Another 3 〜side 佐々木〜 ギャルの本心
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佐々木芳恵二尉は、腕の中で「データ!サンプル!未知のエネルギー波形!」と喚き散らす黒瀬桜三佐を、プロの関節技で制圧しながら、その瞳の奥に鋭く冷徹な、しかし情熱を秘めた光を宿らせた。
(これ、マジで千載一遇のチャーンス……! ここでスカしたら、一生後悔するレベルなんですけど!)
意思疎通が可能な異世界の存在。それは、野蒜たちからもたらされた断片的な情報や、以前に政府の極秘ルートを通じて『彼女』から伝えられた警告によって、最悪かつ最良のシナリオとして想定されていた事態だった。
かつて日本の、いや世界の先駆けとして未知の領域へ踏み込み、その代償として現在は公の場から姿を消し、接触することさえ困難になっている『彼女』の情報。それは今の日本政府にとって、暗闇を照らす唯一の松明だった。
しかし現在は『彼女』との接触が困難になってしまっている。
だが、その松明を引き継ぎ、実際に異界の存在とコンタクトを取れる現場の「鍵」は、今や女子高生である野蒜やミシェルという、あまりにも若く、あまりにも脆い肩に委ねられていた。
(……ぶっちゃけ、政府の期待値、マジで重すぎ。あの子たちの細い肩に、日本の、いや世界の未来全部乗っけるとか、正気の沙汰じゃないし。そんなの、大人の面目が立たないっしょ!)
佐々木は、普通の女子高生として放課後を謳歌し、恋や進路に悩んでいるはずの野蒜たちに、国家レベルの重責や、下手をすれば命のやり取りさえ伴う「未知との対峙」をすべて背負わせることを、心の底から良しとしていなかった。
自分が高校生だった頃のことを思い出す。
あの頃の自分は、中身は今と変わらず「超ギャル」だった。何も考えずにゲームセンターのプリクラ機に5人で入り、最新のポーズで何枚も撮りまくり、恋バナでファミレスを何時間も占拠し、バイト代をすべて新作のコスメや服に全振りしていた。
「夜遊びしに行こうよ!」と盛り上がって、原チャリを転がして女友達5人で夜の堤防に並び、派手なメイクのまま無言で竿を出すシュールな光景は、今思い出しても笑えてくる。釣れたのが小さな小アジ一匹だけでも、それだけで世界がひっくり返るくらい笑い合えた、あの無敵な時間。
そんな、大人から見ればくだらなくて、でも本人たちにとっては宇宙よりも重たい「キラキラした時間」を、野蒜たちにも過ごしてほしかったのだ。
(ここで私が、少しでも有用な情報を引き出すことができれば。あの子たちの負担を、ほんの少しでも肩代わりしてあげられる。それに……「ゴースト」とか呼ばれてる他世界からの侵略者(?)から、あの子たちを物理的に守るためのヒントだって掴めるかもしれないし!)
中身は完全なギャルであり、思考回路のベースは「アゲ」か「サゲ」か。だが、自衛官としての佐々木芳恵は、並み居るエリートを追い抜いてきた極めて優秀な「現場のプロ」であった。一瞬の思考で、彼女は「今ここで取るべき最適解」を弾き出した。
「……よし。桜、解放してあげるから大人しくしなさいよ。もし失礼なことして交渉が決裂したら、マジであんたの為に一生ご飯作らないからね。分かった?」
「んぐっ、んんっ!(分かった、分かったからその指を離して!)」
黒瀬をゆっくりと解放し、佐々木は切り株の上のゴブリンへと向き直った。
その瞬間、彼女の背筋は鉄の規律を注入されたかのように真っ直ぐに伸び、表情からは一切の遊びが消えた。それは、部下たちが畏怖する「鉄の女・佐々木二尉」の完成された姿だった。
「私たちが話し相手でよろしければ、ぜひお話をお聞かせください。」
丁寧すぎるほどの姿勢で答えながら、隣で鼻息を荒くして観測機器をいじり始めようとした黒瀬の首根っこを掴み、無理やり自分と同じ角度で頭を下げさせる。
「よろしくお願いします!!!」
黒瀬も、抑え込まれていた反動か、叫ぶような気合で唱和した。彼女の手元では、いつの間に準備したのか、ポータブルの魔力測定器や超指向性マイク、さらには未知の波形を記録するための特殊デバイスがすでに起動し、淡い青色の光を放っていた。準備完了までわずか数秒。流石はマッドサイエンティストである。
佐々木は一呼吸置き、正式な自己紹介を始めた。
「私は佐々木芳恵。この国を守る『自衛隊』という組織に所属する一等陸尉です。そしてこちらは、科学調査を主導する黒瀬桜三等陸佐。……失礼ながら、まずはあなた様のお名前をお聞かせ願えますでしょうか?」
丁寧かつ、相手を「個」として尊重する問いかけ。
切り株の上のゴブリンは、深く刻まれた皺の寄る瞼をゆっくりと動かし、どこか遠い、時間さえも超越した空の果てを見つめるような目で答えた。
『……名前、か。久しく呼ばれておらなんだが。……左様、遠い昔、日ノ本と呼ばれた地におった頃は……人々から「役小角」と呼ばれておったな』
「えんの……おづの?」
佐々木が、その古めかしい響きに一瞬だけ思考を停止させ、記憶のデータベースを検索した。
だが、その検索が完了するより早く、隣の黒瀬が「ッ……!!」と、肺の中の空気をすべて吐き出すような悲鳴に近い声を上げた。
「役、小角……!? 飛鳥時代から奈良時代に実在したとされる、修験道の開祖……? 伝説の呪術者にして、神変大菩薩の送り名を持つ、あの……!?」
黒瀬の瞳が、これまでに見たことがないほど激しく明滅する。彼女は猛烈な勢いで、首が折れんばかりに頷きながら、手元のタブレットに猛烈な速度でメモを叩き込み始めた。
「ゴブリンという異形の姿を借りてはいるけれど、その魔力の波形……指向性のある思念伝達。伝説にある『式神を操り、空を飛んだ』という逸話は、高密度の魔力操作による重力制御だった……!? ああ、素晴らしい! 歴史と科学が今、私の目の前で交差してるわ……っ!」
「ちょっと、桜! 落ち着きなさいってば!」
黒瀬の限界突破した独り言を必死に抑え込みながら、佐々木は静かに息を呑んだ。
目の前の、日向ぼっこをしていた小さな存在が放つ空気が、その名を聞いた瞬間に、千年の重みを伴った圧倒的な重圧へと変質したように感じられたからだ。
役小角。かつて鬼を従え、山々を駆けたという伝説の男。
そんな存在がなぜ、現代の富士の裾野に、それも西洋の怪物を思わせるゴブリンの姿で現れたのか。
佐々木の背中を、心地よい緊張感と、それ以上に強烈な「予感」が駆け抜ける。
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