第22話 ジュールコンバーター
『夢の動力機関』。一言で表すならば、こうなるだろう。『ジュールコンバーター』は、セレンにもバイレットにも、勿論地球にもない理想的なクリーンエネルギーのジェネレーターだ。クルズだけの独自のテクノロジー。熱エネルギーを運動エネルギーに変換する。
これ自体では、エネルギーを産まないので、例えば核分裂発電などと組み合わせる。原子力発電などで電気を作っても、熱として余計なエネルギーが逃げてしまう。その無駄な熱を動力としてもれなく使う。
セレンとクルズで接触、会談したときにも、フラドはその情報を洩らさなかった。いや、セレンも暗質粒子タルケン、暗黒エネルギーアギュラのことは話していないのだから、お相子だともいえるが。
共にDSドライブ(亜空間飛行)の技術は持っているようなので、科学技術レベルは同等だろうと考えていた。DSドライブにはタキオン粒子という暗黒物質が必要なので、素粒子を観測、採集、活用する科学技術が必要である。
しかし、実状は違う。科学技術レベルはクルズが一番高い。では、何故バイレットに滅ぼされたかと言えば、バイレットは軍事技術に特化しているからだ。どうすれば戦争に勝てるのか、相手を蹂躙する手段ばかりを研究している。
三時代区分法という考え方がある。主に使われる道具の素材によって石器時代、青銅器時代、鉄器時代と区分する。これはグローバルな考え方とは言えないのだが、現在の地球を鉄器時代だとして、クルズの文明は四番目の時代区分に当たる。鉄器ではなく、非金属の素材で道具が造られている。炭素でもない。未知の複合素材。
セレンとバイレットは鉄器時代の末期と言える。文化として先進的なセレン人は平和な時代が長かったため、軍備が疎かだった。地球に来てから五百年が経ち、地球人と同化しつつも軍備を整え、バイレットに対抗できるまでになったが、おそらくはバイレットにはまだ敵わない。勿論、地球人からすれば、とんでもないオーバーテクノロジーだが。
「いや、艦体表面の温度が低い、熱効率が良いとしか思われないはずだよ。」
ユーモレスク副艦長のターナーは楽観的だ。クルズの技術では、エネルギーを無駄なく使う。裏を返せばエネルギーリソースが多い。情報妨害行動などにも使用するエネルギーに余裕がある。ユーモレスクのステルス性能が良いばかりでなく、スチュワート基地に侵入する前から周囲にセンサー類を麻痺させる電磁波をばら撒いていた。
「念のため、艦外の温度や風の流れもチェックしよう。」
ターナーが言うと、機関長のサブリがコンソールを操作する。ターナーの考えを読んで先回りしてモニターしていた。
国連軍の司令部では重い空気が流れていた。クルズの宇宙船、防衛軍の哨戒艦ユーモレスクを『エイリアンクラフト』と呼称し、恐怖の対象と捉える者が多数いた。地球を狙う外敵の存在を知らせに来たと言うが、その会談の途中にシベリアで大惨事が起きた。その外敵『バイレット』の仕業と言うが、誰が信じられるものか。そのバイレットこそがクルズなのではないか。シベリアを攻撃する前に油断させるため、国連の動きを混乱させ遅らせるための牽制なのではないか? との意見が複数。エギー・デラーズ少将は、ユーモレスクを包囲、監視するように命令してはいたが、その包囲網をさらに縮めて逃がさないようにと指示した。
さらに、内線電話とディスプレイ上のマップ、グラフ表示の報告が入る。ユーモレスクの監視データについてだ。
「エイリアンクラフトについてですが、強力な妨害活動がかかっており、詳しい事は何も分かりません。ただ、周りを固めている陸戦隊の指揮官からの報告では、エイリアンクラフトそのものではなく、周囲に近づくと妙に寒い。数キロ離れるとセンサー類が正常にはたらくのですが、どうやら気温が下がっていると。」
「そうか。宇宙人らしいオカルティックな現象だな。我々の常識が通じない。何にしても拿捕しなければならんか。」
アナベル・バトー少佐とカリウス・オッドーネ軍曹に命令が下り、またユーロファイター2機が飛び立った。ただ、目的地があるわけでもない。スチュワート基地の上空、基地周辺を周回するのみである。連続離着陸訓練を繰り返せというのだ。
「これは通常の訓練である。垂直離着陸機ではないユーロファイターを運用するためには欠かせない訓練だ。」
デラーズはこう言うが、無理矢理にでもバトー少佐を従わせようとするために通常訓練という言葉を使った。ユーモレスクが飛び立てば、バトーに追わせようとしての命令である。いや、ユーモレスクが飛べないように、頭上を抑えるためである。バトー少佐とカリウス軍曹の二人で交互に滑走路に接地、再び離陸の動きを連続させた。バトー、カリウス以外のパイロットたちも待機命令が下っている。そして、陸軍のフォートハミルトン基地へも連絡し、援軍を要請した。ハミルトン基地では、国連軍の大型輸送ヘリと空挺戦車、M10ブッカー軽戦車がスタンバイ。臨戦態勢となった。
一方、バイレットはというと、着々と作戦を遂行していた。二隻の宇宙巡洋艦が地表にデスアウトしてきたが、二隻は反対方向に進んだ。一つ目ティターンの率いる部隊は西へ。テッド・ライアンの部隊は東へ。進軍しながら一万二千年前に残されたメカニカルビーストを起こし、また新しいメカニカルビーストを放っていく。
「一万二千年前のメカビーストはどうだ? まともに動きそうか?」
「稼働率は70%です。自己修復だけでなく自己改良したメカビーストもいますので、只今データ解析中。最終的には77%になると予測されています。」
「だいたい予想通りだな。」
「作戦行動を開始させます。」
宇宙巡洋艦のCIC(戦闘指揮所)となっている艦橋は慌ただしくなっていく。一つ目ティターンが、各ビーストを何処の地域に振り分けるかを指示している。
ヤマサチヒコの追跡を振り切った一つ目ティターンの部隊はヨーロッパを目指す。NATOやドイツ、イタリア、フランス軍に打撃を与えるのが目的。そして、東を目指すテッド・ライアンの部隊は在韓米軍基地のハンフリーズ基地、同じく日本の米軍基地の横田基地を攻撃し、そのまま太平洋に抜ける計画だ。しかも巡洋艦そのものはほぼ戦闘行為を行わず、メカニカルビーストを暴れさせることで、地球人を蹂躙する作戦。すでに大陸の東部・中国では地下から起動したビーストの数体が活動していた。シベリア共和国軍も中国人民解放軍もメカニカルビーストを抑えることはできない。東側の大国はどこも莫大な軍事費をつぎ込み大規模な軍隊を持っているが、兵力が大きく他国に息巻いているだけのことで、自称最新鋭の最強兵器群は稼働率が低く活躍できない。士気も練度も低く、とくに人民解放軍の陸軍は、前線では敵前逃亡も多く、報告を受けた国家主席は憤慨した。しかし、後方のエリートたちが怒り狂ったところで現場は良くなるわけもなく、ユーラシア大陸の東部は焼野原となった。
そして、人民解放軍の北部戦区、中部戦区の軍管区を壊滅させたメカニカルビーストは韓国のハンフリーズ基地へ、東部戦区を壊滅させたメカニカルビーストは日本の横田基地へと向かう。バイレットは地球の軍事力は大した事がないと判断し、戦力を分散させたまま。予想だにしないしっぺ返しを喰らう事になるのだ。




