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農民の腰痛相談

ある日の午後。

調律所の扉がゆっくり開いた。


入ってきたのは――

土の匂いがする男だった。


年は五十ほど。

日に焼けた顔。

腰を少しかがめている。


「すまんのう」


男は帽子を取りながら言った。


「ここが噂の……体を楽にする所か?」


ミリアが優しく答える。


「はい。調律所です」


男はゆっくり腰を伸ばそうとする。


「いやぁ……畑仕事でな」


「腰が……もう、ずっと痛くて」


その様子を見てユウトが頷く。


「農作業ですか」


「はいよ」


男は苦笑する。


「畑は逃げないが、腰は逃げる」


リュウが小さく笑った。


「いい言葉だな」


男は続ける。


「最近な、村でも噂なんだ」


「帰還の棒とかいうやつ」


ユウトは少し照れた。


「そんな名前ついてるんですね」


「兵士の息子が持って帰ってきたんだ」


男は腕を組む。


「足は楽になるらしい」


「でもな」


腰を叩く。


「俺は腰なんだ」


ユウトは少し考えた。


そして言った。


「じゃあ今日は」


「腰専用の使い方を試してみましょう」


男が首を傾げる。


「腰専用?」


ミリアが木の球を持ってくる。


「これを使います」


男は球を見る。


「……ただの玉じゃないか?」


リュウが言う。


「まあ見てろ」


ユウトは床に布を敷いた。


「ここに寝てください」


男は恐る恐る横になる。


「こうか?」


「はい」


ユウトは球を取り――


男の腰の少し横

お尻の外側に置いた。


「そこに体重をかけます」


男はゆっくり体を乗せる。


ぐり。


「……ん?」


少し動く。


ぐり。


「……お?」


もう少し。


ぐり。


男の目が大きくなった。


「……おおお」


ミリアが心配そうに聞く。


「痛いですか?」


男は首を振る。


「いや」


「痛いが……」


少し沈黙。


そして言った。


「なんか……」


「悪くない」


ユウトが笑う。


「そこが固まってる場所なんです」


男は体を少し動かす。


ぐり。


「うお」


「効く」


リュウが腕を組む。


「農作業で一番固まる場所だ」


男は笑いながら言った。


「こりゃ……畑の石より効くぞ」


ミリアも笑った。


「次はこれです」


今度は棒。


男の腰の下に置く。


「少し体を揺らしてみてください」


コロ。


コロ。


男の顔が緩む。


「……おお」


「腰の奥が……」


少し沈黙。


男はゆっくり起き上がった。


腰を伸ばす。


さっきより動きが軽い。


男は驚いた顔をした。


「……あれ?」


腰を曲げる。


また伸ばす。


「……軽いのう」


ユウトが言う。


「筋肉が少し緩んだだけです」


男は腕を組む。


「すごい効果があるんじゃのう」

「ただの棒と玉にしか見えんのに」


リュウが笑う。


「だからいい」


男は少し考えた。


そして言った。


「村にこれ持って帰っていいか?」


ミリアが嬉しそうに頷く。


「もちろんです」


男は棒と球を手に取る。


棒を見ながら。


「畑仕事のあとにこれやったら」


「村が平和になる気がするのう」


リュウが小さく言う。


「いい国だな」


男は帰り際に言った。


「名前つけよう」


ユウトが聞く。


「名前?」


男は笑った。


「帰還の棒があるなら」


球を見て言う。


「こいつは――」


「畑帰りの玉だ」


ミリアが吹き出した。


「かわいい名前ですね」


男は帽子をかぶる。


「腰が軽くなったぞい」


扉を開けながら言った。


「これで明日も元気に畑に行ける」


夕日が差し込む調律所。


ユウトは少し考えた。


「農民用の道具」


ミリアが言う。


「作ります?」


ユウトは頷く。


「うん」


紙を取り出す。


「農作業用ケア道具」


リュウが横で呟く。


「……そのうち」


「この国全員が棒を転がしてそうだな」


ユウトは笑った。


「それ」


「ちょっと面白いね」

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