↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/71

奇妙な牢獄生活

牢獄での生活は、思った以上に規則的だった。


朝になると、鉄扉の向こうから見張りが無造作に鉄皿を投げ入れる。

カンッ、と乾いた音を立てて床で跳ね、黒く固いパンがころんと転がる

スープは薄く、味は……限りなく無に近い。


「これ……食べ物として成立してるのかな」


「まあ、腹は膨れるぞ。味は保証しないが」


リュウは慣れた手つきで黒パンをちぎり、スープに浸している。

俺も真似してみるが、どうしても口に合わない。


「……もうちょっと美味しいもの食べたいな……せめて塩……」


「贅沢言うな。牢に入れられてるだけでも運がいい。

 本来ならもっとひどい扱いも珍しくない」


「そう言われると……なんか納得するしかなくなるな」


そんな会話をしながら数日が過ぎた。



暇な時間は、とにかく多かった。

牢の中にあるのは、湿った床と、硬い壁と、薄暗い空気だけ。

娯楽なんてないから、自然と話す時間が増えていく。


いつの間にか俺たちは、敬語なんてとっくに消えていた。


「で、ユウトの世界では本当に機械で病気を治すのか?」


「全部じゃないけどな。検査したり、薬の調合したりは機械の方が正確なんだよ」


「機械……こっちの世界では機械は古代の遺物って代物だから想像が出来ないな」


リュウは壁にもたれながら腕を組み、俺の話に素直にうなずく。


こっちの世界から見れば俺が話すこと全部が珍しいらしく、

なんだかんだ質問の嵐だ。


「で、お前はなんだっけ?“せいたい”か?」


「整体。人の身体を整える仕事」


「なんで整える必要があるんだ?」


「身体ってのは勝手に歪むんだよ。日常生活でも、クセでも、姿勢でも。

積み重なってくると、痛みになったり、疲れになったりする」


「へぇ……そんなもんか」


リュウは興味深そうに目を細めた。


と、そのとき。


「……うわ、腰が痛くなってきた」


座りっぱなしのせいで、身体中が固まっていた。

整体師と言っても、俺自身が不調にならないわけではない。


「どうした?」


「いや、ちょっと身体が固まってきてさ」


俺はその場でゆっくり立ち上がり、

軽く前屈する。

背中と脚の伸びが気持ちいい。

続けて肩を回し、次にアキレス腱を伸ばす。


「……ストレッチってやつだ」


「今の、身体を伸ばしてるのか?」


「そうそう。固くなると痛くなるから、たまに伸ばしておかないと」


そう言いながら肩甲骨を寄せたり、胸を開くように伸ばす。


リュウは目を丸くして俺の動きをじっと見ていた。


「なんか……動きが柔らかいな、お前。

鍛えてるわけでもなさそうなのに」


「鍛えてはないけど、仕事柄ね。お客さんに“姿勢こうしたほうがいいですよ”とか言う手前、自分がガチガチだと説得力ないから」


「なるほどな。……それ、俺もできるか?」


「簡単なのなら誰でもできるよ。ほら、肩回してみ?」


リュウは少しぎこちない動きで肩を回す。


「……う、なんか肩がゴリッて言ったぞ」


「あー、完全に固まってるやつだな。ほっとくと痛みになるタイプ」


「痛みか……それは困るな。暗殺……いや、もう暗殺はしないが。戦いでは身体が資本だからな」


「戦わなくても大事だよ。健康ってのは生きる基本だし」


「ふむ……確かに、お前の言う通りだ」


そう言って、リュウは俺に向かって素直に笑った。


この世界の人間とは思えないほど柔らかい笑顔で。

俺は少し驚きつつも、心が軽くなるのを感じた。


気づけば会話はどんどん楽になり、

ユウト・リュウの呼び方もすっかり馴染んでいた。


「なあユウト、お前の世界って本当に面白いな」


「いや、この世界の方がよっぽどファンタジーだろ」


牢獄という最悪の環境なのに、

なぜか俺たちは息が合った。


言葉が通じて、お互いの価値観が違って、

でもどこか根っこは似ていたのかもしれない。


そして――

この奇妙な相性が、後に世界を揺るがす“革命”の種になるとは、

このときの俺たちはまだ想像もしていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。