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第18話 |DS《デス》アウト


燈華たちの中学校の剣道部は好成績を出して、夏の全国大会、関東大会への出場を決めた。とはいえ、男子は団体、個人戦の両方だが、女子は主将の燈華の個人戦のみだ。

女子は個人戦のみだが、全国大会、関東大会の出場は校内の生徒のみでなく周囲の大人の期待を集めることとなり、部員の練習には熱が入る。燈華は男子部員お相手に練習している。


「燈華~、ごめんねえ。あたし達の実力じゃあ、練習相手にもなってあげられなくって~。」


同じ剣道部員の森口冬美が申し訳なさそうに言う。だが、燈華はまったく気にしていない。侵略者の宇宙人と戦う覚悟の者は、目標と定めるところが違うのだから。


中学校の体育館での練習。汗の匂いでむせ返る中、男子の主将・明星 啓吾(あきぼしけいご)と女子の主将・三好 燈華(みよしとうか)が試合さながらの三本勝負をやっていた。一本目は反射神経の良さを活かし、燈華が胴一本で先取した。続く二戦目は一進一退の攻防で停滞していた。啓吾は日本人の中学三年生としては上背があり、手脚も長い。身長180センチを超え、リーチも長い。

啓吾は腕力だけでなく、その有効なリーチを活かすべく中段の構えで燈華との間合いを計っていた。燈華はちょこまかと良く動くが、勝負が長引くと次第に追い詰められていく。ボクシングでいうスウェイバックのような防御テクニックまで用いる燈華だが、燈華     の竹刀が下がったところで気の短い啓吾は一気に踏み込み、上段から面を取った。燈華の身体が勢いよく前に屈む。


「いってえ~! おい、バカ啓吾! 力任せにぶんなぐりやがったな!」

「一本取られたからってブチギレてんじゃねえよ。女らしくおしとやかにできねえのか?」

「あ~、言いやがったな。三本目は脳天徒割(かちわ)ってやるからみとけよ!」


燈華は、短いリーチを補うにはスピードかと思っていたのだが、作戦を変えた。啓吾の竹刀を捌く事に集中し、体重差は左右に回転して避けることでカバー。隙を突いて籠手を狙った。普段は燈華に勝てないことが多い啓吾は、今日こそはと執拗に細かい剣劇を繰り返すが、いい勝負と周囲も剣道部員も固唾を飲む最中、審判の部活指導員が「待った」を掛けた。


 二人の動きが止まると、耳を(つんざ)くような轟音。鉄骨の体育館の躯体はビリビリと震えた。


「なんだ!?自然災害か? 皆、姿勢を低くして頭を護りなさい!」


すぐに音や振動はおさまったが、それは燈華には何なのか直ぐに分かった。聞き馴れた音だった。竹刀と防具を投げ捨てて、体育館の外に向かい走り出た。


「此処に来るとしたら、線路の向こうの公園だ! 何かあったんだ! 」


燈華の考え通り、鉄道の線路を挟んだ公園の陸上競技場にソルバルウが着地していた。おおきな音をたててはいたが、競技場の表面のウレタン素材はまったく傷んでいない。ソルバルウの浮力、推力を得るエンジンの出力や機体の姿勢制御の技術がとんでもなく優れているのだろう。燈華が線路の踏切を渡りきると、一頭の大型犬がソルバルウのコクピットハッチから走り出て来た。


「わん!わん!」

越光(コシヒカリ)―!」


真っ白な秋田犬。越光(コシヒカリ)と呼ばれたその犬は尻尾を振り回しながら燈華の周りを一周し、ともにソルバルウのハッチに走り込む。


「越光! いい子だね。Aiのジェイソンの操縦で迎えに来たの?」

「燈華、すぐにスサノオに乗りな! バイレットの鉄砲玉が地球に殴り込んで来たよ!」


ソルバルウに乗り込むとすぐに燈華は犬の頭を撫でるが、その奥から母・与志江の声がする。シベリアでタキオン粒子の観測があった事、臨時ニュースで大きな地震などの報道が流れている事を伝えると、ソルバルウはフワリと宙に舞い上がり急加速で北西に飛んだ。


「なんだい、母ちゃんが一緒か。バイレットなんぞ、あたし一人で片付けられるのに。」

「それがいけないんだよ。多分トロンンベコフ家のヤマサチヒコが先にバイレットに接敵するよ。カンギテンもシベリアに向かってるからね。」

「えー、父ちゃんいないのに。」

「父ちゃんが帰って来るの、待ってられないだろ。テミルベックと共闘するからね。」

「お、テミルおじさんに会えるの? 一年ぶりじゃん。」

「バイレットの鉄砲玉を片付けたらね。これ以降はバイレットと戦争になるだろうよ。」

「おおう。気合いれないと。」




 シベリア共和国。旧ソ連。ロシアから分かれてしまった国。マガダンやサハ共和国といった地域によって構成される新興国。政治的、民族的にヨーロッパのロシアに対して複雑な思いをもった人民が多い。旧ロシア軍の軍人は数多いが、ロシアのような強力な軍備は持たず、原子力発電所はあるが、核兵器は持っていない。ロシアの言いなりにはならないが、常に顔色は窺っている、舵取りの難しい位置にいる国家だ。


 そのシベリア共和国の領空にバイレットの2隻の宇宙船がDS(デス)アウトして来た。地球上の通常空間に繋がった亜空間はタキオン粒子が溢れんばかり。とはいえ、存在も把握されないような暗黒物質の素粒子であるため、ほとんど真空に近い。

 地表の大気が亜空間に吸い出され、大嵐。台風やサイクロンのように大渦を巻き、岩を砕き凍土を削り取り空中に巻き上げる。大きな爆音。人も家畜も野生動物も、車や建築物も瓦礫となり吹き飛び、ぽっかりと開いた亜空間のゲートに吸い込まれる。大気や水分、粉塵の摩擦で積乱雲ができ雷が起きる。この世の終わりかと思われる大惨事。

 シベリアの大地に巨大なクレーターが出来上がった。悪天候にもなっているので、新しい湖になるだろう。


「だいたい狙い通りの位置にDSデスアウトしました。」

誇らしげに航海術師のオペレーターが報告する。


バイレットの科学技術には癖があり、超光速航行についてはクルズやセレンに比べて精度が低い。だが、物理より生物、医学方面で優れていた。DS(デス)ドライブ後の亜空間酔いなどなく、すぐに行動開始。


「では、作戦通りに。地球の軍事力は北半球に集中している。メカニカルビーストを発進させたら、テッド・ライアンの部隊は東に。我々は西に向かいながら蹂躙(じゅうりん)していく。」


 一つ目ティターンは意気揚々として号令し、地震も嵐も収まる様子はなく、バイレットの宇宙巡洋艦は出力を上げ進みだす。艦底部の格納庫が開き、艦載機のメカニカル・ビーストが発進していく。地球上の偵察・調査も兼ねているのだろう。飛行型の巨大機動メカばかりである。


「テッド・ライアン部隊のハルピュイア3機が東南方向へ。我らの部隊のハルピュイア3機が南西方向へ発進しました。」

「うむ。結構。1万2千年前のビーストがどれだけ生き残っているが分からんが、情報の質、量に期待しようではないか。地球人類の進化の過程や度合いが分かるからな。」


 シベリアの地震、嵐は臨時ニュースとして大々的に世界に知らされた。周辺各国で直ちに救援の動きがみられたが、大国ほど動きが緩慢だった。政治家官僚が自国の損得にばかり関心を寄せている。民間の報道機関の情報の分析はするが、自らは動かない。



 セレン人の子孫たちにも様々な考えを持った者がいる。ユーラシア大陸中央山間部のキルギス共和国に暮らす民間人出身の者たちからもバイレットと戦おうとする好戦派もいるのだ。ヤマサチヒコを管理するトロンベコフ家などのセレン人がシベリアに急行している。日本で暮らす軍人出身の主戦派と合流するために移動している最中でのことだった。

 そのリーダー、トロンベコフ家のテミルベックはすぐに交戦を決め、指示を出した。元々セレンの民間の輸送船であるヤマサチヒコは、軍艦ウミサチヒコのような武装はない。500年の間に改装されて、最低限の武装は施されているが、防衛用。迎撃の対空兵器などが中心だ。


「俺がモノノフで出る。アイヌーラも一緒に行こう。ジャズグルとアルマグルは操船を頼むぞ。渓介は災害救助の指揮をよろしくな。ドローンのテストを兼ねて。戦闘は、いざって時のために控えていてくれ。カンギテンからのデータでは、モノノフの武装でバイレットのメカニカル・ビーストには対応できるはずだ。燈華が見事にアギュラフェンスの太刀でビーストを真っ二つにしたそうだからな。」

「御三家は剣術の達人ばかりよねえ。あたしも敗けてられないわ。」


 テミルベックとその長女のアイヌーラは、それぞれモノノフ一式、モノノフ三式を駆り、ソルバルウに騎乗し飛び立っていった。アイヌーラは父のテミルベックとセレンの軍人・武家の名門・御三家出身の渓介に馬術と武術、とくに薙刀(なぎなた)術を習っている。そして、渓介は日本からキルギスに出張しているセレン御三家の当主の一人。バイレットに対抗する無人機(ドローン)の開発と運用の責任者。セレンの科学技術を現在に継いでいるエンジニアだ。キルギスの地下深くの工廠で製造しているドローンの管理のためにキルギスへ来ていた。

 今、セレンの宇宙船ヤマサチヒコは、多種多様なドローンとキルギスからのバイレット対抗戦の志願兵を日本のカンギテンへと運ぶ補給艦となっていた。元々軍ではなく民間の出身のセレン人にも先祖の無念を晴らそうとする者たちは多くいる。宇宙船やドローンのオペレーターとして活躍したくて出番を待ち切れずにいる。そして、その出番はもうすぐ間近に迫っていた。


「タキオン粒子が観測されました。バイレットがDS(デス)アウトしてきたことは間違いありません。間もなくモノノフが接敵(エンゲージ)します。」

「ヤマサチヒコのタルケンシールドを展開。第一戦速。」


艦内も慌ただしくなっている。ヤマサチヒコとバイレットの巡洋艦との戦闘が始まる。





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