帰還の道具”講習会 ― 体を守るために
翌日。
城の訓練場の隅で、
兵士たちが半円を描くように集まっていた。
地面には――
手のひらサイズの円柱棒と、小さな球状の木玉。
アンダーソンの声が響く。
「静粛に――!
本日は、体を守るための“道具の講習会”を行う!」
兵士たちの表情は真剣そのものだった。
ユウトはゆっくり前へ出る。
「まずは――棒状の道具から」
「遠征とかで体が辛いと聞いて少しでも楽になれるよう道具を用意しました。
その道具を使って辛さを乗り越えてまたここに無事に戻ってきてほしいです。
だから俺たちはこれを“帰還の棒”って呼んでます」
自然と笑いが起きた。
「この棒状の道具ですが転がして使います。」
ユウトは棒を地面に置き、
土踏まずをそっと乗せて転がした。
コロ……コロ……
「強く押さない。
“痛気持ちいい”くらいで止める」
「力任せは、駄目なのですね」
「うん。
体は“守ろうとして固まる”ことがある。
無理すると逆効果になるから」
兵士たちは慎重に真似をし始めた。
「……おお……」
「足の裏から伝わってくる……」
「なんだこれは……妙に楽になる……」
「次は――
棒を脚に当てて、手で転がします」
ふくらはぎの下半分をゆっくり。
「重くなりやすい場所だから、
遠征の合間にこれをやると違うよ」
兵士の一人が驚いた声を上げる。
「硬い縄がほどけていく感じがする……!」
アンダーソンは深く頷く。
「毎日、続けよう」
続いて木の球が配られる。
「これは、“点で支える道具”です」
「点?」
「そう。
棒は“面”、これは“点”。
だから深く届きやすい」
ユウトは腰を下ろし、
お尻の外側――座骨の少し横に球を置く。
「こうやって体重を乗せる。
強すぎたら逃がしていい」
「一か所で留まりすぎるのは?」
「駄目。
ゆっくりずらしていく」
兵士たちは真剣なまなざしで体を預けていく。
「……っ……」
「痛い……けど、悪くない……」
「それ以上は我慢しないでね。
呼吸が浅くなったら、強すぎる」
「壁を使ってもいい」
球を背中と壁の間に挟み、
ゆっくり転がす。
「うわ……!」
「背中の奥が……軽く……」
兵士たちの表情が
次第に柔らかくなっていく。
講習の終盤。
アンダーソンが手を挙げた。
「質問、よろしいでしょうか」
「どうぞ」
「鍛錬では、痛みに耐え強くなることがあります。
しかし、これは……」
「逆です」
兵士たちが一斉にこちらを見る。
「体を守る時間だから――
痛みには“勝たなくていい”」
静寂。
「体が壊れたら、守りたい人も守れない。
だから、この時間は
“戦うため”じゃなく――」
「“帰るため”だな」
リュウが静かに補足する。
その言葉は
兵士たちの胸に、深く染み込んだ。
講習が終わり、
アンダーソンは棒と球を胸に抱いた。
「この二つは……
武器とは違うが――」
「兵を守る道具です」
ユウトが言うと、
アンダーソンは静かに頭を下げた。
「必ず、部隊全体に広めます。
“帰ってくるための心得”として」
(ああ――
本当に、良い名前だ)
ユウトは胸の奥が温かくなるのを感じた。
夕暮れ。
調律所へ戻る道。
「ユウトさん」
ミリアが微笑む。
「棒と球が――
誰かの命を守るかもしれませんね」
「そうなったら、最高だね」
リュウは空を見上げる。
「……戦いが無くなるのが一番だがな」
「うん」
それは三人、共通の願いだった。
そして――
“帰還の棒”と“帰還の珠”は
静かに兵士たちの日常へ溶け込み始める。
戦場へ向かう背中に、
ほんの少しの安心と、
帰る約束を添えて――。




