41話目
王との勝負は、一瞬だった。むしろそれ以上はできない。反撃でもされれば負ける。一撃でも攻撃自体を発動された時点で、少なくともノウンは死ぬ。すでに何体かの神々の魂を奪ってきたから或いは・・・いや、それでも勝てはしないだろう。俺でもそれは同じだ。攻撃を受けることすら、もしかしたらできなかったかもしれない。
悪魔の王の力、魂を奪ってからは1分1秒すら無駄には出来なかった。簡単なことだ。ノウンの力では当然のごとく、悪魔の王の力をコントロールできなかったのだ。体に宿した神々の魂がどんどん悪魔の王に取り込まれていく。体内から腐っていくような、侵略されていくような・・・そんな絶望感を味わったのはノウンの人生で2度だけ。1度目はまさにこの時。もう1度はこれより少し前。そう、俺が殺そうとした時だ。この2回以上の絶望感をノウンは未だ味わっていない。
レイスと戦った時も、絶望感は味わわなかった。それはちゃんと準備をしていたからだがこの時は時間なんてなく、勝負は一瞬の運任せ。レイスと悪魔の王は常にそばにいたのが最高の幸運。レイスの力を取り入れて、初めてノウンに安心感が生まれた。そこからのノウンは・・・逆に何もしなくなった。特に人間や悪魔を統治するつもりもなく、かといって、世界を支配するわけでもなく・・・ただ、長い暇つぶしをするがごとく、世界を旅してまわった。
もちろん、その旅には俺を連れている。俺は初めに、契約で魂を縛りつけてしまっていたので、もう俺の魂を吸収することは出来なくなっていた。本当は俺も吸収していた方がノウンにとってはよかったはずだが、それも致し方ない。俺にとっては最大の不幸だ。
この日を境に俺は、毎日のようにノウンに戦いを挑むこととなる。俺はノウンを殺さなければ自分が死ねないことに気が付いたのだ。俺は死ぬためにノウンを殺す。しかし、ことごとく失敗に終わる。俺には呪われた騎士から譲り受けた呪われたソードを持っている。それは悪魔の宿した呪いだったが、それを作らされた鍛冶屋の怨念も、今まで殺してきた生命の返り血も、俺が殺してきた生き物たちの魂、悪魔の魂、神の魂が宿り、結果的にこの世の全生命の命を絶命させることのできるソードとなっていた。
なので勿論、そのソードはノウンにも有効だし、悪魔の王を倒すのにもレイスを倒すことにも圧倒的な有利を見せてくれた。しかし、いくつもの魂を保有するノウンには効果はあったものの、それは致命を与えるには足らなかった。ノウンは体に宿した魂たちを犠牲にすることができるのだ。その魂も次の日には再生するから厄介なのだ。
ノウンの動きは、正直俺にとってなんの問題もない。しかし、ダメージを気にせず、なおかつレイスと悪魔の王を両方の力を宿したノウンに勝つことは不可能だった。更に、ノウンには最悪な技があった。そう、体に保有している魂たちを影として使うことができるのだ。その影をノウンが操ることもできるし、オートで動かすこともできた。さらに厄介と言えるのはダメージを与えると、神の魂が勝手に影として動き出してしまうことだ。なので、半端な攻撃は敵の数をいたずらに増やしてしまうだけとなり、より不利な状況を生むだけだった。
俺はノウンに幾度となく、戦い・・・殺し合いを挑んだわけだが、結果、その都度、ボロボロになるまでやられてしまっているのはそういった訳があったのだ。影もその1体1体がいちいち強い。腐っても鯛っていったところか。
とはいえ俺も、いくらボコボコにされたところで、その傷や怪我はそれこそ1日か、かかっても2日で治る。しかし、俺は次第にノウンに対して戦いを挑まなくなっていった。それは、単にあきらめたからではなく、俺の武器に問題があったから。ソードが年月を経て、次第に細く、短くなっていってしまったのだ。そしていつしか、今の短剣の長さになってしまった。その頃には、皮肉か・・・俺の短剣を扱う技術も神がかってきて、短剣がこれ以上に細く、短くなることはなかった。ノウンには勝つことができなかったが。
神々と悪魔の王がいなくなった中、世界はどうなったかというと、初めのうちは今まで通り何事もなく進行していった。要は、悪魔たちがそのことを知らなかっただけだ。人間たちには、もとより、レイスたち神々が悪魔や人間たちを統治、支配していることなんて知りもしなかったこと。よって人間たちは悪魔と神の均衡が破られたことを知った悪魔たちに、一気に攻め入られることになった。
特に、下手に知能を持った悪魔たちは厄介だった。奴らはどんどんその支配下を拡大させていった。更に、殺した人間たちをも、悪魔に変え、悪魔の仲間を増やしていったのだ。初めのうちは数では優っていた人類も、その奇襲により次第に人口は減っていき、ある時点では悪魔よりもその数を下回ったことさえある。
その人類滅亡の危機を救ったのは、当然、俺と不本意ながらノウン。2人とも・・・なんて言うか、一言で言うと人類の危機を救おうなんて気は当然なかった。まあ、俺には少しはその気持ちはあったが。悪魔にとって、下級の悪魔にとってはそうではないが、中級の悪魔たちにとっては神の力は喉から手が出るほど手に入れたい力であった。まあ、下級の悪魔には神の力は毒であって、手に入れようにもその毒で自らの身を滅ぼしてしまう。
悪魔たちは、休む暇を与えないほど、矢継ぎ早に俺たちに攻撃を仕掛けてくることとなる。ただ、俺たちにとってはそんなもの何の問題にもならなかった。次第に中級の、主にブレインとなる悪魔たちが減っていき、人間たちも悪魔に対抗するべく、武装組織を作っていくこととなった。それにより、人間と悪魔の戦いは一旦、落ち着きを見せたのだった。
俺とノウンには相も変わらずに絶え間なく、悪魔たちは容赦なく襲い続けてきた。それが悪魔たちには本当に無駄なことだとは気が付かなかったようだ。いや、もしかしたら気が付いていたのかもしれない。気が付いていても、神の力は悪魔にとっては理想の力だったのだろう。ノウンにすれば、迷惑な撒き餌に過ぎない。
そうして、いつしか1000年の年月が経ったのだ。その頃になると、さすがに俺にもノウンの次なる目的が見えて来て、無駄に攻撃は仕掛けなくなった。それどころか、暇なので、会話もし始めた。傍から見れば仲の良い二人だろう。しかし、その実、二人が信頼し合ったことなど一度もなく、誰に見せかけているわけでもないが、それは見せかけの信頼関係だった。
常に、殺そうと思っている俺と、単に俺を利用するために生かしているノウン。そんな二人に信頼などあるはずがない。ある意味、奇妙な話だが、そのことに関しては二人とも信頼していた。
俺に見えてきたノウンの目的は、神々は、その肉体を失った際、必ず何百年後の間に、人間の中に自分たちの魂を宿す器の肉体を持った者を誕生させる性質がある。能力と言ってもいい。本来はその肉体を持った人間が生まれた瞬間に、魂と化した神々はその体に無条件で宿ろうとするのだが、神の魂は今回、ノウンの器にすべて収まっているのだ。ノウンの旅はその肉体を持つ生まれ変わりを殺し、・・・違うな。その肉体を生きたまま封印し、神の復活の場を二度と与えずに、その魂を確実に自分のものにしようとしているのだ。
その封印に、どうしても俺が必要であり、それが終われば、俺を殺そうとしているのだ。その初めての相手がマリ・アであり、その機会にまさかの裏切りを受けたのだ。そして、今、俺はレイスの魂が戦っている。
ここは、マリ・アの森の中。俺は今、木々に囲まれ、草木の合間から注ぎ込む朝日の光に浴びながらも、一人ぼっちでその場に立ち尽くしている。風も、随分と穏やかだ。しかし、その表情にはひと時も油断も緩みもなく、短剣も構え、頭の先から全身の毛穴まで使い、周囲を警戒している。それでもなぜか、レイスの姿が見つからない。
「一体、どこに消えたんだ?」
読んでくれた方、ありがとう




