another1 ギャルは霧の中を進む
本日もよろしくお願いします。
遅くなりました。
ちょっと今、海外の留学生が来て居て遅くなりました。
これからちょっと遅れる日がちょくちょくあるかもですが、続けていくつもりなのでよろしくお願いします。
佐々木の視点です。
内心との外面のギャップがあります。
〜佐々木side〜 佐々木視点
ペンション『のびのび』から森へと野蒜達と出発した。
しかし視界が、瞬時にして真っ白な深淵へと叩き落とされた。
さっきまで確かにそこにいたはずの、鮮やかな新緑の木漏れ日も、湿った土の匂いも、すべてがこの異質な白銀の帳に飲み込まれていく。
「……霧? 全員、警戒せよ! 互いの距離を詰めろ、一人も逸れるな!」
私の喉から響いたのは、訓練で骨の髄まで叩き込まれた、冷徹で揺るぎない指揮官の声だった。背筋を伸ばし、周囲を鋭く睥睨する。その姿は、部下たちの目には「鉄の女」そのものに映っていただろう。
だが、その強固な仮面の裏側では、私の本音が語彙力を完全に消失させて、絶叫のパレードを繰り広げていた。
(ちょ、待って待って待って! この霧、マジでエグくない!? 10センチ先も見えないとか、どんな無理ゲー!? もしかしてこれ、例のヤバいやつ!?)
「野蒜――っ!」
「嘘でしょぉ! またこれーー!!」
霧の向こう側から、引き裂かれるようなミシェルさんの叫びと、どこか自棄気味な野蒜ちゃんの絶叫が響いた。
それが、二人の存在を示す最後の物理的な振動となった。
一瞬だけ、悪戯のように風が吹き、霧が薄らぐ。私は目を凝らした。必死に、縋るようにその先を追った。だが、そこにはもう、いたはずの少女たちの影も形も残っていない。
隊員達は呆然とする。
(うわあああ、消えた! マジで消えた! 預かった大事な女子高生、それもこれからの希望みたいな子たちをロストしたとか、どうしよう!ご両親にも安心しろとか言っちゃったし! 責任問題とか報告書とか以前に、あの子たちに何かあったら私、マジで立ち直れないんですけど!)
心臓が早鐘のように打ち鳴らされる。冷や汗が背中を伝う。だけど、私は眉ひとつ動かさない。唇を噛み締め、凛とした立ち姿を維持し続ける。それが「佐々木二尉」という役割なのだから。
「……佐々木二尉、見てください。この霧、ただの気象現象だと思ったら大間違いよ。スペクトル解析の波形が笑っちゃうくらい狂ってるわ。未知の粒子が異常に励起してる……ふふ、ゾクゾクするわね。もっと近くで観測したいわ」
隣でそうのたまったのは、黒瀬一尉だ。
こいつは、私の本性が「10Q(イチマルQ)」のフロアを隅から隅まで知り尽くしていた、コテコテの元ギャルであることを知っている数少ない一人だ。
震災の時、瓦礫の中から私を救い出してくれた、あの泥まみれで最高にクールだった自衛隊員さんに憧れて。気合と根性でパラメーターを「硬派」に全振りして、黒髪・薄化粧・鉄の規律を身に着けてここまで登り詰めた私。だけど、隣にいるこのマッドサイエンティストは、事態が悪化し、科学の常識が通用しなくなればなるほど、目が獲物を見つけた猛獣のようにランランと輝き出す。正直、この状況下では霧よりもこいつの笑顔の方がホラーだ。
「黒瀬、分析は後だ。これ以上の深追いは自殺行為だ。一度撤退し、態勢を立て直す。……全員、私の指示に従え! 撤退開始!」
(野蒜ちゃん、ミシェルちゃん、マジでごめん! 弱気な指揮官でごめん! でも、ここで全滅したら助けにも行けないから! 後で絶対迎えに行くから、今はとにかく生きてて!)
内心で八百万の神に必死で手を合わせながら、私は反転し、部下たちを促して森の出口を目指した。
的確な合図、無駄のない挙動。周囲の隊員たちは、迷いのない私を見て安堵のため息を漏らしている。
だけど、中身の「私」は、ホラー映画の予告編ですら目を逸らすほどのビビり女子である。土偶の事件からこっち、起きている事象が完全に「マジ手に余るんですけど!」とキャパオーバーを起こし、脳内では半分泣きが入っていた。
しかし、現実はさらに容赦なく追い打ちをかけてくる。
歩いても、歩いても、景色が変わらない。いや、そもそも「景色」なんて呼べるものはもう存在せず、ただ真っ白な空間を、幽霊のように彷徨っている感覚だ。
「……おかしいわね。私のGPSと歩数計算、それに慣性航法システム上の数値では、もうとっくに出口を通過して、ペンションの駐車場に突っ込んでいるはずなんだけど」
黒瀬がタブレットの光を顔に反射させながら、不気味な笑みを浮かべて呟く。
その言葉を聞いた瞬間、私は気づいてしまった。いつの間にか、周囲を満たしていたはずの隊員たちの規律正しい足音が、完全に消失していることに。
「おい……っ、誰かいないか! 返事をしろ! 第三小隊!」
声を張り上げる。だが、返ってくるのは冷たく湿った空気と、不気味な静寂だけだ。自分の声が、霧の壁に跳ね返って自分に戻ってくる。
(いやああああ! 何これ! 何なのこれ! 昼間なんですけど! 太陽出てるはずなんですけど! こんな古典的なホラー展開、マジで勘弁なんですけど! 誰か、誰でもいいから助けて!)
内心涙目で、貸与品の無線機を震える手で叩く。しかし、スピーカーから流れてくるのは、地獄の底から響くようなザラザラとしたノイズだけだった。完全に、孤立した。
どうしようかと、足がすくみそうになったその時。
重苦しい白銀の世界の端に、ぼんやりと、だが確かな意思を感じさせる「明るさ」が滲んでいる方向があることに気づいた。
(光……? 出口!? それとも、獲物を誘い出す提灯アンコウの誘引突起!? ……いや、でも、ここに留まって黒瀬の不気味な考察を聞き続けるよりはマシかも!)
「黒瀬、あっちよ。光が見える。……離れるんじゃないわよ、行くわよ!」
「ええ、喜んで。あの光が異次元への入り口だとしても、事象の地平線を見届けられるなら本望だわ……ふふふっ!」
私は、今にも光の中に飛び込んでいきそうな、この危なっかしいマッドサイエンティストの腕をガシッと掴んだ。半分は彼女の暴走を止めるため、そしてもう半分は――暗闇と霧が怖すぎて、誰かに触れていないと精神が崩壊しそうだったからだ。
「行くわよ。一歩も遅れるな!」
私は「鉄の女」のトーンを最大まで引き上げ、自らその光り輝く白い深淵へと、震える足で突き進んでいった。
(ああもう、マジで帰ったら絶対、もう自衛官とか関係なく最強に可愛いネイルしてやるんだから……!)
そんな、場違いで、だけど切実な「どうでもいい事」を心の支えにして。
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