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百二十四話 「質問」


「以上が今から千五百年程前に起きた話の顛末だ。俺はその後、暴走の限りを尽くし、要人という要人を殺して回った。千五百年程経った今でもその衝動は消えやしない。ただ抑えられるようにはなった。だから今、ここに居る。本当なら世界を、世界の理を変えうる力を持つギニスも、エクセレも、テリオも、イリスも、エレオスも、アネシスも、スタルギも、ディスティアも、アズモも、コウジも……そして何よりもこんな物騒な力を持っている俺自身を殺したくて仕方がない」


 粛々と、淡々と無表情にアギオ兄さんは昔に起こった事を語った。

 場に静寂が訪れる。


 当然だ。

 そんな重い話を聞いてすぐに切り替えられる奴なんていない。


 しばらく経った後。


「質問」


 静寂が切られた。


 ブラリが手を挙げた。

 全員の視線がブラリに向く。


「アギオさんの再生能力と、殺人欲は強制効果でオフにする事が出来ないの?」


「ああそうだ。この衝動も力も強制効果だ。切れる事はない」


「ダフティもそうだったの?」


 ブラリはアギオ兄さんに質問した後、自身の妹に話を振る。


「はい、兄様。私も兄様に助けていただくまでは、常に衝動に身体を動かされていました。まるで、そうする事が当たり前かのように。衝動の悪魔ティアラを身に纏っていたからというのもあるとは思いますが」


「へー……僕には分からない感覚だ」


「ギニスお父さんが言っていた善の異形化ってやつなんだろうね。自分のためではなく、誰かのために発現したんだ」


 イリス姉さんが喋った。

 全員の視線が今度はイリス姉さんに集まる。


「ちなみに私は普通の異形化よ。暴走状態のアギオ兄さんと、エクセレ姉さんを見て、自分のやるせなさから発現したわ。能力は自身か家族の誰かが死ぬと、死ぬ一日前に時が戻る。これも強制効果で竜王家の誰にも死ぬ事は許されていない。まあ、例外はあるけどね」


 自身と竜王家の誰かが死ぬと一日前に戻る……。


 当たっていた。

 時空龍に対するアズモの考察が。


「ふーん。想像の域からは出ねえな」


 煙草の火を消し、スタルギのおっさんが発言する。


「話は分かった。だから時空龍はもう出て行ってくれないか? 俺は無限龍以上にお前の事が大っ嫌いなんだ」


 スタルギのおっさんは立ち上がって二人を指差した。


 ブラリのおかげでほどけていた空気が、元の険悪とした空気に戻る。


「どうしてかな? 私そんなに嫌われる事した?」


 イリス姉さんが首を傾げる。


「ああ、したさ。何回もな!」


 スタルギのおっさんが語気を強める。


「あんたは俺から身体を奪った! 何回も! 手足を何回捥ぎ取られたか分からねえ! 内臓もだ! 俺はおかげでこんなに身体になっちまったと言うのにあんたは四肢の一つも欠損していねえ! それは話がおかしいよなあ!」


 手足を何回も捥ぎ取られた?

 内臓も?


 それをされて生きているスタルギのおっさんも信じられないが、それを家族に行うイリス姉さんも異常だ。


「それはスタルギ君が異形化して不死性を持ったから仕方ない事。エクセレちゃんが探し求め続けているの。奪われたアギオ君の身体の一部、いや全部。それの代わりになる物を。要はエクセレちゃんがアギオ君のために腕を欲しがったから、兄妹から腕をもらって届けるの。そうしたらエクセレちゃんが落ち着くから」


「意味分かんねえよ! 無限龍の身体の代替えパーツになるからってなんなんだよ! 無言で現れて奪っていく理由にはならねえ! だいたい、無限龍はピンピンしているじゃねえか!」


「ううん。アギオ君は死んだままなの。エクセレちゃんの中では。エクセレちゃんはアギオ君のために身体を集めてアギオ君を復活させようとしているの」


「知った事か!」


 スタルギのおっさんはズカズカと歩いてイリス姉さんに近づき、襟元を掴む。


「私を殺して時間を巻き戻す?」


「くそっ!」


 だが、イリス姉さんにそう言われたスタルギのおっさんは、イリス姉さんを解放した。


「今だけ好きにしろ」


「エクセレは俺が生きている事を認めていない。あの時から時が止まったまま生きている。コウジやアズモは聞いた事があるだろう。エクセレが暴走したら、ギニスか、俺か、テリオが現場に向かうと」


 アギオ兄さんが俺に話を振って来た。


「えーと、はい。親父からはそう聞いています」


「それは嘘だ。ギニスにはよく嘘を吐く癖がある。俺がエクセレの元に行くと、エクセレは暴走する。エクセレの目には俺が死体になって映るんだ」


「チッ、それでか……」


 スタルギのおっさんは合点がいったように舌打ちをし、元の席に戻る。


「そんな。じゃあどうすればエクセレの異形化は治るんですか」


「まず、完全に異形化させる。次に、原因となった種族――人間に惨敗する。最後に、俺が精神世界に行って異形化を解く。それしかない。だからコウジ。人間であり、竜王家関係者でもあるお前は非常に都合が良いんだ。なあ、そうだろう、イリス」


 俺と話していたアギオ兄さんがイリス姉さんに話を戻す。


「正解。異形化を解くには元となった人同士、またはそれに近しい人が戦う必要がある」


 異形化を解くには俺が必要……。


「じゃあ、ダフティの異形化が解けたのも……」


「お前が戦ったからだ、ブラリ。そして俺にも言える……俺はコウジに負ける必要がある。いや、コウジ、お前は俺に勝つ必要がある」


「完全に異形化した状態で、弟妹の誰かに、『もう俺が守る必要がない』と思うまでボコボコにされて、弟妹の誰かに俺の精神世界に入ってもらう必要がある。そしてそれが出来る可能性があるのが……コウジ、お前だけだ」


「どうして俺なんですか?」


「他の弟妹だと、どうしても回復能力が働く。お前の魂に直接攻撃を仕掛ける方法でないと俺は負けない。異形化した俺には他の弟妹は勝てない」


「それは……」


 俺が必要なのは分かった。


 だがずっと思っていた事がある。


「それは、本当に俺がやる必要があるんですか? 俺はただアズモを助けたくてこの世界にやってきたのに」


 これだ。


 俺は竜王家の一員なんだろう。

 だが、一員なだけでそこまでの労力を背負う必要があるのかが分からない。


「ある」


 アギオ兄さんがそう言って、イリス姉さんの方を振り向いた。


「イリス、お前がいるという事はそういう事なんだろう?」


「それも正解。コウジ君とアズモちゃんには私のために、家族のためになってもらいます」


 俺の分からない範囲で話をされる。


「だ、そうだ」


「どういう事ですか? 全然分からないです」


「私の異形化を止めるために――時間の流れを正常にするために力を貸してもらう」


 時間の流れを正常にする。


 ブラリの方を見た。

 そしたら目が合った。


 時間の流れを正常にしたいという話は風呂でブラリとしたばかりだ。


「……逆らったらどうなるんですか?」


「やってもらうまで何度でも世界をやり直してもらう。そしてそれはアズモちゃんとも合意済み。私の認知するこの世界の枠組みから外れているせいで、私と同じように何度でもループするアズモちゃんとね」


「無責任め」


 俺の上に座ったままアズモがイリス姉さんにそう言った。


「無責任じゃないよ。だって、皆に関係があることだもん」


「勝手に言っていろ。だが、約束は守ってやる」


 アズモがイリス姉さんを睨む。

 バチバチと火花が散っているようだった。


 また場が悪くなる。


「質問、質問」


 また、ブラリが手を挙げて静寂を打ち消した。


「不死性ってなんですか? あと、どうすれば時の流れは正常に戻りますか?」



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