初仕事リュウ、一般兵を救う
ユウトの肩に針を打つ練習を経て数日後。
二人の元に、控えめなノック音が響いた。
「失礼します……例の“技を持つお二方”にお願いがありまして」
顔を出したのは、王城の若い兵士だった。
どこか不安げに体を縮めている。
「どうしたんだ?」
「じ、実は……背中が……急に動かなくなりまして……
呪いかと思ったんですが……王命で“試せ”と言われまして……」
兵士はこわごわと部屋に入ってくる。
彼は鍛えているはずの体を硬直させ、
右肩から背中にかけて痛むのか、表情がひきつっていた。
「どこが一番つらい?」
「ここ……右の肩甲骨の内側が……燃えるように痛むんです……」
ユウトは頷き、後ろで控えるリュウを見る。
「リュウ。お前、やってみるか?」
「……いきなりだな」
「いきなりの方がいいんだよ。
お前の針は本番で強いから」
リュウはしばらく黙って兵士を見つめていたが、
やがて決意したようにうなずいた。
「……わかった。挑戦してみる」
「ほ、本当に針を刺すんですか……?」
兵士は青ざめた顔で質問する。
「大丈夫だ。刺すと言っても深く刺すわけじゃない。
身体の奥にある“こり”に届くように調整するだけだ」
ユウトが説明すると、兵士は安堵と恐怖が入り混じった顔で頷く。
「お願いします……もうこの痛みで、まともに剣も振れなくて……
このままでは戦えません……」
リュウは針を一本取り、ゆっくりと構えた。
「ユウト。刺す位置はここか?」
「そう。肩甲骨の内側縁、上角の少し下だな。
そこが固まってると、腕が上がらなくなる」
「なるほど……」
リュウの目線が、すっと針先に集中する。
「じゃあ……やるぞ」
兵士はごくりと唾を飲んだ。
リュウは迷いを断ち切るように深く息を吸い、
針先をゆっくりと兵士の肩に近づける。
スッ……
ほとんど音もせず、針が皮膚に入った。
「……っ!」
「大丈夫か?」
「い、痛く……ない……?
むしろ……なぜだか……じんわり暖かい……」
リュウは少しだけ表情を緩めた。
(ユウトの時と同じ反応……間違ってない)
「じゃあ、少し進めるぞ」
ゆっくりと、ほんの数ミリ針を押し進める。
その瞬間――
「う……うわっ!?
背中が……背中が勝手に広がるような……!」
兵士の肩が自然に下がり、呼吸がふっと深くなる。
「それでいい。自然に呼吸してみてくれ」
「は、はい……!
あれ……痛みが……」
兵士の目が大きく見開かれた。
「痛みが……消えていく……!
さっきまで腕を上げるだけで苦しかったのに……!」
リュウは針を抜き、慎重に確認する。
「肩、上げてみてくれ」
兵士は恐る恐る右腕を上げ――
限界まで持ち上げられた瞬間、震えながら息を呑んだ。
「動く……! 本当に……動く……!」
その声は喜びよりも驚愕に近かった。
「さっきまでの痛みが、一体……どこに……?」
兵士は何度も肩を回しては、信じられないという顔を繰り返す。
「……すごい……これが……針の技……」
「いや、すごいのはコイツだよ」
ユウトがリュウの背を叩く。
「初めてでここまで改善できるのは才能だ。
本当に天性のもんだぞ」
「……本気で、俺の針が誰かを助けられるなんて思ってなかった。
ありがとう、ユウト」
「礼を言うのはまだ早いよ。
これからもっと助けていくんだから」
兵士は涙目で深く頭を下げた。
「王に……必ず伝えます!
あなた方の技は、本物です!
これは呪いでも奇跡でもない……“救い”です!」
兵士が去ったあと、リュウはずっと手を見つめていた。
「……俺、本当に……救えたんだな」
「救えたし、これからもっと救える。
二人でこの国、変えようぜ」
リュウはゆっくりと微笑んだ。
「……ああ。やってやるよ」
こうして、リュウの針は初めて“実戦で”人を助けた。
この日を境に――
王城では、妙な噂が流れ始める。
“肩を触る男と、針の男が呪いを消すらしい”
“痛みが取れるらしい”
“救いの使いが現れた”
二人の挑戦は、王国全体を巻き込む大きなうねりとなっていく。




