前線 ― 小さな戦闘
遠征開始から五日目。
部隊は丘陵地帯を進んでいた。
朝の空気は冷たい。
兵士たちは静かに歩を進めている。
その時だった。
「止まれ」
先頭の斥候が手を上げた。
全員が足を止める。
「前方の林。
動きがあります」
空気が張り詰めた。
アンダーソンは剣の柄に手を置く。
背中に冷たい汗が流れた。
だが体は重くない。
昨夜も焚き火のそばで
帰還の棒を転がしていた。
足の裏。
ふくらはぎ。
腰。
体は軽かった。
(動ける)
副官が低く言う。
「散開。弓兵準備」
兵士たちは素早く動いた。
その直後。
林の中から影が飛び出した。
盗賊だった。
五人。
武器を振り上げて突っ込んでくる。
「来るぞ!」
戦闘は一瞬で始まった。
一人が兵士に斬りかかる。
アンダーソンが前へ出た。
剣がぶつかる。
ガンッ。
衝撃が腕に響く。
だが踏ん張れる。
脚がしっかり地面を掴んでいる。
盗賊が横へ回る。
アンダーソンは体を捻り
素早く一歩踏み込んだ。
剣を弾く。
そのまま肩で押す。
盗賊は体勢を崩した。
「今だ!」
後ろの兵士が突き出す。
盗賊は地面に倒れた。
別の敵が襲いかかる。
だが部隊の動きは早かった。
疲労が少ない。
足が止まらない。
――――数分後。
戦いは終わった。
盗賊たちは逃げていった。
負傷者は軽傷が一人だけだった。
副官が周囲を見回す。
「追う必要はない。
隊列を整えろ」
兵士たちは息を整える。
誰かが言った。
「思ったより楽に動けたな」
別の兵士が笑う。
「昨日の棒のおかげかもな」
アンダーソンも息を吐いた。
脚の震えはない。
体がまだ動く。
(本当だ)
(体が軽い)
副官がアンダーソンを見た。
「よく動いた」
「ありがとうございます」
副官は小さく笑った。
「王都の癒し屋。
あの男は本物かもしれんな」
アンダーソンは空を見上げた。
青い空が広がっている。
(ユウト殿)
腰袋の中で
帰還の棒が小さく揺れた。
(ちゃんと役に立っています)
そして部隊は再び歩き出した。
帰る場所を目指して。




