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Another 8 〜side 佐々木〜 ギャルと修行3

本日もよろしくお願いします。

『では、先程と同じ拳をその状態で受けてみよ』


切り株から降り立ち、地を踏み締めた役小角えんの おづぬの言葉は、静まり返った広場に冷徹な宣告のように響き渡った。


「……ッ、来い!!」


私は、内側から溢れ出す「熱」を逃がさないよう、奥歯を強く噛み締めて構えをとる。


全身の血管をマグマのように駆け巡る魔力。これを維持しながら動こうとするだけでキツイ。自衛隊のレンジャー訓練だってこれほどじゃなかった。呼吸を一定のリズムで保ち、姿勢の芯を一本の針のように真っ直ぐにし、なおかつ体内のエネルギーを循環させ続けながら、眼前の「伝説」に対処する。


(ヤバい……。これ、情報の同時処理がマジで限界突破してるんですけど。マルチタスクにも程があるでしょ!)


近代兵器の操作なら、マニュアル通りに指を動かせばいい。でもこれは、自分の体という未知のブラックボックスを、手探りで、かつ精密にハッキングし続けるような感覚だ。少しでも意識が逸れれば、せっかくの「黄金のサーキット」は霧散し、私はただの「無防備な女」に戻ってしまう。


そして、あの拳が再び動き出した。


スローモーション。秒速10センチの、あくびが出るほどゆっくりとした突き。


だが、魔力の循環を高め、感覚を研ぎ澄ませた今の私の視界には、その「見え方」が前回とは全く違っていた。


小角の拳の先に凝縮された青白い魔力が、大気を削り、空間そのものを歪ませながら、巨大なプレス機のように迫ってくるのがハッキリと捉えられたのだ。


(来る……!! 逃げたい、けど、逃げたら死ぬ!)


逃げ出したくなるような圧倒的な圧力が、正面から私を押し潰そうとする。


これがもし、実戦での「速い攻撃」であったならばと想像して、背筋に凍りつくような冷たいものが走った。今の私には、このゆっくりとした攻撃に合わせて魔力をガード一点に集中させるのが精一杯だ。


私は、両腕のアームガードを盾にするように重ね、そこに体内の「黄金のサーキット」から強引にエネルギーを流し込み、硬化させるイメージを描いた。


「流れて……ここに、全部溜まりなさいよ!!」


小角の拳が、私のアームガードに接触した瞬間。


ガキィィィィィンッ!


肉体同士がぶつかったとは思えない、高圧電流がショートしたような、あるいは鋼鉄の槌が鐘を叩き潰したような、激しい金属音が炸裂した。


「ぐ、うぅぅ……ッ!!」


足元の地面がメリメリと音を立てて沈み込み、タクティカルブーツの裏が深く土を削る。


全身の骨が悲鳴を上げ、肺の中の空気が無理やり押し出されそうになるが、私の足はしっかりと大地を掴んでいた。


腕に集中させた私の魔力の膜が、小角の「青い光」と激しく火花を散らし、中和し合っているのが見えた。


『ほう。……一考に値する。形にはなっておるようじゃな』


小角が不敵な笑みを浮かべたまま、スッと拳を引く。

その瞬間、張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れ、私はその場にガクリと崩れ落ちるように膝をついた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。マジ……しんどすぎ……。死ぬかと思ったし……」


「芳恵! 今の、今の見た!? 衝突の瞬間、アームガード表面の魔力密度が通常の400%まで跳ね上がったわ! 測定器の針が振り切れて、危うく回路が焼き切れるところだったわよ!」


隣で黒瀬が、知的好奇心に瞳をギラつかせながら駆け寄ってくる。そんな興奮気味の黒瀬に、小角が視線を向けた。


『次は、そなたの番じゃな』


「えっ」


黒瀬の顔が瞬時に青ざめる。


「無理無理無理無理! 私、そんな脳筋……失礼、フィジカル重視の修行、一秒で粉砕されてデリートされますから!」

と全力で首を振った。


『安心せい。そなたに佐々木と同じことは求めぬ。……そなたは魔力そのものへの構成力、干渉力が高いと見る。まずは、この紋様を魔力で描いてみよ』


小角が地面に杖を走らせると、淡い光を放つ複雑な幾何学模様が現れた。それは魔法陣のようでもあり、高度な電子回路図のようでもあった。


それを見た瞬間、黒瀬の恐怖心は一気に霧散し、知的好奇心が完全勝利した。彼女は磁石に吸い寄せられる鉄屑のように、紋様の元へ走っていく。


『佐々木よ、そなたはその「強化(金剛)」の状態を維持することに慣れろ。……黒瀬、そなたはそれを魔力でなぞり、構築してみよ』


小角に命じられ、黒瀬は集中し始めた。いつもは落ち着きがなく騒がしい彼女が、まるで顕微鏡を覗き込む外科医のような真剣な眼差しで、指先から魔力を紡ぎ出す。


驚いたことに、黒瀬は扱い慣れないはずの魔力を、まるで愛用の関数電卓を叩くように精密に、正確に操り始めたのだ。

しばらくして、黒瀬が紋様を描き終える。すると――。


ブンッ!


という重厚な低音とともに、紋様の上に半円形の、薄く青白い光の膜が出現した。


「……できた。私、今、歴史を塗り替えたわ! 生まれて初めて『魔法』を、論理的に構築して発動させたわよ! 見て芳恵、この幾何学的美しさ!」


先程教わったばかりの呼吸も姿勢も完全に忘れ、子供のように狂喜乱舞して騒ぎ出す黒瀬。


(……あー、うるさい。耳に響くし。てかこっちは維持するだけで必死なんだから、少しは静かにしなさいよ!)


反射的に、私は「黙ってなさい!」とツッコミのつもりで、横で跳ね回る黒瀬の肩をどついた。実際には動いていた黒瀬の顔にクリーンヒットした


その瞬間。


ドゴォォォンッ!


「あべしっ!?」という情けない絶叫をこの世に残して、黒瀬が2メートルほど水平に吹っ飛んで地面を転がった。


「……あ。」


忘れていた。私は今、魔力で全身を「超強化」したままの状態だったのだ。軽く突いたつもりが、大の大人が数メートル吹っ飛ぶくらいの衝撃になってしまったらしい。


慌てて魔力を解き、黒瀬の元へ駆け寄り、助け起こす。


「さ、桜!? 大丈夫!? 生きてる!?」


黒瀬は白目を剥いて完全に気を失っていた。しかも、叩いた方の頬がリンゴのようにパンパンに腫れ上がっている。……めちゃくちゃ気まずい。上官を物理的に「わからせて」しまった。


『どれ、見せてみよ』


小角が歩み寄り、気絶した黒瀬の頭を、愛の鞭ならぬポカりと軽い音を立てて叩いた。

すると、まるで電子機器を再起動させたかのように黒瀬の意識が急速に戻り、驚くべきことに顔の腫れまで一瞬で引いていく。


「はっ! い、一体何が!? 重力の異常反転!? あるいは空間の跳躍現象!?」


どうやら黒瀬は、私にどつかれた瞬間の記憶だけが、綺麗さっぱり消去されているらしい。


「…………。」


私は黙っていることにした。これが、荒波を生き抜くギャルの処世術である。


『……先程の紋様、次は地面ではなく、頭の中で描けるか?』


小角が、何事もなかったかのように黒瀬に問いかける。

黒瀬は指示に従い、ゆっくりと目を閉じて意識を集中させた。すると彼女の周囲に、再び「ブンッ」という音とともに先程と同じ半円の膜が展開された。


『それが「結界」じゃ。それがあれば、身を守ることができる』


『だが維持するためには、常にその複雑な紋様を脳内に精緻に描き続けねばならぬ。当然、体内の魔力も消費し続ける。佐々木の「金剛」とは違い、結界を張りながら同時に思考し、別の行動を行うのは、容易なことではないぞ』


説明を終えると、小角が再び、あの静かで恐ろしい構えをとった。


『それでは、その「結界」で、今度はワシの拳を受けてみよ。理論通りにいかぬのが、実戦というものよ』


黒瀬の顔が、再び幽霊でも見たかのように引き攣った。

泣きそうな声を出しながらも、黒瀬は懸死の覚悟で結界の出力を上げた。

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作者のモチベーションになります。

よろしくお願いします。


いつも読んでいただきありがとうございます(^ω^)

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