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Another 9 〜side 黒瀬〜 マッドサイエンスと理論と修行1

本日もよろしくお願いします。


今日は黒瀬視点にしてみました。

楽しんでいただけたら幸いです。


野蒜のイラストをAIさんに生成して貰いました。

良かったら見て下さい。


https://x.com/4gatsuumare55/status/2042215180210487641?s=46


---黒瀬視点---


さっきまでの、あの心地よい知識と理論の海はどこへ消えてしまったのかしら。


視界がチカチカする。脳が熱い。オーバーヒート寸前のハードディスクみたいな異音が、自分の耳の奥で鳴っているような気がする。


目の前では、伝説の化生――役小角えんの おづぬさんが、相変わらずの泰然自若とした構えで拳を突き出そうとしている。


スローモーション? 冗談じゃないわ。芳恵がさっき、最新鋭の20式小銃の弾丸すら弾き飛ばす「金剛」の理をもってしても、どれほどの衝撃を受けていたか。自衛官として極限まで鍛え上げた彼女があれだけ顔を歪め、大地に膝をついていたのよ。


対して、私はどう? 顕微鏡とキーボードがお友達の、自称・美しきマッドサイエンティスト。文化系研究職の私が、芳恵と同じレベルの衝撃をまともに食らったら、文字通り「塵」になって消滅して、明日にはこの森の肥料にでもなっているに違いないわ。


「……ッ、はぁ、はぁ……」


混乱し、本能的に逃げ出そうとする思考を、無理やり数式の檻に閉じ込める。


パニックは思考の停止を招く。それは死を意味する。

私は、先ほど小角さんに教わった複雑な幾何学紋様を一心に思い描く。


流す魔力量を増大させれば、比例して結界の強度は増す。それは理論的にも、魔力を視認できるようになった今の直感でも理解できる。けれど、その強度が「小角の拳」という、もはや物理法則を超越した質量に対して足りているのか。その境界条件を導き出すための変数が、あまりにも足りなすぎる。


いきなりぶっつけ本番のデバッグで、自分の命を賭けるなんて! 研究者としてはあるまじき「非論理的」かつ「野蛮」な行為だわ。不安と恐怖で、自分でも情けないくらい鼻水が出てくる。拭いたいけれど、意識を逸らせば紋様が霧散する。

このままだと、私の生存確率は限りなくゼロに近い。


今の手持ちの手札、この限られたリソースでどうにかして生存ルートを確保するしかない。


視界の端では、芳恵が「おー、次、桜か。頑張れー」みたいな顔で傍観している。あの脳筋な一尉のことだわ。きっと「黒瀬三佐なら、何か賢いことして耐えるでしょ。いい訓練じゃない?」なんて気楽に思っているに違いない。


……いいわよ、助けは期待しない。自力でこの死地を論理ロジックで突破してやるわ。


深呼吸。小角さんに叩き込まれた「呼吸」と、脳内での「紋様構築(結界)」。この併用は最低条件。

でも、もう一つくらい、生存を担保する「保証」を重ねたい。

死への恐怖が、私の脳細胞をかつてない速度で回転させる。

ニューロンが火花を散らし、最適解を探して情報の海を泳ぐ。


(……そうだわ……重ねればいいのよ!)


一つの強固な壁(結界)を張るんじゃない。複数のレイヤーを展開するの。

もし一枚の強固な壁を作ったとしても、それが「小角の拳」のエネルギー最大値を超えられなければ、一撃で粉砕されて終わり。衝撃はダイレクトに私の華奢な体に突き抜ける。

けれど、結界を複数枚重ねればどうかしら?

慣性と衝撃を、段階的に分散させる。


一枚目が衝撃の先端を削り、二枚目が拡散させ、三枚目が残った運動エネルギーを収束して受け流す。


強度の高い素材の矢を一本折るより、ある程度弱い素材でも三本の矢を束ねる方が強い……なんて、どこかの戦国大名みたいな教訓があったけれど、あれを空間工学的に解釈するのよ!


「そうよ……! 今、一つの結界に注いでいる魔力リソースを、三等分して三枚の結界を作ればいいじゃない!」


さらに、野蒜ちゃんが言っていた「イメージ」を繋ぎ合わせる。彼女は雨を生み出した時、範囲指定を「なんとなく」の感覚で出来ると言っていた。それを理論化するなら、空間の座標定義よ。


結界と結界の間にわずかな空間バッファを設ける。衝撃を逃がすための「積層構造ミルフィーユ・ストラクチャー」。これなら、衝撃波の干渉によって互いのエネルギーを相殺できるはず……!


私は高速で脳内の処理ルーチンを書き換え、頭の中に三つの紋様を同時に描き始める。


芳恵がやっていた身体強化(金剛)以上の、膨大な並列処理の過負荷が私の脳を襲う。


前頭葉が焼けるような感覚。鼻血が出そう。けれど、純粋な脳の演算能力と、抽象的な幾何学の保持能力に関しては、現場叩き上げの芳恵より私に部があるわ!


『いくぞ。』


小角が静かに言葉を発した。

その瞬間、私の主観時間はさらに引き延ばされ、世界が静止する。


ゆっくりと。


逃げることの叶わない、巨大な運命の車輪のような拳が突き出される。

私の目の前に、直径20cmほどの小さな円形の紋様が三つ、正確な幾何学的間隔を保って重なり、展開される。


「……っ、こい……こいッ!!」


奥歯をガチガチと鳴らし、全身の毛穴から冷や汗を吹き出しながら踏ん張る。

そして、拳が「一枚目」に触れた。


パリンッ!


硬質な、硝子が砕けるような音が脳内に響く。

エネルギーの第一波が結界を粉砕したが、その勢いは確実に削がれた。


パリンッ!


二枚目。空間に配置したバッファが衝撃を拡散させる。

残ったのは、純粋な「重圧」の芯。


――ビキィィッ!!


三枚目の結界に、無数の亀裂が走る。

私の目の前数センチのところで、小角さんの拳が止まった。

結界から散る青白い火花が、私の瞳を照らす。


『ウム、悪くない。理に頼る者なりの、狡猾な知恵じゃな』


小角が満足げに拳を引くと同時に、私が頭の中で維持していた三枚目の紋様が、さらさらと砂のように崩れ去った。


「……っ、げほっ! はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


私は、滝のような冷汗を流しながら、膝から崩れ落ち、その場へへたり込んだ。

心臓の鼓動が耳元で鐘のようにうるさい。指先がガタガタと震えて止まらない。


死。今、私は死の淵を覗き込み、理論という細い糸一本で生還したのだ。


けれど、そんな私の命がけの「デバッグ作業」を傍で見ていた芳恵が、信じられないものを見るような目で固まり――。

次の瞬間、顔を紅潮させて叫び出した。


「……ちょっ! ちょっと桜!? 何それ、超カッコイイんですけど! 三枚重ねのバリア? 積層シールド? 演出、凝りすぎじゃない!?」


「……は?」


「ズルいわ! 私なんて地味に『ウリャーッ』って耐えてただけなのに、桜のはなんかバトルマンガみたいで超映えるじゃん! 私もそういうエフェクト付きの防御が良かったんだけど!」


今度は、脳筋の芳恵が、その「見た目のカッコよさ」に嫉妬して騒ぎ出す番だった。


私の命がけの、脳が焼き切れるほどの試行錯誤を「映える」や「エフェクト」の一言で片付けるあたり、やっぱりあの子とは根本的に生きている次元が違うのだと、私は遠のく意識の中で再確認した。


(……いいわよ……カッコイイって……最高の褒め言葉として受け取っておいてあげるわよ……)


私は、泥にまみれた手のひらを見つめ、小さく、獰猛な笑みを浮かべた。

科学マッドサイエンスと魔術の融合。その入り口を、私は今、確実にこじ開けたのだから。


面白ければブックマーク、評価などお願いします。

作者のモチベーションになります。

よろしくお願いします。


いつも読んでいただきありがとうございます(^ω^)


リアルアップデートそろそろまた二日程お休みします。

4月10日の0時は投稿します。

11日と12日はお休みします。

13日の0時にはまた再開します。

次は本編の野蒜編を再開しようと思っています。


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