調律所オープン初日は慌ただしく終わる
「次の方どうぞー……!
お名前と……えっと……どこが一番つらいですか……!」
「腰だ!」
「肩の重りだ!」
「全部だ!!」
「ぜ、全部は一個に絞ってくださいぃぃ!!」
ミリアは紙を落とし、ペンを落とし、椅子にぶつかり、転びかける。
「ミリア、落ち着け!」
「落ち着いてます!!」
ユウトは次々と人の身体に触れ、状態を見極める。
「この人は背中。次は膝。
この人は首から肩だな」
「了解。針の準備する」
リュウは正確に、迷いなく針を扱う。
「うぉっ!? 軽い!」
「え、なにこれ!?腕が上がる!」
「嘘だろ!?昨日まで歩くのがやっとだったのに!」
部屋の中は歓声と驚きでいっぱいだった。
問題は人の多さだけではなかった。
「ユ、ユウトさん!
この人、熱持ってます!どうしましょう!?」
「炎症だな。ミリア、冷気!」
「は、はいっ!
《アイスブリーズ!》」
ひゅわっ……
「おお……熱が引いていく……」
「成功です!!
え、成功ですよね!?今の成功ですよね!?」
「成功だ、落ち着け!」
その直後――
「次の人、足が冷えすぎてるって言ってます!!」
「じゃあ温めよう。ミリア、今度は火」
「りょ、了解です!
《ファイ……あっ!?》」
ポッ
火が出た瞬間、ミリアが慌てて消そうとして杖を振り回す。
「ひゃぁぁ!ご、ごめんなさぁぁい!!」
「落ち着けぇぇ!!」
だが幸い、火は小さく、すぐに消えた。
「……あったかい……」
「え?」
「いや……ちょうどいい……」
患者がぽつりと呟く。
「……成功だな」
「成功ですか!?
今の!?今の成功ですかぁぁ!?」
ミリアは半泣きでガッツポーズをした。
――夕方。
ようやく行列が落ち着き、三人は床に座り込んでいた。
「……疲れた……」
「腕が……動かない……」
「でも……すごかったです……!」
ミリアは汗だくで、でも満面の笑みだった。
「みんな、笑って帰っていきました!
“呪いが軽くなった”って!」
ユウトはゆっくり立ち上がる。
「完璧じゃなかったけど……
それでいいんだよ、最初は」
リュウも頷いた。
「誰も悪化してない。
むしろ、全員が前より動けてる」
ミリアは拳を握りしめる。
「……私、もっと上手くなりたいです!
転ばないで、間違えないで……
ちゃんと、みんなを楽にできるように!」
ユウトは優しく言った。
「失敗していい。それでも、今日ここに来た人たちは救われた」
リュウが笑う。
「それに……お前が転ばない日なんて、想像できないしな」
「ひどいですぅぅ!!」
三人の笑い声が、調律所に響いた。
その日、王城ではこう記録された。
「調律所、初日。混乱多し。
されど、多くの者が動きを取り戻し、笑顔で去る。」
混雑。
失敗。
大騒ぎ。
それでも――
調律所は、確かに動き出した。




