第21話 モノノフ
シベリアにてメカニカルビースト・ハルピュイアを堕としたトロンベコフ親娘だが、テミルベックは手応えのなさに首を傾げていた。 (あまりにあっけない。) 偵察・情報収集が主目的のビーストとはいえ、バイレットの機動兵器である。現在の地球人類ではまったく太刀打ちできない超兵器であるはず。
「アイヌーラ。地上に降りて、あの人面鳥3羽に止めを刺してこい。機械としてのパーツは動きを止めたとしても、生物として生きているかもしれない。だとしたら年単位の時間で蘇生する可能性がある。」
「メカニカルビーストって呼称する理由ね。分かったわ。」
「一人でできるな? 」
「勿論。でも父さんは?」
「ヤマサチヒコに加勢しに行く。バイレットの巡洋艦に、まだ艦載機があるかもしれん。」
テミルベックはソルバルウの機首を西に向け加速。同胞らがインヴェーダーと戦っているであろうヨーロッパ方面を目指した。
アイヌーラはスサノオをソルバルウから降下させた。アイヌーラが使うスサノオには薙刀が装備されている。柄が12メートル、刀身が10メートル。スサノオの全高を超える長さの得物を帯刀している。近接戦闘用のアギュラフェンスをON。墜落していたビースト・ハルピュイアに斬りつけた。アギュラフェンスはダークエネルギーを活用した兵器。支持体を離れると短時間で拡散してしまうため制御が困難。ビーム兵器などには利用できないが、鈍器凶器の表面に纏わせれば打撃力などを大幅に増すことが可能。メカニカルビーストの外骨格の装甲材マキシンガル合金を軽く引き裂き、内部の機械も生物としての器官も焼け焦げる。アイヌーラのスサノオは駆け回り三機のハルピュイアを斬り刻む。ハルピュイアも手羽先の爪で抵抗するがタルケンシールドは貫けない。程なくしてビーストは動きを止め、アイヌーラは状況の把握・情報分析に入った。
ヤマサチヒコとバイレット宇宙巡洋艦の戦場に到着したテミルベックは、やはり来て良かったと胸を撫でおろすと同時に、渓介のオモチャの意外な活躍に驚いた。セレンの技術で開発された無人機はやはり地球の物よりも多機能・高性能だ。駆逐戦車三車両が横転・天地逆にひっくり返り火花を散らしている。体当たりする自爆ドローンとしての性格付けが強く、守備力が弱い航空宇宙機ニッコー三機は残骸として転がっているが、本懐を遂げたらしく、一体の大クラゲの近くに横たわっている。そしてもう一体の大クラゲは四本の脚で飛び跳ね、主力戦車タイプのドローンを蹴り飛ばしている。
「おおっ、あんなメカニカルビーストはデータに無かったな。さすがに五百年も経てばバイレットにも変化はあるか。」
「傘はパラボラ光線砲です。電磁波の熱戦砲を発射します。砲撃戦と格闘戦の両方をこなす新型のメカニカルビーストのようです。現在の主戦力の一翼でしょう。」
テミルベックの独り言のようなつぶやきにジェイソンが応える。
「砲撃も格闘も、というならこちらもだ。堂々と勝負できるな。」
モノノフ一式のタケルはまさにセレンの主戦力として開発された万能機。砲撃戦も格闘戦もこなすマルチパーパス機だ。手先が器用で、全身に武装取り付け部を複数備えており、兵装を換装して単独でも作戦行動できる。
一方、シベリアに残ったアイヌーラや燈華の使うモノノフ三式のスサノオはメカニカルビーストの外骨格・マキシンガル合金を叩き切るために接近戦に特化している。砲撃の兵装は対空迎撃の最低限に抑え、アギュラエネルギーでの斬撃と機動力に注力している。
故にタケルでは、なんでも出来るがなにも出来ない。戦術と運用が大事なわけだ。勿論上手く使えば無敵の兵器だが、使い手を選ぶ。それでテミルベックや賢太郎といった年長者が受け持っている。
テミルベックのタケルはソルバルウから飛び降り、背負っていた大筒を両腕に構えて走り出し左右に蛇行。肩を揺すりながら大クラゲに近づいた。大クラゲは身を低くし防御態勢を取ると、テミルベックは迷わず発砲。大口径の大筒から発射された弾頭はクラゲの傘の上方へと逸れる。タケルは時計回りにマーカライトベープの後方に回り込むが、外れたと見せかけた大筒の弾頭は、加速して遥か上空のバイレット宇宙巡洋艦に命中。アギュラフェンスと同じエネルギー技術の爆発信管を持った大筒の攻撃は巡洋艦におおきな打撃を与えた。
「「オオーッ。なんだ、この揺れは?」」
「被害状況を知らせろ! 」
爆発に揺れるバイレット巡洋艦の艦橋内は半狂乱になっていた。巡洋艦の後方舷側の装甲材に大穴が開いた。黒煙が噴き出す。五百年前に戦ったセレンの祖先らからもこんな攻撃は受けたことがない。クルズの兵器と比べても、この衝撃のほうが上なのではないか?
テミルベックのフェイントで今回の敵の本丸に砲撃を加えた形となり、マーカライトベープは戦術を変えたのか、ヒマワリの花弁のような頭をクルリと回し、パラボラ光線砲を撃って来た。モノノフには防御用の兵装、タルケンシールドがあるが、これは元々宇宙空間での亜光速飛行の際にスペースデブリを処理するために開発された技術。物理的な質量を持った物質を弾き飛ばすが、パラボラ光線砲は性質が異なる。電磁波で対象を熱する。真正面から光線砲を受ければタルケンシールドも破られるだろう。ただし、テミルベックは、セレンの技術の集積である睡眠学習、シミュレーションでの訓練を繰り返してきた。ジグザグ走行の延長で、タルケンシールドが熱せられる時間を最小限に抑え、モノノフタケルの腰に装備された釵を両手に握り、右手の一本を投げつけた。投げられた
釵はヒマワリの花の中央、バイレットたちが『ベープマット』と呼ぶ青い板、電子レンジのマグネトロンにあたるパーツに突き刺さった。メカニカルビーストは強固な外骨格を持つが、見事に弱点を攻めている。
そして、もう一本投擲せずに握っていた釵でクラゲの脚を刺し貫く。スサノオの太刀、薙刀と同じくアギュラフェンスを使用した格闘武器は、燈華と賢太郎が証明したようにバイレット軍に対して有効な兵装であった。
続いてテミルベックは機関砲の掃射を浴びせるが、これはさほど効果がない。マーカライトベープは四本脚を器用に動かし足技を繰り出すものの、太刀や薙刀よりも防御向きな得物の釵にかかれば、攻撃は届かない。
渓介の操るドローンの助けもあり三機全てのマーカライトベープが沈黙した。渓介の攻撃機が大クラゲに止めを刺す。
以下、ヤマサチヒコ内でのジャズグルとAIジェイソンのやり取り。
「敵艦はどうしました? 」
「モノノフと大クラゲの戦闘の間に逃げました。さすがに元々民間船のヤマサチヒコでは追跡できません。手負いとはいえ、軍艦なので速い。別のメカニカルビーストも放逐しています。追撃は難しいかもしれません。」
「偵察ユニットは働いているのでしょう?」
「もちろん位置は把握していますが、作戦目的が分かりません。」
「では、モノノフとドローンを回収。偵察ユニットは増やすように。当初の目的通りに日本へ移動。御三家と合流しましょう。」
2機のモノノフ、ソルバルウと無人機を回収し、ヤマサチヒコは目指し荒れ果てたシベリアを飛び去った。動いている人影も見当たらない荒野に幾らかの救援物資のカプセルを投下して。
国連軍が米軍と一緒に駐屯しているスチュワート基地。バイレットがシベリアでDSアウトしたらしいとの情報が入り、クルズの王族であり実質責任者のジェイム・フラド・ギーバと、その秘書官クロウ・ライドルも急ぎ帰艦。ユーモレスクの乗組員一同が艦橋に集合した。
「これまでの情報を整理して、取り急ぎ今後の行動を決めたい。皆の意見は?」
「北半球の別の大陸、シベリアという地域ですが、DSアウトの反応。地表近くですので、地上には相当な被害があると思われます。おそらくバイレットの巡洋艦クラスが複数亜空間から出て来たのでしょう。半径数百キロのクレーターが出来ている模様。」
ブリッジ要員、情報処理オペレーターの一人、テンゼンが答えた。そしてもう一人のオペレーター、モンティが続く。
「この場所、現況について補足です。この軍事基地「スチュワート基地」ですが、ニューヨークという都市の国連本部に近いので、国連軍が使用していますが、本来米軍の基地です。国連軍と米軍の共同利用です。一つの基地に二つの軍。それぞれの立場や思想の違いがありそうです。」
「面倒なことがありそうだな。」
「国連軍としてはシベリアに干渉できそうですが、米軍は直接には何もできないでしょう。他国ですから。」
「しかし、バイレットが来たのは間違いがないのだな?」
「地球の科学力では、DSドライブでも、その他の技術でも超光速での移動は不可能でしょう。あとは、あの例の『セレン』ですが、彼らが惑星表面を荒すようなDSアウトをするとは考えにくいですね。」
モンティが長い髪をクルクルと指に巻きながら答えた。考え事をするときの彼女の癖だ。どんな考え事か? 地球人がどう行動するのか、気掛かりだったのだ。
「それから。私たちが地球の情報を集めているように、地球人もこちらの事を必死に調べています。光学センサーやレーダー波を感知していますが、とくにサーモセンサーの動きが活発です。」
艦長のスメタナが何か思い当たるようだ。地球の自然環境のデータをチェックしている。
「待って。気になることがある。地球人の人口とか、森林の面積、大気の成分とかのデータをチェックしてみて。地球人やその他の動物の体温のデータも。地球の大気も海水も、温度が高すぎないかしら? 」
アークが眉間に皺をよせ、呟いた。
「サーモセンサー? まさか、『ジュールコンバーター』に興味を持ったのか? 」
ジュールコンバーター とは何か?
そろそろ次回あたりから、この物語の核心に触れていきます。




