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サウナと露天風呂 ― 新しい温もりの構想

城の一角。

人目を避けた一室には、大きな木桶と加熱装置、そして薬草の束が整然と置かれている。


そこが、薬湯の実験室だった。


入念に管理され、

まだ一般の利用者は一人もいない。


――理由はただ一つ。


神殿による宗教絵画の完成を、皆が静かに待っているから。


“祈りと癒しが共にある場を作る”――

それが三者の合意であり、準備が整うまでは公表しない約束だった。


だから今湯に浸かるのは、


ユウト、リュウ、ミリア、

そして医局の協力医師数名だけ。


これはまだ――内部検証にすぎない。


「……ふぅ」


湯から上がったリュウが、肩を回す。


「体の芯から温まるな。

剣を振った翌日の重だるさが抜ける感じだ」


ミリアは、頬を両手で押さえた。


「お肌……すべすべになってます……!」


医局の医師も興味深げに記録を取る。


「香りによる心の落ち着き、

体温上昇による血の巡り、

皮膚の潤い――

いずれも良い作用が出ているようですね」


ユウトは湯船を見つめながら、静かに頷いた。


(思いつきじゃダメだ。

ちゃんとデータを積み重ねて、

“文化”として根付く形にしないと)


そして、次の課題にも気づいていた。


「……この湯、もっと活かす方法がある」


リュウが振り向く。


「まだ何かあるのか?」


「うん。

俺の世界には――湯だけじゃなく、

“蒸気”を使う文化もあったんだ」


それが――サウナ。


ユウトは紙に図を描きながら説明する。


「火で熱した石に、水を少しかける。

蒸気で室内の温度を上げて、

身体を芯から温めるんだ」


「それは……湯とは違うのですか?」


医師が問う。


「似てるけど、また別。

より短時間で体の巡りが良くなる」


そして、ユウトは付け足す。


「もちろん、無理は禁物。

必ず冷たい外気や水で体を冷やす時間を作る。

それを繰り返すと、

頭も体もスッキリするんだ」


ミリアが興味津々で身を乗り出す。


「外で体を冷やすってことは……

外で入るお風呂も?」


「そう。

空の下で湯に浸かる“露天風呂”ってやつ」


「ろ、ろてん……」


リュウは想像し、思わず肩を竦める。


「外で湯に入るのか。

開放感はありそうだな」


「実際、すごく気持ちいい」



設備には、

熱を逃がさず安全に扱う金属加工が不可欠だった。


だから三人は――城下屈指の鍛冶屋を訪ねることにした。


鍛冶場では赤く焼けた鉄が火花を散らし、

屈強な男が槌を振るっている。


「おう、王城の人間か。

珍しい客だな」


無骨だが、信用できる目をしていた。


ユウトは図面を広げる。


「こういう構造の炉と、

石を載せるための耐熱皿――

あと湯船に使う金属フレームが必要なんです」


鍛冶屋は腕を組み、

しばし図を睨み――


「……面白ぇ」


ニヤリと笑った。


「ただ火を燃やすだけじゃなく、

“蒸気を作るための仕掛け”か」


「安全面は最優先でお願いします」


「当たり前だ。

命を扱う仕事だからな」


その言葉に、ユウトの胸が温かくなる。


(ここにも“誇り”があるんだ)


鍛冶屋は続けた。


「完成したら見せてくれ。

俺も試してみてぇしな」


「もちろんです」


固く握手を交わした。


城へ戻る帰り道。


ミリアがふと口にする。


「……この薬湯も、祈りの絵も、

サウナも露天も……」


「全部完成したら?」


ユウトは少しだけ笑った。


「“癒しの場”になる。

体も、心も、両方を支える場所に」


リュウが空を見上げる。


「焦らずだな。

急げば、誰かが怪我する」


「うん」


だから今はまだ――

準備段階。


神殿の絵画が完成し、

医局の検証が整い、

鍛冶屋の技が形になり、

みんなが納得したら。


その時こそ――

本当の“薬湯文化”が始まる。




そして、誰も知らない。


この小さな構想が、

やがて王国の大切な風習へと育つことを。

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