森で見つけたもの
夕暮れ。
薬草山脈の森は、赤い光に静かに染まっていた。
銀髪の魔族の女性は、落ち葉を踏みながら森の中を歩いていた。
その少し後ろを、年長の魔族の男がゆっくりついてくる。
「本当に落ちてるかな」
女性が言う。
男は肩をすくめた。
「人間はよく物を落とす」
「それは確かに」
二人は人間の野営地から少し離れた場所まで来ていた。
ここは昼間、王国軍が魔物を倒した場所でもある。
地面には戦闘の跡が残っていた。
折れた枝。
踏み荒らされた草。
そして――
女性が足を止めた。
「あ」
男も視線を向ける。
草の間に、一本の木の棒が転がっていた。
長さは手のひらほど。
丸く削られた木の円柱。
女性はゆっくり拾い上げた。
「これ」
男は近づく。
「間違いないな」
女性は棒を眺めた。
「本当にただの木だね」
男も軽く触れてみる。
「魔力反応なし」
「魔道具ではない」
しばらく沈黙。
女性は少し考えてから、近くの岩に腰掛けた。
「じゃあ」
「やってみよう」
男が腕を組む。
「人間の真似か」
「うん」
女性は棒を地面に置いた。
そして足の裏を乗せる。
コロ……
コロ……
森の中に小さな音が響く。
男はその様子をじっと見ていた。
コロ……
コロ……
女性の表情が少し変わる。
「……あれ」
男が眉を上げる。
「どうした」
女性はもう一度転がす。
コロ……コロ……
そしてゆっくり言った。
「魔脈が動いた」
男は一歩前に出る。
「本当か」
女性は真剣な顔をしている。
「うん」
「少しだけだけど」
「滞ってたところが……流れた」
男は棒を受け取った。
「貸せ」
同じように地面に置く。
足の裏に乗せる。
コロ……
コロ……
しばらくして、男が小さく息を吐いた。
「……確かに」
女性が笑う。
「でしょ?」
男は棒を見つめた。
「魔道具ではない」
「魔力も使っていない」
「なのに魔脈が動く」
女性は楽しそうに言った。
「身体から整えてる」
男は静かに頷いた。
「人間は魔力が弱い」
「だから身体を使う文化があるのかもしれん」
女性は棒をもう一度転がした。
コロ……コロ……
「でも」
男が振り向く。
「なんだ」
女性は言った。
「これ作った人」
「頭いい」
男は少し笑った。
「確かにな」
女性は遠くの山の麓を見た。
焚き火の小さな光が見える。
人間の野営地。
「……会ってみたい」
男は腕を組んだ。
「まだ早い」
「もう少し観察する」
女性は頷いた。
「うん」
そして棒を手に持ち上げる。
「でもこれ」
「持って帰る」
男が言う。
「研究する気か」
女性はにやっと笑った。
「うん」
森の奥へ二人は歩き出す。
その手には、
人間の兵士が落とした
帰還の棒。
それは今、
人間の戦場から
魔族の世界へ
初めて持ち込まれたのだった。




