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棒が止めた戦場

奇妙な休戦から数日。


薬草山脈の麓では、再び小さな対峙が起きていた。

だが、以前のような殺気は薄い。


王国軍の前列にアンダーソン。

敵軍の前列には例の隊長。


互いに距離を保ち、様子をうかがう。


しばらく沈黙が続いたあと、敵軍の兵士の一人がぽつりと言った。


「……昨日、あの棒やったか?」


隣の兵士が頷く。


「やった」


「どうだった」


「足が軽い」


王国軍の列でも、小さな声が聞こえる。


「敵も使ってるな」


「使ってるな」


アンダーソンは咳払いを一つした。


「……集中しろ」


だが兵士たちの空気は、どこか落ち着いている。


以前のような、張り詰めた緊張ではない。


そのとき、敵軍側から一人の兵士が前に出た。


そして、腰の袋から棒を取り出すと、遠くから声を張った。


「これ……王国のやつだろ!」


王国兵たちがざわつく。


アンダーソンは腕を組んだ。


「どう思う」


敵の隊長が肩をすくめる。


「拾った」


「戦場の落とし物か」


「そうだ」


二人の間に、少しだけ笑いが生まれた。


その瞬間だった。


山の奥から、低い唸り声が響く。


「……」


「……聞こえたか」


再び唸り声。


ガサガサと草が揺れる。


次の瞬間、茂みを突き破って現れた。


魔物。


狼に似ているが、身体は大きく、目が赤い。


一匹ではない。


三匹。


王国兵の一人が剣を抜く。


敵兵も武器を構える。


しかし魔物は、人間の区別をしない。


真っ直ぐ中央へ突っ込んできた。


「来るぞ!」


アンダーソンが叫ぶ。


敵の隊長も同時に声を上げる。


「迎え撃て!」


次の瞬間、両軍の兵士が同時に動いた。


剣が振られる。


盾がぶつかる。


一匹目の魔物はアンダーソンが斬り伏せた。


二匹目に敵兵が槍を突き立てる。


三匹目が兵士に飛びかかる。


その背後から敵の隊長が剣を振るい、魔物を倒した。


しばらくして、静寂が戻る。


魔物の死体が三つ。


人間の兵士たちは互いに距離を保ったまま立っていた。


やがて敵の隊長が剣を収めた。


「……今日は」


少し考え、言う。


「この辺で引く」


アンダーソンも頷く。


「同意する」


どちらも深追いはしない。


互いに背を向け、陣へ戻り始めた。


歩きながら、王国兵の一人が言う。


「隊長」


「なんだ」


「さっき……敵と並んで戦いましたね」


アンダーソンは少し考えて答えた。


「……ああ」


「変な感じでした」


「そうだな」


少し間を置いて、アンダーソンは言う。


「だが」


「魔物は敵だ」


兵士たちが頷く。


その頃、敵軍の陣では魔導士が魔物の死体を調べていた。


兵士が言う。


「どうですか」


魔導士は静かに答える。


「魔力が荒れている」


「荒れている?」


「戦争の影響だろう」


兵士たちは顔を見合わせる。


魔導士は山の方を見た。


「……魔物は増えるかもしれない」


兵士が言う。


「では戦争どころでは」


魔導士は小さく頷く。


そして呟いた。


「人間同士で争っている場合ではないのかもしれないな」


その日の夜。


王国軍の野営地。


兵士たちは焚き火を囲んでいた。


誰かが帰還の棒を取り出す。


コロ……コロ……


「……今日、敵も使ってたな」


「使ってたな」


アンダーソンは空を見上げた。


星が静かに瞬いている。


「……変な時代になった」


剣だけではなく


棒も


戦場にある。


そしてその棒は、


人間同士の戦いを


ほんの少しだけ


遠ざけ始めていた。

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