敵国魔導士の調査
翌朝。
敵軍の砦にある研究室。
石の机の上に――
一本の木の棒が置かれていた。
部屋には隊長と兵士数名。
そして呼び出された一人の男。
敵国の魔導士だった。
「これが例の魔道具ですか」
魔導士は棒を持ち上げる。
軽い。
普通の木。
だがすぐ結論は出さない。
隊長が言う。
「王国兵が使っていた道具だ」
「兵士の疲労が回復するらしい」
副官が真剣な顔で続ける。
「かなり高度な魔道具の可能性があります」
魔導士は頷いた。
「では調査します」
まず魔力測定。
小さな水晶を机に置く。
棒の横に置く。
魔導士が呟く。
「反応を見ます」
水晶。
――無反応。
魔導士はもう一度位置を変える。
無反応。
さらに魔法陣を描く。
無反応。
兵士たちがざわつく。
「……どうです」
魔導士は棒を回す。
「魔力は感じません」
副官が腕を組む。
「隠蔽型か」
別の兵士が言う。
「高度な魔道具は魔力を隠すと聞いた」
魔導士は少し考える。
「確かにそういう物もあります」
隊長が静かに言う。
「王国には優秀な魔導士がいる」
兵士が頷く。
「魔力を完全に隠蔽しているのかもしれません」
魔導士は心の中で思った。
(いや……)
(そんな魔法があるなら
むしろ私が教えてほしい)
だがまだ言わない。
「兵士の使い方を再現します」
魔導士は靴を脱ぎ棒の上に足を乗せた
コロ……
コロ……
魔導士は少し黙った。
もう一度転がす。
コロ……
副官が聞く。
「どうです」
魔導士は正直に答える。
「……足が軽い気がします」
兵士たちが一斉に顔を見合わせた。
「やはり魔道具だ!」
「間違いない!」
「疲労回復の魔法が仕込まれている!」
魔導士は内心ため息をつく。
(いや)
(これは多分)
(ただ足裏を押しているだけでは……)
だが空気はすでに変わっていた。
兵士が真剣な顔で言う。
「恐ろしい魔法だ」
別の兵士。
「魔力を完全に隠している」
副官。
「これは国家機密級だ」
魔導士は心の中で呟く。
(ただの棒では……)
(いや待て)
(さすがに言いづらい)
彼は今度は、ふくらはぎで試す。
棒を当てる。
コロコロ。
「……ふむ」
副官が前のめりになる。
「どうです」
魔導士。
「ふくらはぎが軽くなった気がします」
兵士たちが騒ぐ。
「やはり魔道具!」
「魔力が流れている!」
「見えないだけだ!」
魔導士は静かに思う。
(いや……)
(物理だと思う)
さらに偵察兵が言う。
「もう一つ道具がありました」
木の球。
魔導士は背中に当てる。
壁にもたれる。
ぐり。
「……あ」
副官が身を乗り出す。
「何です!」
魔導士。
「背中の筋肉がほぐれます」
兵士たち。
「間違いない!」
「王国の秘術!」
「魔導具!」
魔導士は心の中で言った。
(どう見ても)
(ただの木です)
彼は棒を見つめる。
触る。
魔力なし。
呪術なし。
封印なし。
魔法陣なし。
(ただの棒と球だ)
(どう考えても)
(ただの棒と球…)
だが部屋の空気が完全に
「高度魔道具発見」
になっていた。
魔導士は少し困った。
(どう言おう)
(これは)
(ただの棒と球だと)
(今言ったら)
(私が無能扱いされるのでは)
隊長が静かに言う。
「どうだ」
部屋が静まる。
魔導士は少し考えた。
そして答えた。
「……非常に興味深い道具です」
嘘ではない。
副官が頷く。
「やはりか」
「魔法の解析は可能か」
魔導士は棒を見る。
(魔法じゃない)
(でも)
(今は言わない方が良さそうだ)
「調査を続けます」
隊長が命じる。
「解析しろ」
「王国の秘密を暴け」
魔導士は棒を持つ。
心の中で呟いた。
(……ただの棒なんだけどな)
その頃。
王国では。
ユウトが新しい道具の案を考えていた。
敵国で
棒が国家級魔道具として研究されていることを
まだ誰も知らなかった。




