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透明な神経の向こう側  作者: poruru09
第1A部 パトグラフィ

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●序

第1A部 パトグラフィ


序/パトグラフィとは/アイヒバウムの研究紹介/クレッチュマーの研究紹介、ダイモニオン/天才の定義と概観/躁うつ質と分裂質/躁うつ状態の特徴/事例

 パトグラフィと天才は切っても切れない関係があるが、先にこの本で述べる天才とはどういう存在かをイメージで伝えておきたい。天才の定義づけはあとで行う。Kという人物が書いた詩編を載せておこう。この詩作はよく表現できていると思う。



  詩編『片腕で泳ぐ人』

生きている間に2回訪れることはないだろう、と思っていた。

長く苦しい恋愛のような航海者の状態に。


若いときは、知識も経験もなかった。この状態がもたらす、恩恵と不幸の行く末がわからなかった。持て余していた。道標になる過去の見者たちの遺産はあったが、本人たちはもういない。生きている手本を見つけることはできなかった。

このまま社会に出ても、うまくやっていけないだろうことは判っていた。

無意識のうちに、未練たらたらのまま、開いた感覚を閉じることにした。

過ちだった。


泳ぎかたを身につけることが重要だ。


多くの人は自覚しないまま時を過ごしているようだ。

太陽の光が、無数の反射の末に その目に届いているということを、

葉脈の輪郭には、太古の死滅した蟲たちのざわめきが宿っていることを。


泳ぎかたを身につけることが重要だ。多くの人がまだ辿り着いていない海で、泳ぐやり方を。


見たことのない海だ。

世界の淵の細い線上に存在しながら、

広くて深く、乳白色に輝くかと思えば、

オーロラのように虹が揺らめいたり、突然 光が爆発したり、

一向に変化というものが収まる気配を見せない海だ。


先に辿り着いて泳いでいた人達がいたが、みな奇妙だ。

逆立ち姿勢でぷかぷか浮いてボーフラのように風に流されるままにしていたり、

片腕を岸辺に置いて、クロールで沖へ行ったり。


この海には、指導してくれるスイミングコーチがいない。でも それだけ分かっていれば十分だ。


まずは、半透明の精霊たちがまとわりつく海水に、くるぶしを浸すことにしよう。






 全員ではないけれども天才のうち、ある悟りの状態に入った人は、自分自身が受容器のようになっている風に感じる人もいる。これも先にイメージで伝えておきたい。これもKの詩作だ。



  詩編『受粉。』

心の奥底にある真空点。そして、空に投影される真空点。こいつはとんでもなく厄介なやつだ。

春の針葉樹林たちの空気を黄色に染める揺さぶりのように、海底に向かって降り積もっていくマリンスノーのように、たくさんの花粉を真空点はゆっさゆっさとまき散らしている。


真空点に近づけた者は、その花粉を受粉することができて、天才数学者ポール・エルデシュが見ていたという地上には存在しない「The Book(天書)」に書かれていることが時折垣間見えるようになる。

あるいは、実際に体験できたように1日のうちに20個も新しいアイデアが頭上に落ちてきたり、胸とお腹の海底から泡のようにアイデアがプクプクと湧き出してきて、アイデアの洪水によって充満した幸福感に包まれる。その幸福の館は、まるでほうぼうでパチパチと光の点が明滅している雲海の上にふんわりと横たわっているような心地よい浮遊感と多幸感を味わえる。


真空点というわれわれすべての存在の中に眠っている太古から続いている生命の樹の源。この樹が新しい季節に入って、苦しみを伴う新たな生命を産む活動に入ったときに、われわれはいつでも受粉できるように前もって準備だけはしておこう。

だって、真空点が何を考えていて、どんな行動を取ろうとしているのか、わたしたちにはまったく予想できないのだから。

ただその時が来るのを願い、日々の活動に追われていても真空点の方向を見つめながらじっと待って、いつでも受容器としての役割を果たせるよう準備だけはしておこう。

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