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新たな湯の形 ― 打たせ湯と露天風呂の試行錯誤

薬湯の研究が進み、

サウナの試験運用も順調に記録が積み上がっていた頃――


ユウトは、ふと思い立った。


(温かい湯を“上から流す”ってのは、どうだろう)


肩や背に湯が落ちることで、

凝り固まった筋に心地よい刺激を与える――


日本では当たり前にあった文化。


だが、この世界にはまだ存在しない。


「……鍛冶屋さん。

こんな仕組み、作れますか?」


ユウトは図面を広げる。


高い位置に設けた水槽から、

加熱装置を通して湯を落とす。


落下位置は石柱で固定し、

湯量が一定になるよう調整する。


鍛冶屋は腕を組んで唸った。


「落とす湯の量を間違えりゃ怪我をする。

だが……面白ぇな。

“心地よく叩く湯”か」


そして――


「任せろ。

俺たちの仕事は“命と暮らしを守る鉄”だ。

ちゃんと安全に作ってやる」


胸を張った。


数日後。


薬湯室の一角に、

新しい設備が完成していた。


壁際に設けられた石の椅子。

その上方から、細く落ちる一筋の湯。


「これが……打たせ湯か」


リュウが興味深そうに眺める。



今回も――実験だ。


まだ文化として確立していない。

男女混合で安全確認を行う以上、配慮は欠かせない。


よって、


「実験時は軽衣(薄布の湯着)を着用」


という取り決めになっていた。


肌の露出を抑え、

体への影響だけを確かめるためだ。


ミリアは少し恥ずかしそうに、

肩まで覆う薄布の湯着をぺたぺたと確かめていた。


「今更ですけど……ほんとに見えませんよね?」


「大丈夫だ。問題ない」


リュウは即答。

ユウトも頷く。


(なにせ健全第一だ……!)



「じゃあ、私から試してみますね!」


ミリアは意外にも積極的だった。


石の椅子に座り、

肩口に湯が落ちる角度へ――


チョロチョロ……


「……あっ……」


落ちる湯が、

一定のリズムで肩へ当たる。


「これ……

すごく気持ちいいです……」


思わず目を細めるミリア。


医師たちは記録を取りながら頷く。


「落水による刺激で、

肩周囲の緊張がほどけていますね」


リュウもあとで試す気満々だった。


そのとき――


湯量が少しだけ増え、

落ちる勢いが強まった。


「きゃっ――!」


肩に当たる湯の勢いが布を押し下げ、

ミリアの湯着がずりっと下へ。


あわや――という瞬間。


「!!?」


ミリアが慌てて胸元を押さえた。


顔は耳まで真っ赤。


「ち、ちょっと待ってくださいっ!

落ちちゃいますっ!!」


ユウトとリュウは――


反射的に視線を逸らした。


「見てない!見てないから!」


「安心しろ、見てない!」


二人とも壁を見つめたまま石像のように固まる。


「~~~~!!」


ミリアはぷるぷる震えながら

必死に湯着を直す。


医師は慌てて湯量を調整した。


「こ、これは失礼。

湯量、完全に固定する必要がありますね……!」


鍛冶屋も腕を組み、真剣な表情で頷く。


「布を押し流す力は想定外だった。

改良だな」


(別の意味で焦った……)


ユウトは心臓を押さえた。



薬湯のもう一つの構想。

露天風呂。


空の下、風と光を感じながら湯に浸かる。


試験用に――

城の裏庭へ仮設の湯船が設けられた。


湯着着用。

時間帯も限定。


もちろん、厳重な配慮はした。


……はずだった。


「わぁ……外のお湯、気持ちいいですね」


ミリアは嬉しそうに空を見上げた。


ユウトも胸いっぱいに空気を吸い込む。


「これが露天の醍醐味だよ」


しかし――


リュウの目が細くなる。


「……ユウト」


「ん?」


「城壁の上から……見えるぞ」


「…………え?」


振り返ると――


訓練中の兵士たちの視線が、

こちらへバッチリ向いていた。


「お、おい……あれ……」

「城の裏庭……風呂?」

「裸じゃないよな!?服、着てるよな!?」


ざわざわ。


「ひゃああああああ!!」


ミリアは咄嗟に湯へ沈む。


(顔まで沈むな!危ない!)


ユウトは慌ててミリアの肩を支えつつ、叫ぶ。


「カーテン!仕切り!早く!!」


警備兵が走り出し、

布幕を急いで張り巡らせる。


――騒動は、すぐに収束した。



「完全に設計ミスだな」


リュウが静かに言う。


医師は真顔で頷いた。


「外気浴と安全確保。

両立させる策が必要ですね」


ユウトは深く反省。


「……露天風呂は、

ちゃんと塀と目隠しをしてからだね」


ミリアは顔を真っ赤にしたまま、小声で言った。


「……もう……恥ずかしすぎます……」


「ごめん……本当にごめん……」


ユウトは土下座しそうだった。



問題点は――浮き彫りになった。


だが同時に、

得られたものも大きかった。


打たせ湯の有効性。

サウナと薬湯の相乗効果。

露天の開放感。


そして――

安全設計の重要性。


「少しずつ、整えていきましょう」


医師が微笑む。


「文化を作るとは、そういうことです」


大神官も言う。


「心を乱さぬ“形”を整えねばな」


鍛冶屋は笑った。


「改良がある限り、俺たちの出番は終わらねぇさ」


ミリアは湯気越しに笑顔を見せる。


「でも――

いつか絶対、素敵な場所になりますよね」


「ああ」


ユウトは強く頷いた。


「必ず」


リュウも静かに言った。


「その時は――

本当の意味で“癒しの場”だ」


まだ――始まったばかり。


小さな失敗を積み重ねながら、

三人と仲間たちは歩みを進めていく。


未来の“癒しの文化”へ向けて。

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