奇妙な報告
国境近くの砦。
石の壁に囲まれた小さな指揮所の中で、一人の男が机に向かっていた。
この地域を任されている敵軍の隊長だった。
机の上にはいくつかの報告書。
彼はその一枚を手に取る。
「……妙だな」
部下の兵士が顔を上げた。
「何がですか」
隊長は紙を軽く叩いた。
「この国境警備隊との小競り合いの記録だ」
兵士は肩をすくめる。
「いつものことでしょう」
「それが違う」
隊長は低い声で言った。
「負傷者が少なすぎる」
部屋が少し静かになる。
「戦闘自体は起きている。
だが長期遠征のわりに疲労で倒れる兵が少ない」
兵士は首をかしげた。
「鍛錬が優れているとか?」
「それなら昔から同じはずだ」
隊長は別の報告書を広げる。
「こちらは偵察兵の記録だ」
紙には簡単な文章が書かれていた。
|夜の野営地で兵士が奇妙な棒を使っていた|
|足の裏や脚に当てて転がしている|
|それを交代で使っていた|
部下は思わず笑った。
「棒?」
「そうだ」
「武器では?」
「違う」
隊長は腕を組む。
「休息道具のように見えると書いてある」
兵士は首をひねった。
「戦場でそんなことを?」
「だから妙なんだ」
隊長は窓の外を見た。
遠くに山が見える。
その向こうが相手の国だ。
「兵士が夜に体をほぐしているらしい」
「体を?」
「棒でな」
沈黙。
部下は少し考えてから言った。
「……それで強くなるんですか」
隊長は小さく笑う。
「強くなるかは分からん」
机の上の報告書を指で叩いた。
「だが少なくとも壊れにくくなる」
兵士は目を丸くした。
「壊れない兵ですか」
「そうだ」
隊長は静かに言った。
「長く動ける兵はそれだけで強い」
部下は腕を組む。
「その棒を調べますか」
「もちろんだ」
隊長は短く答えた。
「次の偵察に命じろ」
「何をです?」
「その棒を持ち帰れ」
兵士は頷く。
「了解」
隊長は椅子にもたれた。
「戦は剣だけで決まるわけじゃない」
窓の外の遠い山を見つめる。
「妙なものが流行り始めたな」
机の上の紙には一言だけ書かれていた。
“奇妙な木の棒”
それがこの国の兵を変え始めていることを
まだ誰も知らなかった。




