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前線へ――それでも、必ず帰ると約束して

朝靄がまだ城壁の上に薄く漂う頃。


城門前には、整列した兵士たちの列が伸びていた。


鎧の音。

馬の吐息。

擦れる布の音。


遠征の朝の音だ。


その列の先頭には――

アンダーソンの姿もあった。


腰の袋には、小さな棒と珠。

“帰還の棒”と“帰還の珠”。


その存在はさりげないが――

兵士たちにとっては、心の拠り所となっていた。


城門脇には、ユウト、リュウ、ミリアの三人。


そして医局の医師たち。

さらに神殿の神官までもが立ち会っていた。


「随分……人が集まったね」


ミリアが呟く。


「それだけ、願っているんだろう」


リュウの声は低いが優しかった。


そこへアンダーソンが歩み寄る。


「ユウト殿。出発前に、お礼を」


彼は袋に手を添えた。


「この棒と珠……

たくさんの仲間が手にしてくれました」


「そうなんだ」


「はい。

“帰ってくるための道具”だと伝えました」


アンダーソンの表情には――

不思議と恐れが少なかった。


代わりにあったのは――

静かな覚悟。


神殿の大神官が前に進み、

兵士たちへ祈りを捧げる。


「神は見守っておられる。

悩みや不安が胸に満ちたとき――

静かに祈り、心を整えなさい」


医局の代表も続く。


「外傷は我らが癒す。

だが――

壊れる前に、己の体をいたわるのだ」


そしてユウト。


「……俺からも。少しだけ」


兵士たちが視線を向ける。


「どうか、自分を雑に扱わないでほしい」


静寂。


「仲間も、国も、大切です。

でも――

“あなた自身”も、同じくらい大切です」


ユウトの声は震えていない。


「痛みを無視しなくていい。

無理しなくていい。

帰りたいと願っていい」


アンダーソンが静かに頷く。


「俺たちは――

“帰るために”前へ進みます」


見送りが終わり、列が動き始める。


馬蹄の音。

鎧の擦れる音。


その中で、アンダーソンが振り返った。


「戻りましたら――

また“あの湯”へ入りにきます」


「待ってるよ」


「薬湯も、サウナも」


「そして祈りも」


三人の言葉に、

アンダーソンは笑った。


「それが俺たちの――“帰る場所”ですから」


そして、歩き出す。


背中に揺れる袋。

中には、棒と珠。


たったそれだけの道具。


けれど――

そこには願いが込められていた。


壊れず

折れず

迷わず

そして――必ず帰るという願いが。


列が消え、城門が閉じられる。


しばしの沈黙。


「……やっぱり、怖いですね」


ミリアが胸の前で手を組む。


「それでも、送り出すのが俺たちの役目だからな」


リュウの声は穏やかだった。


ユウトは空を見上げた。


(どうか……

守ってやってください)


(その体と、その心と――

帰る未来を)


胸の奥に、静かな祈りが灯る。


調律所へ戻る途中。


「ユウトさん」


ミリアが微笑んだ。


「帰ってきたら――

きっと、前より安心して体を休めてもらえますね」


「うん」


ユウトも笑う。


「俺たちの場所は“帰るための場所”だから」


リュウが前を向いたまま言う。


「だから、守ろう。

ここに来る奴らの、居場所を」


「もちろん」


三人は並んで歩く。


夕焼けが、

三人の影を長く伸ばしていた。



――遠く離れた前線


夜営の少し前。


焚き火のそばで、

アンダーソンは棒を足裏に転がしていた。


「……ふぅ」


隣の兵士が言う。


「そんなもの、どこで覚えた?」


「城の“帰る場所”で」


「帰るための……道具か」


「そうさ」


アンダーソンは笑った。


「俺たちは、必ず帰る」


遠い夜空に、星が静かに瞬いていた。

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