神官・宮廷医師、反発する ― 揺らぐ“正しさ”
調律所の開所から、わずか三日。
王城では、確かな変化が起きていた。
兵士はよく動き、文官の表情は明るくなり、
“呪いに怯える声”が、目に見えて減っていた。
――それが、ある者たちにとっては看過できない異変だった。
王城に隣接する大聖堂。
白い石柱に囲まれた奥の会議室で、神官たちが円卓を囲んでいた。
沈黙を破ったのは、白髪の大神官だった。
「……近頃、城内で奇妙な噂が広まっている」
低く、重い声。
「祈りも捧げず、聖印も刻まず、
ただ身体に触れ、針を用い、
弱き魔法を当てるだけで――
人々の“呪い”が軽くなる、とな」
若い神官が顔をしかめる。
「……そのようなこと、あり得るのでしょうか」
「あり得ぬ。だからこそ問題なのだ」
大神官は杖を握りしめ、続けた。
「人々が“呪い”と呼んできた不調も、
すべては神の御意志のもとにあるものだ。
それを理解もせず、
原因を“身体の偏り”などと語る行為は――
信仰そのものを揺らがせる」
室内に、重苦しい空気が満ちる。
「民は今、神殿ではなく“調律所”へ向かっていると聞きます」
別の神官の言葉に、大神官の眉が動いた。
「……それが何を意味するか、分かるな」
「“呪い”が神の領域でなくなってしまう……」
「そうだ」
大神官は静かに言い切った。
「放置すれば、
神殿の言葉は“不要なもの”になる」
そして、はっきりと告げる。
「王に申し入れを行う。
あの者たちの行いが“正しきものか否か”、
公の場で問わねばならぬ」
一方、王城の医局。
薬草の香りが満ちる部屋で、宮廷医師たちが険しい表情で集まっていた。
「……馬鹿げている」
壮年の医師が吐き捨てる。
「薬も使わず、脈も診ず、身体を押し、
針を刺すだけで良くなるなど……
理に合わぬ!」
「しかし……患者が減っているのは事実です」
「それが問題なのだ!」
医師は机を叩いた。
「我々は何十年も学び、薬草の配合を極め、
正しい処置を積み上げてきた。
それを、昨日今日現れた異界の者に
否定されてよいはずがない!」
別の医師が、静かに言う。
「……神殿も、同じ立場のようです」
「ならば話は早い」
視線が交わる。
「“調律所”は急進的すぎる。
王に、危険性を理解してもらう必要がある」
こうして――
神殿と医局、二つの権威が静かに手を結んだ。
同じ頃、調律所。
「あれ……?」
ミリアが入口を見て首をかしげた。
「今日……人、少ないです……」
ユウトも気づいていた。
「昨日まで、朝から並んでたのにな」
リュウが低く言う。
「入口の兵が言ってた。
“神殿から通達が来てる”って」
「通達……?」
「“まず祈りを捧げよ”
“不調は呪いであり、信仰を正せ”……
そんな内容らしい」
ミリアの肩が小さく震えた。
「……私たち、間違ってるんでしょうか」
「いいや」
ユウトは即座に答えた。
「誰かを傷つけたか?
嘘をついたか?」
「……してません」
「なら、迷う必要はない」
しかし、外の空気は確実に変わっていた。




