神殿、公開検証を要求する ― 正しさを測る“場”
調律所をめぐる対立は、
もはや水面下では済まなくなっていた。
王が調律所を支持すると明言した翌朝――
神殿は、次の一手を打つ。
王城に、神殿の使者が現れたのは正午前だった。
白い法衣に身を包み、
神殿の紋章を胸に掲げた神官は、
一切の感情を表に出さず、こう告げた。
「陛下。
神殿は、“調律所”の行いについて
公開検証の場を設けることを要請いたします」
謁見の間がざわめく。
「公開……検証?」
「どういう意味だ……?」
王は静かに問い返した。
「説明せよ」
神官は一歩進み、淡々と続ける。
「調律所の技が、
真に人を救うものなのか。
それとも一時的な錯覚、
あるいは信仰を乱す危険な行いなのか――
それを、民の前で明らかにしたいのです」
ユウトたちは、まだその場に呼ばれていない。
だが、この話が自分たちに向けられた挑戦であることは明白だった。
大神官もまた、謁見の間に姿を現した。
「陛下。
我らは調律所を頭ごなしに否定するつもりはございません」
その言葉に、かえって空気が張り詰める。
「だからこそ、“検証”が必要なのです。
神の御前で、
そして民の目の前で」
大神官は、まっすぐ王を見る。
「もし、あの者たちの技が
真に“呪い”を和らげるものなら、
神殿もまた、その結果を受け入れましょう」
「……もし、そうでなければ?」
王の問いに、大神官は一瞬だけ間を置いた。
「そのときは――
民を惑わせる危険な行いとして、
調律所の活動を停止していただきたい」
それは、正面からの宣戦布告だった。
――沈黙。
王は長く考え、やがて口を開いた。
「……調律所の三人を呼べ」
しばらくして、
ユウト、リュウ、ミリアが謁見の間に通される。
事情を聞いたミリアは、顔を青くした。
「こ、公開で……ですか……?
み、みんなの前で……?」
「しかも神殿主導だ。
素直な場になるとは思えねぇな」
リュウの言葉に、ユウトは黙ってうなずいた。
王は三人に問う。
「神殿は、公開検証を求めている。
そなたたちは――受けるか?」
迷いは、なかった。
「受けます」
ユウトの即答に、
大神官の眉がわずかに動く。
「理由は?」
「俺たちは、
誰かを欺いているわけじゃない。
隠すことも、誇張することもない」
リュウも一歩前に出る。
「現場で起きていることを、
そのまま見せればいい」
ミリアは少し震えながらも、頷いた。
「……こわいですけど。
でも、楽になった人たちの顔は、
嘘じゃありません」
王は静かに言った。
「よかろう。
公開検証を許可する」
神殿側に向き直る。
「だが忘れるな。
これは“裁き”ではない。
確かめる場だ」
大神官は深く頭を下げた。
「承知しております、陛下」
――その目の奥に、
別の思惑が潜んでいるとも知らずに。
謁見の後。
調律所に戻る廊下で、
ミリアが小さな声で呟いた。
「……検証って……
ちゃんと、普通の人を連れてくるんですよね……?」
「“普通”ならな」
リュウが低く答える。
「神殿と医局が絡んでる。
向こうが有利な条件を用意してくる可能性は高い」
ユウトは歩きながら、考えていた。
(公開の場……
神殿の土俵……
そして“結果が出にくい状態”の人間を選ぶ……)
ふと、古文書で読んだ一文が脳裏をよぎる。
「人の痛みは、肉だけでなく、
内を巡る“経”の乱れによっても生じる」
(……経。
神の“経路”と書いてあったな……)
ユウトは小さく息を吐く。
(後で話す必要があるかもしれない。
“見えないもの”を、どう説明するか)
その夜。
神殿と宮廷医師は、
王城の別室で密かに顔を合わせていた。
「公開検証の日程は三日後」
「患者は……こちらで用意しよう」
「結果が出なければ、
“無力”であることが証明される」
誰も、声を荒らげない。
だがその静けさこそが――
もっとも危険だった。




