↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/71

広がる“帰還の心得”

それから――数日。


兵舎の一角では、

夕刻になると自然に輪ができるようになっていた。


訓練を終えた兵士たちが腰を下ろし、


棒を転がし、

珠を背中に当て、

互いに声を掛け合う。


「肩にはこっちの位置がいいらしいぞ」


「強くやるなよ。

呼吸を止めると逆効果だ」


「新兵にも教えてやれ」



それは――

戦の準備ではない。


“帰る準備”だった。


誰かが呟く。


「……不思議だな」


「何がだ?」


「剣の稽古より、この時間の方が――

安心するんだよ」


仲間たちは静かに笑った。


ある夜。

アンダーソンは机に向かい、震える手で筆を取った。


『母上へ


最近、城で教わった“体を守る道具”を使っています。

ただの棒と珠に見えるかもしれませんが――

心まで少し軽くなるのです。


俺は帰ります。

必ず帰ります。


だから心配しすぎないでください。


アンダーソン』


書き終えると、

彼はそっと棒と珠を握りしめる。


(俺は――戻る)


強さとは、決意だった。



その頃。


調律所の灯は、まだ消えていなかった。


ユウトは机に向かい、

棒と珠の改良案を描いていた。



「連結できる形もいいな……

持ち運びの袋も必要だし……」


リュウが湯飲みを差し出す。


「休め」


「あ、ありがとう」


ミリアは机の端で小さく欠伸をした。


「でも……

こうして考えてるユウトさん、なんか好きですよ」


「え、ど、どういう意味?」


「えっと、その……

人のために一生懸命なのが、素敵って意味です!」


顔を赤くしながら手を振るミリア。


リュウが小さく笑った。


「言い回しが紛らわしい」


「うぅ……!」


ユウトは照れながら、

静かに棒を見つめる。


(俺は武器を作ってるんじゃない)


(――“帰る未来”を守る道具を作ってるんだ)


心の奥に、静かな灯が宿る。



翌日。


訓練場では、

兵士たちの姿勢が以前より伸びていた。


動きも軽い。


笑顔が増えた。


「最近、腰の重さが減った」


「夜の眠りも深くなったな」


「遠征も、少しは楽かもしれん」


指揮官も様子を見に来ていた。


「……悪くないな」


短い言葉だったが――

それは最大の称賛だった。



夕暮れ。


三人は城壁の上に座り、街を眺める。


「棒一本、珠一つで……

こんなに広がるなんてね」


ユウトが呟くと、


ミリアは笑顔で答えた。


「だって……

“優しさ”が詰まってますから」


リュウは静かに剣の柄へ手を置く。


「武器は人を守るもの。

だが、

“帰る道”を守るのも武器だな」


三人はしばらく無言で空を見上げた。


心地よい沈黙。



棒と珠は――


いつしか兵士たちの荷物に

自然と組み込まれるようになっていった。


革袋に入れて腰に吊るす者。


家族への贈り物にする者。


休憩時間に転がす者。


それはもう道具ではなく、


“帰還の約束”


だった。


誰かが言った。


「この国は、

俺たちが帰る場所であってほしい」



その想いは、

風に乗って静かに広がっていく。



夜空を仰ぎながら、ユウトは心に誓う。


(この国で――

“壊れない生き方”を広めたい)


(祈りも、湯も、道具も、言葉も)


(全部――

人が笑って帰ってくるためのものだ)


遠くで、薬湯の建物の灯りが

優しく揺れていた。




――帰る場所は、ここにある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。