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サウナ一号機・試作&静かな前進

――それから数日後。


鍛冶屋の仕事は早かった。


城の裏庭に設けられた仮設小屋の中で、

金属と木材で組み上げられた箱型の室内装置が、

静かに存在感を放っていた。


「……これが、サウナ一号機か」


リュウが感心したように呟く。


炉の上には耐熱石。

側面には小窓。

安全のため、外には消火用の水桶も置かれている。


鍛冶屋は腕を組み、堂々と言った。


「中で火を見るのは危ねぇ。

石の下で燃やす構造にしてある。

こいつなら長時間使っても保つはずだ」


「ありがとうございます」


ユウトは深く頭を下げた。


(ここまで丁寧に作ってくれるなんて……

本当に、最高の職人だ)


医局の医師も同席しており、

書板を抱えながらじっと装置を観察する。


「体温の上昇幅、安全範囲、脱水の兆候……

逐一記録します。

無理はしないように」


「もちろん」


これはまだ――実験。

一般公開など、まだまだ先の話だ。


最初の被験者(?)は、ユウト・リュウ・ミリア、そして医局の医師二名。


「では、入ります」


扉を閉めると、

静寂が訪れた。


炉の熱が、じんわりと室内を満たす。

肌にまとわりつくような温かさ。


「……湯とは違うな」


リュウがぽつりと漏らす。


「体の外側からだけじゃなく、

内側から温められる感じです」


医師が興味深そうに頷く。


「息苦しさや、めまいは?」


「大丈夫です!」


ミリアはやや顔を赤くしながら手を挙げる。


「すっごくぽかぽかで……

なんだか眠くなってきちゃいます……」


「ミリア、寝るなよ」


リュウが呆れた声で言う。


ユウトは壁にもたれ、

ゆっくり呼吸を整えながら考えていた。


(これが……蒸気をかけたら、もっと……)


その瞬間。


「――水を石にかけてみよう」


思わず声に出していた。


「えっ、今ですか?」


「少量なら大丈夫」


医師の許可を得て、

ユウトは小杓子で水を一滴――


ジュッ――


白い蒸気が立ち上り、室内の空気が変わる。


「……っ!」


息を呑む三人。


「一気に……暖かく……!」


ミリアが顔を覆う。


リュウは額の汗を拭いながら、落ち着いて言う。


「だが、不思議と嫌な暑さじゃないな。

体の芯が……解けていく感じだ」


医師は冷静に観察を続ける。


「皮膚表面の発汗。

呼吸数は問題なし。

顔色も良い……」


そのまま数分。


「では、外気へ」


医師の指示でゆっくり外へ出る。


風が、肌に触れる。


「――――」


ミリアの表情がぱぁっと明るくなる。


「気持ちいいです!!」


リュウも軽く肩を回す。


「確かに……すっきりするな」


医師が記録を締めくくる。


「有効性、十分に感じられますね」


ユウトは静かに、しかし大きな手応えを感じていた。


(これは……行ける)


「ただし」


医師は続けた。


「使用方法を誤れば危険です。

虚弱な者や、高齢者には慎重な見極めが必要でしょう」


「確かに……」


ユウトは頷く。


(文化にするなら――

“正しい知識”も一緒に広めないと)


さらに鍛冶屋が言う。


「炉の石、長時間使えば割れる可能性もある。

素材選びは、まだ改良の余地があるな」


「改良……ですか」


「ああ。

俺たち鍛冶屋の腕の見せどころだ」


力強く笑う。


ミリアはというと――


「~~っ!」


頬をむにむに触っていた。


「お肌が……昨日よりぷるぷるです!!」


「そこは確かにメリットだな」


医師も苦笑する。


「発汗と保湿のバランスでしょう。

皮膚の乾燥症状が減れば、

痒みや炎症も軽減されるはずです」


「それ、すごく大事だよね」


ユウトは思う。


(体が楽になって、

肌も整って、

心も穏やかになるなら――)


(それはもう、

“癒しの文化”そのものだ)


薬湯の部屋では――

宗教絵画の制作も同時進行していた。


神殿から派遣された絵師たちが、

壁一面に神の姿を描き続けている。


絵師の一人が呟く。


「湯に入りながら祈るとは……

不思議な感覚ですな」


医局の医師は微笑む。


「心が落ち着いてこそ、身体も整う。

理にかなっていますよ」


ユウトも穏やかに言う。


「俺のいた世界にも、

“八百万の神”って考え方があってさ」


「やお……?」


「たくさんの神様がいるって意味。

神様は遠い存在でもあるけど、

どこか身近でもあった」


ミリアが静かに頷く。


「……だったら、

お湯の中でも

そばにいてくれるかもしれませんね」


「うん。

信仰って、

誰かを縛るものじゃなくて――」


「心を支えるもの、だな」


リュウがまとめる。


その言葉に、

神殿の者も、医局の者も――静かに笑った。



夜。


調律所へ戻る道すがら。


「なんだか少しずつ……

繋がってきましたね」


ミリアが嬉しそうに言う。


「ああ」


リュウも同意する。


「医局も、神殿も。

最初は敵対してたが――

結局は同じ方向を向いてる」


「“人を救いたい”って方向に、ね」


ユウトは空を見上げた。


星々が静かに瞬いている。


(焦らなくていい)


(ゆっくり積み重ねて――

この国に、“癒し”が根付けば)


(それでいい)


胸の奥で、

温かな灯が、静かに灯っていた。

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