42話目
俺の姿なんか、言わずもがな、とっくにレイスに見張られているのかもしれない。それでも俺は今の言葉を心の中だけで呟くように、ボソッと風に紛らわし、口から出ると同時に風となった。
俺は耳を澄ませて聞いた。風に、大地に、木々に、鳥に、せせらぎに、聞けるものなら何にでも尋ねた。レイスはどこだと?決まって答えは返ってこなかった。
「!!!???」
俺は咄嗟に体をくねらせた。何かが光った。ような気がした。光は、もしかしたら単なる木漏れ日だったのかもしれない。気のせいか?何も起こっていない。大袈裟に飛び跳ねたのが間抜けに見えるかもしれない。誰に見えるって?誰に見られているって?それはレイスだ。レイスはどこからか俺を見ている。からかっている・・・訳ではないのは確かだ。からかっているのではなく、そう、殺そうとしているんだ。
「う!?」
足の肉が一部持っていかれた感覚と激痛。しかし見た目では何も起こってない。普段と変わらない足だ。左腕もそう。これは一体なんなんだ?攻撃なのか?だが、攻撃ならそれが見えるはず。なぜ見えない?レイスも攻撃も、何も見えないのはなぜだ!?
「おい!!!ははは。出てこいよ、レイス!!!かくれんぼはやめにしようぜ」
「・・・・・・・」
レイスがほくそ笑んでいる。見えないんだ、見た訳ではない。感じているんだ。・・・感じるというのは俺の感覚だ。だから、それはそうじゃない。レイスに感じさせられているんだ。
「く・・・くそ野郎・・・」
「・・・・・・・」
また来た。それも躱す。しかし、それじゃだめだ。だめだ。だめだ。レイスの位置が特定できない。ならばここからは、覚悟が必要だ。
「ここからは・・・・覚悟が必要・・・だぜ」
「・・・・・・」
「ここからはな・・・。これで終わりだ」
「・・・・・・」
右腕を持っていかれるのはだめだ。頭もダメ。体も駄目だ。どこを犠牲にする?どこを犠牲にすれば、最小で抑えられる?そんな考えは甘いか?でも、次の一撃で死ぬわけにはいかない。致命も駄目だ。腕も、あげる訳にはいかない。奴にとどめを刺すのはこの俺だ。腕を差し出したのでは、そのチャンスはもうない。
全神経を研ぎ澄ます。曝け出す。体が、森と一体化し始めた。風と、空気と、空間そのものと一体化し始める。でも・・・
「それじゃあ駄目だった」
そこまではさっきもしたことだ。俺は、それでもレイスの魂の切れ端すら、俺は見ることができなかった。
「魂・・・か。相手は、そうだ。レイスは魂なんだ」
深く、深呼吸を施す。ここからは飛躍や成長や限界なんて生易しいものではいけない。地に足が付き、体が大地と一体化し始める。それでも、俺は宙に浮いた。魂が宙に浮いていく。なんだか体が軽いな。・・・そりゃそうだ。体なんて下に置いてきたのだから。木々にもその魂があるようだ。風にも雲にも空にも・・・。はは、それは少し大袈裟か?
俺は、魂を介して森羅万象と一体化していく。周りを見れば、虫たちや動物、その場にいるすべての魂の形が見えてきた。その中に一つ、まるで人間のような魂の塊が見えた。
「お前が・・・れ・・・レイスか」
やっと・・・やっと俺はこのステージに辿り着けたらしい。ふと見ると、俺は自分の魂の左腕と右足がなくなっていることに気が付いた。下を見ると、体に左腕と右足の魂がくっ付いている。そういうことか。レイスの攻撃は、魂直接に与えるダメージだったのか。
「今なら見えるぞ、レイス」
「そう・・・君もやっとここまで来れたようだね」
「!?」
しゃべった?レイスが?その声は今まで聞こえていなかったが、この様子だと今までもずっとレイスは俺に話しかけていたようだ。
「何を驚いているんだい?お互い本当の意味で丸裸になったんだ。少しは会話を楽しもうよ」
「だ・・・誰がお前なんかと」
レイスはため息を吐く。がっかりしているようだ。こいつ、こんな奴だったのか?
「・・・僕はこれでも、君と話すことを楽しみにしていたんだ」
「・・・それは光栄だな」
確かにレイスとは、会話したことがない。レイスは、どこかウキウキしている。1000年ぶりの会話だし、一応そこは理解できる。しかし、こいつと会話する義理も意味もない。さっさと終わりにして休みたい。それが俺の本音だ。
「おいおい、つれないな~。もっと愛想よくしてよ」
レイスが消えた。と思う間もなく、目の前に立っている。目の前に立つレイスは、ニコッと、まるで少年少女のような無垢な笑みを浮かべる。でも言うことは怖い。言葉で魂を抉るような、言霊ってやつ?
「・・・愛想良くしてくれないと、殺すよ」
「・・・本性が出たな。・・・き・・・奇遇だな。俺もお前を殺したいんだよ」
レイスは俺の頭に手を当てながら、またニコッと、天使のような笑顔を見せる。俺にだってそんぐらいできらー。・・・いや、出来ない?あっそう。俺はレイスの手を払うと、小さく舌打ちをする。
「お前、なんなんだよ?俺に恨みでもある訳?・・・て、当然か?だったら、さっさとやり合おうぜ?会話なんてする意味ないだろ」
レイスは首を横に振る。え?意味あるの?と、俺が聞くと、うなずくレイスは、「うん。ある」と、答えた。なんもないだろ。まあね。でも、本当に久しぶりなんだよ、会話。リューキのことは、あのリビィズを通じて知っている。なにより、僕を殺した張本人だからね。
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