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第20話 ヤマサチヒコ

 トロンベコフ家とそれに同調するキルギスのセレン人たちが乗り合うヤマサチヒコだが元々セレンの民間輸送船であり、それにキルギスに移住したセレン人たちが反戦主義者が多数派であることから、非武装であった。とはいえ、スペースデブリを避けるための防衛装備「タルケンシールド」があり、センサー類の電子装備も換装、進歩しているので、防御面に不安はない。

 攻撃面では、自衛のための対空装備くらいだが、輸送船である積載量(ペイロード)を活かし「渓介のオモチャ」を大量に積んでいる。そのオモチャの中でも特に火力の高い駆逐戦車、自走迫撃砲、地上攻撃機の火器管制《アームドコントロール》が一斉に唸りをあげた。


 バイレットの幹部の一人、一つ目ティターンが座上する宇宙巡洋艦に全弾が命中。艦体が大きく揺れる。


「うおっ、どうした? 球人どもにこのような軍事力があるのか? 情報と違うではないか! 」

「お待ちください。今データを照合しております。」

「早くせい。」

「艦首がブレました。進行方向がズレています。」

「修正しろ。我が部隊が目指すのは欧州だ。NATO軍に恐怖を与えるのが任務だぞ。」


 ヤマサチヒコの攻撃が予想よりも効いているようだ。


「ご先祖様たちの五百年前からの研究を引き継いだ成果だな。アギュラエネルギーの威力は半信半疑だったが、日本のカンギテンからの報告通り。互角以上に戦えそうだな。まだ攻撃は序の口だ。」

「渓介さん、砲撃を続けてください。まだバイレットは戦力の出し惜しみをしているかもしれませんよ。」

「ですね。こっちのモノノフも離れてますからね。油断大敵。」


 ジャズグルが渓介を窘めると、渓介も次の手を打った。無人攻撃機(ドローン)と聞いて、一般に考えられるのは自爆ドローンだと思われるが、セレン人たちも勿論使う。ただし、限定的。バイレットのメカニカルビーストはマキシンガル装甲による高強度の外骨格を持っている。破壊力が小さい物では意味がない。

 「ゲッコーII」。500年前セレンの母星が滅んだ時にほぼ唯一バイレットに対抗できた航空宇宙機「ゲッコー」の改良型。ゲッコーは、防御装備のタルケンシールドを利用して体当たり攻撃をしたが、多くの命を犠牲にした。ゲッコーIIは体当たり攻撃を最終手段として無人化した上位互換の攻撃機。上位互換というからにはゲッコーの機能は、そのまま有している。渓介の大まかな指示の下(もと)、セレンの人工知能ジェイソンの判断・操作で任務を遂行する。


 その「ゲッコーII」が三機ヤマサチヒコから飛び立った。だが、バイレット側でもデータベースにセレンの防衛兵器ゲッコーがあった。


「一つ目ティターン司令! あれはセレン人です。500年前に駆逐したはずの。セレンの戦闘機にそっくりです。質量が小さいくらいの違いです。」

「記録には目を通している。あれだけは我らに対抗できた兵器だそうだな。」

「はっ! そのようです。」

「セレンの生き残りが此処におるのか! では、残りのメカニカルビーストを全部放出しろ。戦力の出し惜しみで被害を大きくするのは、一番愚かな行為だ。」


 バイレット巡洋艦の脇腹のハッチが開き、カタパルトのような分厚い板状のパーツがせり出すと、左右から三機ずつのビーストが現われた。右からは一つ目の巨人「キクロプス」。巨大な棍棒のような武器を持つ。左からは、細長い巨大キノコのような、植物にも似た異形な物。先端に大きな花をつけ、葉のない茎、いや、丸々と太い巨木のようにも見える。「マーカライト・ベープ」と呼ばれる怪物。


 セレンのAIジェイソンがすかさず注意を促す。500年前にセレン星がバイレットに攻められたときのデータにはないメカニカルビーストだ。


「おそらく攻撃性の高い新型ビーストです。飛行性能の高い「ハルピュイア」を先に偵察斥候に出して、あれらの新型は温存していたのでしょう。」

「ジェイソン、仮に一つ目、ひまわりと呼ぶことにしよう。迎撃するぞ。『ニッコー』を出す。」


 ニッコーとはゲッコーIIの小型・廉価版のユニットだ。幾分か爆ドローンとしての機能に特化している。攻撃力はそれなり。6機を発進させた。このニッコーが一般に捉えられるドローン兵器に近いだろう。


 バイレットの一つ目ティターンとしては、任務の遂行、欧州NATOの軍事施設を潰すのが第一目標であるため、巡洋艦は一目散に西を目指し、メカニカルビーストはセレンの生き残りを始末させ、達成次第に巡洋艦を追うよう命じた。

 早速、6機のメカニカルビーストがヤマサチヒコを襲う。キクロプスは局地戦用であるため、巡洋艦から降下してからは上空のヤマサチヒコに対して一つ目の瞳からの素粒子ビーム砲を射撃してくる。マーカライトベープは空中をくらげのように漂い、そうかと思えば急に緩急をつけて高速移動して突撃してくる。ヤマサチヒコのタルケンシールドに接触。タルケンシールドがオオクラゲを弾き返した。というより、斜め後方に逸らした。ヤマサチヒコ甲板上の駆逐戦車が砲撃。ビリビリと振動するが、メカニカルビーストもセレンの攻撃を寄せ付けない。


「やっぱり硬いな。あの外骨格。アギュラエネルギー弾頭の砲弾を使いますかね。」


 セレンの軍人の家系・御三家の出身の渓介は冷静に戦況を分析し、ジャズグルに進言。

ジャズグルもそれをすぐに承諾した。


「渓介さんに任せます。戦闘はやはり御三家のほうがお得意でしょう。キルギスで開発したドローンの性能の評価も宜しく。」

「じゃあ遠慮なく。ジェイソン、対空砲にアギュラ弾頭(ウォーヘッド)を装填してくれ。」


AIのジェイソンに指示をだしてバイレットのメカニカル・ビーストを対空砲で狙い撃ち。六連のガトリング砲が鈍い咆哮をあげてエノキタケのようなマーカライトベープを追う。口径の大きな砲弾ではないが、命中した部分からは黒い煙が出て、機体のバランスが崩れ、キノコの傘のようなヒマワリの花弁のような機首が下がり、高度が落ち始めた。メカニカル・ビーストはバイレットの技術による生物兵器。マキシンガル合金の外骨格を持っている。そのマキシンガル合金は常識外れな硬度を誇るが、あくまでも表層の摩擦などへの耐久性の話であって、一定方向へ圧力が掛かったりなどの条件で割れる。精密な攻撃で辛うじて攻略は可能。その攻撃を可能にするのがアギュラエネルギーによるものだ。


「おう、効果ありだな。これならモノノフだけでなくドローンも戦力に見込める。」


 しかし、バイレットでも五百年前にはなかった未知の戦力。マーカライトベープはヒマワリの花冠をヤマサチヒコに向けた。花びらがやや内側に傾き、浅い皿のように変形した。


「パラボラ光線砲の使用を許可する。ベープマットを加熱しろ。多脚歩行形態に変形だ。」


一つ目ティターンが命じると地上に墜落するかと思われたマーカライトベープの1体だけでなく3体ともキノコの軸が四つに割れ、クラゲのような外見となった。四本脚で器用に着地。幾つもの関節があり衝撃をうまく和らげている。四本脚の蜘蛛のような動きで身軽にちょこまかと歩き回り、地上の凹凸をものともしない。


「蚊トンボを落とせ! マーカライト! 」


ヒマワリの花弁の中央、平たんになった青いマット状のパーツから突き出た角・突起の先からプラズマ放電のごとく赤い光線が発射された。ニッコーの2機が光線を浴び、炎に包まれ、錐揉みになり地上に落下していく。ニッコーの残り1機は自爆ドローンの本懐を遂げ、大キノコの1体に体当たりし、炎上させた。

 するとすぐにAIジェイソンが光線の正体を予測する。


「電磁波の一種でしょう。マイクロウェーブかと。」

「ほーお。電子レンジで俺たちと戦うってか? ゲッコーIIを盾として前に出せ。それから戦車隊を降下させろ。装輪式の高機動戦闘車でかく乱。」

「了解です。大クラゲを囲い込みます。」


 マーカライトベープは、直立歩行するヒマワリのようだが、四つ足の草食動物のように跳ね回る。真っ先に着地したセレンの駆逐戦車を蹴り飛ばした。細長い脚を上げ、軽量級とはいえ正面には厚い装甲を持つ局地戦用の地上兵器を吹っ飛ばした。この四本脚の植物っぽいパラボラ光線砲は、実は高機動の格闘能力を持っている。


「バイレットにも冗談の分かる奴がいるらしいな! 」


 マーカライトベープに蹴飛ばされた駆逐戦車が宙に浮いたまま戦車砲を発射。砲身はマーカライトベープの花の花芯、青い平面状の高熱板に向いていた。ベープマットと呼ばれる花冠の心臓部、電子レンジで言えばマグネトロンだ。駆逐戦車は戦車砲を撃った反動がありバックフリップを失敗した体操選手のごとく上下逆さまに地面に叩きつけられた。そして放たれた戦車砲の砲弾は青いベープマットを突き破った。


今回のネタばらし。

パラボラ光線砲といえば、「マーカライトファープ」ですねえ。東宝の怪獣映画でおなじみ。

で、「宇宙戦争」の宇宙人の乗り物といえば、三本足の円盤。

そして、夏の蚊を落とすモノはベープ。昔は青いマットを熱して防虫成分を飛散させていました。

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