な社会が実現されるようになってからその国の遺産と呼べるようなものはほとんど生まれていない。医師は病によって抽象的な意味で欠損している人を社会で活動できるよう平均的な状態に戻し、警察や弁護士、検事、裁判官は法律という道具を用いて人々の意識を社会のルールという球体の網の中に閉じ込める。こうして人々の意識は平均化され政府にとって管理しやすくなる。しかし、生物である人間がこのような状況にいつまでも我慢できるはずもなく、例えようのない不満が人々の間に鬱積した後、爆発して既存の社会体制を崩壊させる。そして、政府とは固有の形を有しているものではなく、それはわれわれ自身でもある。われわれは自分たちの手で火薬庫を毎年大きくしている。このような状況は一つの定めでもある。
それに対して、平均からは外れている異様な人たちが点在する社会、社会の中のエネルギーの揺らぎが大きい状態では、いろいろな問題が起こりつつも人類の遺産と呼べるべきものが生まれる。中世の時代がそのような状態だったように思う。なんらかの理由により成熟または飽和点に達している社会が破綻してリスタートすると異様な人たちが現れ、またそのような人たちが生き延びる可能性が高まる。河川で洪水が起こると底泥の巻き上げなどにより水中の溶存酸素が急激に減少する。すると河口付近の海で一度生物が大量に死滅するが、しばらく経つと環境が復元した後、それ以前よりもいっそう生物が大繁殖する。この状況に似ている。そうして重要な思想・文化遺産を遺していく。20世紀がそうだったように。実際、二つの世界大戦の前後を境界にして天才数学者の数が爆発的に増えた。19世紀までのどの世紀と比べても20世紀は天才をたくさん輩出した。ただし、この状況は1970年代までの話でそれ以降はその増加率は減少に転じたように思う。
平均化された社会と大きな揺らぎのある社会を両立させる方法、そのような道があるのかは今後の課題だろう。ひとつ考えられる方法としては、いつの時代でも地球のどこかで戦争が起きているから、これを逆手にとってみることである。ある地域で戦争が起こったら、その戦争期間は最長でも5年間というような制限を設けて、停戦後は少なくとも30年間は同地域で戦争をしないという強制ルールを課せば、その30年間のあいだに天才がたくさん生まれてくるだろう。これこそ国際連合や有志国連合が行う仕事になる。




