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見張り兵士の肩に潜む“呪い”

その日、いつもとは違う気配で朝が始まった。


普段なら無言で鉄皿を投げていく見張りの兵士が 

今日はやけに動きが重かった。


鉄扉を開ける前から、うめき声のようなものが漏れている。


「……っ、いて……くそ……」


開いた隙間から見えた兵士の顔は歪んでいた。

額には汗がにじみ、肩を抑えながら苦痛に耐えている。


ユウトはその様子を見逃さなかった。


「おい……大丈夫か?」


「黙れ囚人……ぐっ……!心配など……不要だ……」


兵士は強がっているが、痛みは明らかに深刻だ。

肩が上がらないのか、皿を投げ入れる動きもぎこちない。


リュウも眉をひそめた。


「この前から思ってたが……お前、肩……相当悪いんじゃないか?」


「黙れ!これは“呪い”だ……。

敵国の魔女がかけたものだ……」


「魔女?」


ユウトは思わず声を上げる。


「そうだ……我が国の兵士に見えぬ重しを乗せる呪いをかけてくる……

肩が重く、腕が上がらなくなり……いずれ戦えぬ身体になる……」


兵士は苦々しい表情で続ける。


「陛下でさえ、同じだ……。夜な夜な足の激痛に苛まれ、

魔女の呪いに苦しんでおられる……」


ユウトは思わずリュウと目を合わせた。


「あれ……これ絶対、呪いじゃなくて身体の不調じゃ……」


「だろうな。肩を抑える位置……上の方だ。筋肉が硬くなったときの典型だ」


リュウも同じ感想を抱いていた。


ユウトは鉄格子の前まで歩み寄り、兵士に声をかけた。


「なあ、肩……ちょっと見せてくれないか?」


「囚人風情が……俺に触れる気か?馬鹿なことを――」


「違う!見るだけでいい!……その、俺……身体のこと、少し詳しいんだ」


「詳しい? ……“治癒魔法”でも使えると言うのか?」


「いや、魔法じゃないんだけど……」


「じゃあ駄目だ。魔法以外で治せるものではない!」


兵士は怒鳴ったが、次の瞬間、肩を抑えて呻いた。


「っ……だが……この痛みさえなければ……っ……!」


ユウトは鉄格子越しに、限界まで腕を伸ばして言った。


「じゃあ“治せる可能性がある”なら、試してみても良いだろ?

どうせ悪化することはないし」


兵士は歯を食いしばりながらユウトを睨む。


が、苦痛の方が勝っていた。


「…………少しだけだぞ」


しぶしぶ、肩を鉄格子の隙間へ近づける。


ユウトは指先で軽く触れ、押し、動きを確認する。

兵士が驚くほど、慎重で柔らかな触れ方だった。


「……うわ、これは完全に僧帽筋ガチガチだな……肩甲挙筋も硬直してる……」


「な、なんだその呪文のような言い回しは……」


「呪文じゃない。筋肉の名前だって」


ユウトは短く息を吸い、指圧の角度を変えた。


「ここ、ちょっと痛いかもしれないけど――がまんして」


「が、がま……っ――!」


ユウトの親指が一点に圧を加えた瞬間、兵士の肩がピクリと跳ねた。

しかしすぐに、その硬い部分が溶けるように緩み始める。


「……っ!?え……?軽い……?

肩が……軽い……だと……?」


兵士は驚愕に目を見開き、腕をゆっくり上げる。


「動く……!呪いが……消えた……!?

本当に……?」


「だから呪いじゃないって。筋肉が固まってただけだよ」


「筋……?固まる……?よく分からんが……

確かに痛みが……ない……!」


兵士はしばらく肩を回したり叩いたりしながら、信じられないという顔をしていた。


やがて、震える声で呟いた。


「……まさか……お前……“治癒魔法使い”なのか……?」


「いや、違うって。魔法の要素ゼロだよ」


「いや!こんなことができるのは治癒魔法以外にあり得ん!

これは陛下に報告すべきだ……すぐにだ!」


「え、いやいやいや、待て待て待て――!」


兵士は完全にユウトを“特別な存在”として見ていた。


リュウは壁にもたれながら苦笑する。


「……ユウト。これ、近いうちに牢から出られるな」


「出られるのは嬉しいけど……なんかとんでもない誤解されてない?」


「誤解も何も、実際すごいだろ。お前の技術」


ユウトは肩をすくめる。


「いやあの……これ普通の揉みほぐしなんだけど……」


だが、この世界では――

それは“失われた治癒魔法”と同等の奇跡だった。

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