城に行列ができる治療ラッシュと落ちこぼれ魔法使いミリア
リュウが初めて一般兵の不調を改善した翌朝。
ユウトたちが王城の医務室に向かうと――
「まだか!」
「俺の肩の重りを取ってくれ!」
「腰が動かん! 次は俺だろ!」
「剣を振るたびに腕が叫ぶんだ!」
「鍋を振るたびに腕が鳴るんだ!」
廊下いっぱいに兵士の列ができていた。
騎士も、文官も、しまいには料理係まで並んでいる。
......ってか料理係の腕が鳴るは不調じゃないだろ
「……なんだこれ」
ユウトの声がかすれる。
リュウはこめかみを押さえた。
「昨日の兵士の噂が広がったんだろうな。
“触るだけで呪いが消える”とか言われてるぞ、お前」
「いや触るだけじゃないんだけど!」
そんなやり取りをしていると、
列の中から誰かがユウトを指差した。
「あっ! 肩の重りを祓う男だ!」
「針の男もいる!」
「早く俺を見てくれ!」
「肩の重りって……また変な呼ばれ方してるな……」
「まあ“肩こり”の概念がないからな」
二人は苦笑しつつ医務室に入った。
一人入れては一人が軽くなって出ていく。
「ここ、力入りすぎてるぞ。息を吸いながら……よし、こうだ」
「リュウ、ここ刺してみて。角度は浅めで」
「了解……スッと」
「う、腕が……上がる! 本当に呪いが消えたようだ……!」
兵士は満面の笑みで退出し、
その姿を見た次の兵士が希望に満ちた顔で入ってくる。
くり返される歓声。
そして増え続ける行列。
午前中で数十人を診終えた頃だった。
「すみませぇぇぇんっっ!!
お、お二人にお願いがあって来ましたーーー!!」
廊下の奥から、ローブをはためかせて走ってくる少女がいた。
その勢いのまま――
「わっ、わぁぁぁっ、転ぶーーーッ!」
「危なっ!ほら、手!ほら!」
ユウトが慌てて支える。
少女はうるんだ目でユウトを見上げる。
「た、助かったぁ……!ありがとうございまぁす!」
「いやいや、勢いありすぎだろ……」
少女は胸元のローブを正し、元気よく頭を下げた。
「私、王城付き魔法使い見習いのミリアと申しますっ!」
「魔法使い……見習い?」
「はい!!
ただ……その……魔力が弱すぎて、全然役に立ててないんですけど!」
ミリアは指を立てて説明を始めた。
「火の魔法はロウソクくらいの火しか出せないし、
氷魔法は氷にならずにヒヤァ……って冷気だけだし、
雷魔法なんてパチッ……って静電気くらいなんです……!」
「弱いな!」
「弱いんです!!」
ミリアは肩を落とすが、すぐに勢いよく続けた。
「で!そのせいか最近、右肩がずっと重いんです!
たぶん……敵国の魔女に“肩呪い”をかけられたんです!!」
「……肩呪い?」
ユウトは心の中でそっと突っ込んだ。
(完全に“肩こり”なんだけど……みんな肩の重りだったり肩呪いだったり表現が定まってないんだな)
「ずっと重くて、杖がうまく振れなくて……
それで噂で聞いたんです!」
ミリアは両手を胸の前でぎゅっと握る。
「“肩の重りを祓う男”がいるって!!
それ、あなたですよね!?ね!?本物ですよね!?」
「呼び方やめてくれ……!」
元気いっぱいだが、良い子なのは一瞬で分かった。
そして――
ユウトの頭の中では、別の思考が動き始めていた。
(微弱な火魔法 → 温熱療法の代わりに?
微弱な冷気 → 炎症のケアに?
微弱な電撃 → 電気刺激のように使える……?)
(……これ、めちゃくちゃ適性あるじゃん)
ユウトが考えていると、リュウが横から耳打ちする。
「なあユウト、この子……危なっかしいけどさ。
能力だけ見れば、実は……」
「そう。めちゃくちゃ伸びる可能性がある」
ユウトは優しく微笑んだ。
「ミリア。肩の重さ、楽にできる可能性はあるよ。
良かったら診てもいいか?」
「ほ、ほんとですかぁぁぁ!?
わ、私……救われるんですかぁ!?」
「いや“救われる”ってほどじゃ」
「やっぱ呪いなんですか!? 呪いですよね!?」
「落ち着け!」
完全にポンコツである。
だが、その魔力はユウトから見て“治療向けの原石”だった。
「ミリア。
君の魔法は攻撃には向かないかもしれないけど……
人を楽にする技には、むしろ理想的なんだ」
「えっ……?」
「肩の重さをとったり、痛みを和らげたりする補助ができるかもしれない。
三人で協力すれば――もっと多くの人を救える」
ミリアは目を潤ませながら、震える声で言った。
「私……役に立てるんですか……?
誰にも強く攻撃できなくて……火も弱くて……
でも……でも、頑張りたいんです……!」
ユウトは手を差し出す。
「じゃあ、試してみるか。
ゆっくりでいい。できることから始めよう」
ミリアはぱぁぁっと顔を輝かせ、その手を握った。
「はいっ!!
私、頑張ります!! 元気だけはありますから!!!」
「いや元気だけって……」
「そこがいいんじゃないか」
リュウが笑い、ユウトもつられて笑った。
三人の“治療チーム”は、この日――
王城の行列の中で静かに、確かに誕生した。




