52話 少女はどうでも良い事を考える
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予約ミスってました(>人<;)
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光り輝く花々が点綴された洞窟の通路は、まるで星屑を敷き詰めた夜道のように美しく、二人の少女の足元を静かに照らしていた。壁面に咲く淡い光を湛えた花々は、先ほどまでの「魔術」の余韻を噛みしめるには十分すぎるほどの幻想的な雰囲気を醸し出している。
野蒜は、自身の足音を聴きながら、ふと思い出したように足を止めた。背負ったリュック――自衛隊からの貸与品である、機能性一点張りの頑丈なバッグ――を下ろし、そのサイドポケットを弄る。
「あ、そうだ。黒瀬さんに頼まれてたんだっけ」
取り出したのは、特殊な樹脂製のサンプル採取容器だ。野蒜は、足元に群生する小さな、それでいて力強い生命力を感じる未知の植物を、根を傷めないよう指先で丁寧に掘り起こしていく。その手際は、かつて父親と山菜を採り歩いた経験が活きているのか、驚くほど無駄がない。
少し先を歩いていたミシェルが、足を止めて振り返った。
「黒瀬さんから言われたサンプル採取ね。……なんだか、本格的な調査員みたいで様になってるわよ」
ミシェルが柔らかく微笑む。その何気ない立ち居振る舞いにも、どこか洗練された空気が漂っている。野蒜は容器の蓋をパチンと閉めると、照れくさそうに笑った。
「えへへ、そうかな? なんだか『風が吹く谷』のあの主人公になったみたいで、ちょっと嬉しいんだよね。深海の植物を秘密の部屋で育ててた、あの感じ!」
野蒜にとって、あの物語は人生で一番のお気に入りだ。
まだ幼かった頃、旅野が「これ、面白いぞ」と全巻セットで買ってくれた漫画版。映画版の瑞々しさも大好きだが、漫画版が描き出す、人間の業と世界の再生を巡る圧倒的な情報量と深淵な哲学に、野蒜は今でも読み返すたびに打ちのめされる。
最初は映画とのストーリーの乖離に戸惑いもしたが、きっと大人たちの事情というやつがあの美しい映像の裏にはあったのだろうと、今なら理解できる。
(もしかしたら、この異変の先には、あんな深い森の世界が待っているのかも……)
もしそうなったら、今の文明は終わってしまうのかもしれない。不謹慎だとは自覚している。けれど、世界の仕組みが根底から書き換わろうとしている今の状況に、恐怖と同じくらいの……あるいはそれ以上の「ワクワク」を感じている自分を、野蒜は否定しきれなかった。
「……野蒜? 何か、難しい顔をしてるわね」
ミシェルの声に引き戻され、野蒜は慌てて立ち上がった。
「あ、ううん! なんでもない! さ、行こう!」
通路はまだ先へと続いている。野蒜は前を歩くミシェルの背中をじっと見つめた。
ミシェルは、野蒜の荷物よりも一回り大きな、本格的な登山用リュックを背負っている。中には自前の機材や備品が詰まっているはずで、かなりの重量があるはずだ。しかし、ミシェルの足取りには一切の乱れがなく、息一つ切らしていない。
「ミシェルちゃん、本当に大丈夫? 結構な重さでしょ、そのリュック。代わろうか?」
「全然、大丈夫よ。このくらい、慣れてるから。……心配してくれてありがとう」
ミシェルは涼やかな顔で答える。その余裕に、野蒜は内心で舌を巻いた。
ふとした拍子に、野蒜の観察眼はミシェルの装備へと向く。
彼女の背負っているリュック、そして身につけているウェア。それは、野蒜が住むペンションのロビーに置いてある、富裕層向けのライフスタイル誌や登山専門誌で見たことのあるブランドばかりだった。
「ノンベル(Non-Bell)」に「ソフトコア(Soft-Core)」、そして時計は「ヴィクトリアノックス(Victorianox)」。
どれも実用性を極めた末に、美的な価値さえも纏ってしまったような高級メーカーだ。Gプロも、最新型の最高スペックモデルをさらりと使いこなしている。
(ミシェルちゃん……実は、すっごく良いところのお嬢様なんじゃ……)
思えば、昼食の時もそうだった。
自衛隊から支給された簡素なレーション(戦闘糧食)を食べている時でさえ、ミシェルの仕草には凛とした品格が宿っていた。フォークの持ち方、咀嚼の静かさ、指先の動き一つひとつが、まるで格式高いレストランでフルコースを嗜んでいるかのように優雅だったのだ。
対する自分はといえば、自衛隊の貸与品に囲まれ、泥にまみれて植物を掘り返している。
(まだミシェルちゃんのお家には行ったことないけど……いつか招待されることがあったら、私、ちゃんと失礼のないようにしなきゃ。……って、私、何考えてるんだろ!)
そんな場違いでどうでもいい雑念を振り払うように、野蒜は頭を振った。
ふと前方に目をやると、長く続いていた洞窟のような通路が、少しずつ広がりを見せ始めている。その先にあるのは、かつて野蒜が迷い込み、奇妙な静謐さに包まれていたあの空間。
一本の不思議な木が、主のように佇む広間だ。
通路の終わりから差し込む幽かな光が、二人の行く先を導くように強くなっていく。野蒜は荷物を背負い直し、隣を歩く親友であり、「魔法少女」の仲間となったミシェルの横顔を盗み見た。彼女の白銀の魔力と、自分の黄金の魔力。この二つの光があれば、この暗い通路の先にある何事にも、立ち向かっていけるような気がした。
「……出口が見えてきたね、ミシェルちゃん」
「ええ。何が待っていても、一緒に行きましょう」
二人は頷き合い、光の中へと一歩を踏み出した。
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