●人工物からは見えてこないが、その他から見えてくるもの/星空と雪が恋しくて
躁うつ状態になってからは、いろんなことに手を出すようになった。詩作、マンガ創作、思考実験、生き物観察、数学等々 ― どれも軽躁状態に入っているときでないと成果がでない作業だ。ちなみに昔は躁うつ病または双極性障害は四つのタイプに分類されていた。
・躁うつ病一型
しばらくうつ状態に入っていたかと思うと、ある時急に躁状態に反転して、それがしばらく続いたのちまたうつ状態にしばらく入る。二つの極を行ったり来たりするので、双極性障害ともよばれる。うつ状態は冬眠しているクマを思い浮かべていただくとわかりやすいかもしれない。
・躁うつ病二型
うつ状態と躁状態をゆるやかな波のように揺れ動いている。一型よりは激しくはない。ただし波の様子が非定型の人もいるので対処法には注意が必要。
・単極性うつ病
ずっとうつ状態になっている。躁状態は起こらない。躁うつ病の場合、精神科医は通常ごく軽いうつ状態にすることを指標として治療を開始する。薬剤投与の他、偏頭痛への対処と同様に光と音を遮断した暗室で寝ていると改善しやすい。(パソコン、スマホの使用も禁止。)
・単極性躁病
現在はこの状態はないとされている。まれにではあるが人によっては、ずっと躁状態に入っているように見えることがあるので、昔はこの病態があるとされていた。単極性躁状態に見える人でも、詳しく経過観察を行うとうつ状態になっているときがある。
話が少し脱線したがKの話題にもどろう。Kだけなのかよくわからないが躁状態に入っているときは、建築物や標識などの人工物はうつ状態のときと見え方は変わらないが、昆虫や樹木などの自然物は見え方がまるで違うと言っていた。色や形が変わるということはないが、彩度の違いがより繊細にわかるようになったり、表面の質感がうつ状態のときの印象とまるで違うらしい。例えば樹木の表皮は近づいて見なくてもその模様や質感のパターンは非常に奇妙で魅惑的であり、かつ、怖ろしい表情をしていて畏怖の念すらおぼえるとのことだ。Kはよく道ばたの花をじーっと見ていることが多かった。何をしているのか尋ねたら花の生き生きとしている部分と枯れ始めている部分を観察して、その奥底にある生き物の機構を考えていると答えた。
ある冬の時期にいったん帰省してくると言ってきた。雪と星空が見たいという理由だった。そのときKが書いた詩編が印象深い。
詩編『北極点』
故郷に帰省することにした。
視界いっぱいの雪景色と きれいな星空をどうしても見たかった。本能が急かしていた。
この季節、雪模様の空が多く、夜空が晴れわたることは、あまり無いことは判っていた。夜に晴れることをずっと念じながら交通機関に飛び乗った。
12月30日。空想していた。次のような空想だ。
星が遠い 暗藍色の空が落ちる、
街には三角屋根が 子どもの気まぐれで置かれ、
家々ではロウソクの火の粉が 点々と飛び散り窓を灯していく。
真上から雪が降り積もり
その結晶で胸をいっぱいにした苦しい冬の夜、
北極点で爆発する超新星を見た
時の彫り師が 1本刀で彫り上げる人の顔、くだらないと呪っていた
烈しい振幅を赦してくれず、平均律と安定を重視するこの社会では、ただ沈黙して争いごとを回避するしか道を見い出せない。
笑みを見せよう。子どもの笑みを。
色はずむゴムの球、柔らかい唇に花びらの舞いを、
まんまるお目々に見つめられ、無垢の笑顔になだめられ、小さな手足に温もりが。
地獄を見せよう。
緑の木の下で 蛙の手足がちぎれ 腸がひっくり返る。
無数の蝉の目玉が湿った壁に産みつけられ あなたを千の数で凝視する。
天国を見せよう。
蝶になり日向になり 樹液は甘くとろけて、トンボは木漏れ陽に溶けて消えていく。
強くあれ弱くあれ、心が叫ぶ、風が飛ぶ、小立ちが倒れ、星がまたたく、
激塵の砂嵐の中で遠くかすんで見える、ただ一つの光、
それは太陽だ。
花も嵐も街さえも 出し抜き ひたすら目指して駆けて行く。
息せき切って
1月1日。ひたすら街の中とその周縁を歩き回った。空は少し雲っている。
白い雪のブロッコリーが 反射を叫びながら、極小で光の無数の矢を射して来る
こいつ 青い陽射しの中で、無邪気で狂暴な子どもだ。
七色帽子に手をかけて軽く会釈を返す そんな世界の雪景色
こちらとしては 白い北極星がやって来る前に逃げ出す予定。
夜空は曇りで 雪の反射を受けて白く光っていた。
1月2日。今日も曇っている。時々、太陽が顔をのぞかせる。
親に適当な理由を言って外に出る。周縁と街をうろつき回る。コンビニに行ったら、親子連れが入って来て、男の子がこちらを見て何やら変なヤツと思ったか、父親にヒソヒソ声で話しはじめた。どこに行っても、子どもは自然のゆらぎとつながっている、鋭いや。
夜になった。
外はあい変わらず曇っていたが、一部が切れて晴れていた。
ついに来た、待っていた星空が。
なんだこれは、なんだこの空は
今まで何を見ていたのか、予感は的中した。
広くて深淵な虚空に 星が殲滅し 星がその体を恥ずかしそうに震わせている。
雲の流れが星を際立たせ
雲の流れが地球の丸さを訴えつづける。
星は 遥か彼方の地上の都市の灯りだ、
この地に足をハンマーで打ち込まないと 上に向かって落ちていく
奈落は夜空にある。
すべてが相対的に動いている。アインシュタインは こうやって発見したのか、知識と無意識の思考がなせる業なのか、
今はどちらでもいい、ただこの時を酔いしれよう。
人はひたすら信じ行動すれば いつかは願いが叶うと実感した。
新しい発見は常に 人が再現できない自然から訪れる。




