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第19話 シベリア上空戦


 約500年前、地球に逃げて来たセレン人だが、主に軍人は、室町時代末期から戦国時代の日本に、民間出身者は現在のキルギス共和国へと向かった。元々シベリアのエニセイ川上流で暮らしていたキルギス民族が、現在のキルギス共和国の地域である天山山脈一帯へと移動して定住、放牧を始めた時期であり、肌や髪の色、顔つき身体つきもそっくりだったセレン人は上手く溶け込み地球人として暮らすようになった。戦上手な戦国時代の日本人から学ぼうとした軍人以外でも、民間出身でキルギスに暮らすセレン人の中からも因縁のバイレットと戦おうという者たちがいる。

 その代表がトロンベコフ家。日本のセレン人から「テミルおじさん」と呼ばれるテミルベックのファミリーだ。

 比較的平和・安定を求めて中央アジアを選んで移住したのに、モンゴル帝国による支配などの激しい勢力争そいに巻き込まれ、苦しい時代も乗り越えた。キルギス人という協調姓とコミュニケーション能力の高い遊牧民族は、日本で暮らす同胞のセレン人からも好感を持たれている。


 そのトロンベコフ家のテミルベック、長女のアイヌーラが、モノノフでバイレットを迎え討つ。テミルベックはモノノフ一式タケルの3号機、アイヌーラはモノノフ三式スサノオ3号機でどちらもボディのカラーリングは赤。空輸用の後方支援輸送機のソルバルウも同様に赤くペイントされている。赤のカラーリングは3号機であることを示している。


「お父さん、あたしを後ろから撃たないでよね。」

「そんなわけないだろ。それよりもバイレットに近付けるのか?三式は、飛道具は少ないぞ。」

「大丈夫。三式はアギュラフェンスを使うことに特化してるけど、ソルバルウは飛道具だらけなんだから。」

「おお。そうか。まあ、おまえは乗馬は得意だからな。油断はするなよ。」


モノノフは地球上で飛行能力を持たず、移動手段としてバイクの乗るような形でソルバルウを使って飛行する。ソルバルウはライコーの特殊仕様。五百年前にセレンとバイレットが戦った際にほぼ唯一の対抗手段であった宇宙戦闘機ゲッコーを基に開発された支援輸送機。ライコーよりも一回り大型でエンジンの推力もあるため、ミサイル砲弾を多く積んでいる。


 シベリア上空でセレン・トロンベコフ家とバイレットの戦力が交戦する。バイレット、幹部士官の一つ目ティターンが座上する巡洋艦から発進したメカニカル・ビースト「ハルピュイア」三機。偵察を兼ねた飛行型の、わりと軽装のメカニカル・ビースト。


 そして一つ目ティターンの巡洋艦は、旧ロシア連邦軍、シベリア軍管区のシベリア共和国軍の本部ザバイカリエ地方チタを目指す。


 バイレットの指令官・ボッチャーが命じたのは、地球の大国の軍事力を削ぐことだ。大国とは、アメリカとロシア、中国、それからNATOも含まれる。ドイツ、イタリア、フランス、イギリスの軍事力はバイレットも警戒しているが、早めに潰してしまえば、あとはすぐに蹂躙できると踏んでいる。

 一つ目ティターンの巡洋艦は西へ。テッド・ライアンの巡洋艦は北東へと向かっていた。

ティターンの部隊のビースト「ハルピュイア」は、艦から発進して南下。中国へと。実はバイレットは中国軍をそれほど高く評価していない。軍事費は多額で規模の大きい軍隊だが、兵器の性能、軍隊の練度も大したことはないと考えている。もとより科学力の差は絶大である。恒星間飛行の宇宙旅行が可能な宇宙人に地球人が対抗できるはずがない。「ハルピュイア」を三機も送り込めば、地球の全土が火の海になるのだが、念入りにも巡洋艦二隻も派遣したのだった。

そして一万二千年前に地球に残して行ったメカニカル・ビーストたちも地下や海底で待ち構えている。メカニカル・ビーストとは。その名の通り、半獣半機械。バイレット独特のマキシンガル装甲という外骨格の生物、有機体にナノマシンの無機的な組織を注入したサイボーグ怪獣のようなバケモノだ。細胞のごとくナノマシンが分裂・分解・増幅・自己修復・進化を繰り返し、永い時間を生き延びている。一万二千年もの間、機能を維持している機械などありえないが、半分は生物であり、それこそがバイレットの医術や科学技術の優位、恐ろしさである。

言わばメカニカル・ビーストは冬眠状態。バイレットの指令があれば、再び動き出す。地球文明は時限爆弾の上に発展してきた。いつ爆弾が破裂するのかも知れぬ。


 ただ、バイレットの計画にも穴があった。地球にはセレン人が紛れ込み、バイレットに対抗する手段を整えている。そして、滅ぼしたと思っていたクルズの生き残りも地球を訪れ外敵の危機を伝えていた。地球の科学技術はバイレットから見れば、まだまだ原始的ではある。しかし、覚悟を持って準備するかどうかで随分違う。バイレットの弱点を突いてくるかもしれない。

 そこで、司令官ボッチャーは幹部将校二人、一つ目ティターンとテッド・ライアン、二隻の巡洋艦を送り込んだ。ボッチャーにはクルズとの戦闘で失われた戦力もすぐに補充されるとの報告が上がり、意気揚々で命じた。シベリアの土地をDS(デス)(ディメンジョンスペース、亜空間)と繋げて滅茶苦茶にしてから北半球に集中する大国の軍事力を削ぐ作戦だ。宇宙開発に取り掛かったとはいえ、まだ恒星間航行、超光速航行の術(すべ)を持たない地球人類には防ぎようがない。


 第二の故郷となった地球を守り、あわよくばバイレットを倒そうと五百年の時をかけ、兵器を開発し地球人の戦術を学び、独自に戦争の準備をしてきたセレン人の末裔には、待ちに待った機会だった。いや、平和を求めてキルギスに移住したセレンの末裔、トロンベコフ家たちにとっては、「とうとう来てしまった」「永遠に来てほしくなかった」ものだ。

 だが、元々軍人出身のセレンの末裔、日本への移住を選んだ同胞たちだけに戦争を押し付けてしまうのは、無責任であると考える者たちが、民間の宇宙輸送船であったヤマサチヒコに乗り込み日本を目指していた。その矢先にバイレットの戦力がDS(デス)アウトして来たわけだ。


「データベースによれば、バイレットでも偵察任務がメインの軽量級のメカニカル・ビーストだ。そうだな、ジェイソン? うちのミサイルの性能を試すのに良い機会だ。」

「はい、ミサイルの追尾性能だけでなく、弾頭の破壊力のデータも必要です。」

「父さん、あたしの出番を失くす気? 賢太郎兄さんと燈華の剣戟では、ギギャントって型のビーストを倒したそうじゃない。」

「いや、だからこそ別のデータを取ろう。まだまだバイレットの戦力は底が知れない。アギュラ弾頭(ウォーヘッド)の飛道具を試してみよう。機関砲はあまり効果がないらしい。ソルバルウの火器で戦え。行くぞ。」


 トロンベコフ親娘(おやこ)のモノノフとメカニカル・ビーストの空中戦が始まった。通常の推進器だけでなく翼を羽ばたくハルピュイアは、普通の航空機では考えられない機動で翻弄しようとするが、ヒト型がバイクに跨ったようなモノノフの重心移動、騎馬のごとく暴れるソルバルウでも予想外の動きをすることは同様で、最後には飛道具の性能が差を付ける。3機のハルピュイアは火達磨になり堕とされた。


 セレン人は地球人にはない三つの暗黒物質(ダークマター)を操る科学技術を持っている。そのうちの一つ『アギュラ』は五百年前の彼らの先祖でも知らなかったもので、現在のセレン人たちのとっておきの攻撃手段となっている。東北の地で燈華と賢太郎で太古のメカニカル・ビースト「ギギャント」を剣戟(けんげき)で倒したが、それと同様の技術だ。

 五百年前のセレンの母星がバイレットに攻められた時、バイレットの兵器のマキシンガル装甲に通常兵器が役に立たず、タルケンシールドを利用した特攻でしか対抗できなかった反省点から必死になって開発した秘密兵器である。


「3機のハルピュイアタイプのビーストを破壊しました。アギュラ弾頭(ウォーヘッド)は有効です。機体を構成するナノマシンまで燃やし尽くせるでしょう。追撃は不要と思われます。敵宇宙巡洋艦と交戦すると予想されるヤマサチヒコの応援に向かわれる事をお薦めます。」


セレンのAIジェイソンがテミルベックに進言する。ヤマサチヒコは、元々セレンでは民間の宇宙輸送船だ。軍艦ではなく戦闘には向いていない。案の定、ヤマサチヒコとバイレット巡洋艦とはすでに交戦していた。


「いやあ、俺がキルギスに来ていて良かったぜ。バイレットと戦えるし、貴重なデータも集められる。ラッキーだな。」


ヤマサチヒコ艦内では遠山渓介が息巻いている。セレン人の末裔の一人。エリート軍人出身の御三家の家系。三十歳だが、両親は亡くなり御三家遠山家の当主である。普段は仙台に住み、テクニカルライターとして仕事をしている。工業技術に詳しく、また時間の都合もつけやすい。セレン人の末裔としては、各種兵器の開発・整備・運用。引っ越し中の月面基地の三輪家とは特に仲が良い。キルギスでも兵器開発をしているので、生産管理のためにキルギスに出張中であった。


 ヤマサチヒコは民間の宇宙船とはいえ、輸送艦。各種兵器を積んでいるのだった。各種兵器とは、自律型の無人兵器。まあ、ドローンだ。別名「渓介のオモチャ」。多くが想像する自爆型ドローンもあるが、多彩な作戦を遂行する無人機であり、セレンにはなくてはならないもの。「渓介のオモチャ」がヤマサチヒコの周囲に展開しバイレットを待ち受ける。そして、セレンの恒星間移動の宇宙船なのでスペースデブリから船体を護るためのタルケンシールドを持っている。バイレットの兵器とも戦える能力を有していた。

 テミルベックの妻、アイヌーラの母であるジャズグルがヤマサチヒコの指揮を執る。艦の上面デッキに艦砲代わりに配置された戦車の主砲の発砲を指示した。戦闘開始。


次回はもう一隻の敵宇宙巡洋艦についても触れます。

というか、いちおう主人公はセレンじゃなく、クルズなんだよねえ。主役メカはドヴォルザーク。出番まだか?

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