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俺は善人なんかじゃない  作者: エクレアだった物
日常編3

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43/54

第43話 日常編3完

昼休み。


 川中東陵高等学校の中庭には、珍しく人が集まっていた。


「……なんで俺までここにいるんですか?」


 大波一陽は、ベンチに座りながら弁当を開いた。


 向かいには御影川綾乃。


 その隣に鶴ヶ島和花。


 少し離れたところでは朝霞怜司が飲み物を片手に座っている。


 そして。


「一陽君、今日は外で食べるんですね」


 三芳美琴が笑顔でやって来た。


「ああ。会長に連れ出された」


「連れ出したって言い方ひどくない?」


 綾乃が抗議する。


「事実でしょう」


「だって、最近ずっと生徒会室でお昼食べてるじゃん」


「それが何か?」


「たまには外で食べようと思って」


「俺を誘う必要はないですよね」


「あるよ」


「なぜ」


「面白いから」


「理由になってない」


 和花が小さく笑う。


「でも、今日は天気もいいですから」


「まあ、それはそうですね」


 一陽は空を見上げた。


 雲は少なく、春の風が校舎の間を抜けていく。


 生徒たちの話し声も、普段の教室より少し遠く聞こえた。


「こういう場所も、たまには悪くないですね」


 和花が微笑む。


「でしょう?」


 綾乃が得意げに言う。


「会長が得意げになる意味は分かりませんけど」


「大波君、最近ちょっと私に厳しくない?」


「最近じゃないですよ」


「前から?」


「前からです」


「ひどい」


 綾乃が笑う。


 怜司が弁当を開きながら口を挟んだ。


「だが、確かに生徒会室よりは気分転換になる」


「朝霞もそう思うか」


「ああ」


「なら今日は成功ですね」


「大波君が成功判定するんだ」


「誰かがしないと話が進まないでしょう」


「そういうところだよね」


「何がです?」


「問題解決屋」


「……昼休みまでその呼び方するんですか」


 そんな会話をしていると。


「あれ?」


 美琴が一陽の弁当を覗き込んだ。


「一陽君、それだけですか?」


「普通ですけど」


「ちょっと少なくないですか?」


「そうか?」


「そうですよ」


 美琴が自分の弁当を見る。


「私の方が多いです」


「成長期だからじゃないか?」


「一陽君も高校生ですよね?」


「そうだけど」


「ちゃんと食べた方がいいですよ」


「……美琴まで和花先輩みたいなこと言うな」


「和花先輩?」


 美琴が和花を見る。


「私、何か言いました?」


「前に大波君へ、ちゃんと食べてくださいって言いました」


「やっぱり」


 一陽はため息をつく。


「なんで俺の食生活を心配されてるんだ……」


「心配されるような量だからじゃない?」


 綾乃が言う。


「会長は黙っててください」


「はいはい」


 その時。


「一陽君」


「何?」


「これ、食べます?」


 美琴が弁当から小さなおかずを差し出した。


「いや、いい」


「遠慮しなくても」


「本当にいい」


「でも少ないですよ?」


「……」


 一陽は少し考えた。


「じゃあ、一つだけ」


「どうぞ」


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


 それを見ていた綾乃がニヤニヤする。


「へえ」


「何ですか?」


「いや、仲良いなと思って」


「普通ですよ」


「美琴ちゃん、大波君には結構世話焼くよね」


「そうですか?」


「うん」


「……」


 一陽が箸を止める。


「なんで俺の周りには、こういう人が多いんだ」


「どういう人?」


「世話を焼いてくる人」


「一陽君が放っておけないタイプだからじゃない?」


 和花が穏やかに答える。


「自覚あります?」


「ありません」


 怜司が淡々と言った。


「自覚がないのが一番厄介だな」


「朝霞まで……」


「事実だ」


「そういうところだけ妙に正直だよな」


「お前に言われたくない」


「それはそう」


 美琴がくすくす笑う。


「一陽君って、生徒会ではこういう感じなんですね」


「どういう意味?」


「もっと礼儀正しい感じなのかと思ってました」


「……」


「でも、私達と一緒にいる時とかわらないですね」


「まぁな」


「はい」


 美琴は笑った。


「むしろ、いつもよりキレがいいです」


「それは誤解だ」


「誤解じゃないと思います」


 和花も頷く。


「私もそう思いますよ」


「和花先輩まで……」


「一陽君、否定する時だけ少し早いですよね」


「そうですか?」


「はい」


 綾乃が笑う。


「じゃあ試してみようか」


「何を?」


「大波君は面倒見がいい」


「違います」


「即答」


「だから違うんですって」


「じゃあ、美琴ちゃんが困ってたら?」


「助けますけど」


「ほら」


「……」


 一陽が黙る。


 怜司が眼鏡を押し上げた。


「会長の言い方が悪い」


「だよね」


「だが、大波が助けるのは事実だ」


「朝霞、お前はどっちの味方なんだ」


「事実の味方だ」


「一番厄介だな」


 四人が笑う。


 その時だった。


 中庭の向こうから、聞き覚えのある声がした。


「一陽〜!」


 一陽が振り返る。


「……杏か」


 蓮田杏がこちらへ走ってくる。


 その手には、もちろん。


「プリン」


「またか」


「うん」


「昼飯は?」


「食べた」


「ならいいけど」


 杏は当然のように一陽の隣へ座った。


「ここで食べていい?」


「俺に聞くな。会長に聞け」


「会長」


 杏が綾乃を見る。


「いいよ」


「やった」


「大波君、もう保護者だね」


「違います」


 杏はプリンの蓋を開ける。


 その様子を見て、美琴が笑った。


「杏ちゃん、こんにちは」


「こんにちは、美琴」


「今日はプリンなんですね」


「うん」


「好きですね」


「一番好き」


「そうなんだ」


 美琴が微笑む。


 杏は少し考えてから、美琴の弁当を見る。


「美琴、それおいしそう」


「食べる?」


「いいの?」


「一つだけね」


「ありがとう」


 杏が嬉しそうに受け取る。


 一陽がその様子を見て呟いた。


「……なんか、自然に馴染んでるな」


「杏ちゃん、誰とでも仲良くなるわけじゃないですよ」


 美琴が言う。


「そうなのか?」


「はい。でも、気に入った人にはすごく素直です」


「なるほど」


 杏は美琴からもらったおかずを食べる。


「おいしい」


「よかった」


「美琴、優しい」


「ありがとう」


「一陽も優しい」


「なんで俺まで」


「プリン買ってくれるから」


「基準がプリンなのかよ」


「大事」


「そうですか……」


 綾乃が笑う。


「大波君、ちゃんと評価されてるじゃん」


「複雑です」


 昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。


「あ」


 美琴が立ち上がる。


「もう時間ですね」


「戻るか」


 一陽も立ち上がる。


 杏は食べ終わったプリンの容器を持ったまま、一陽を見る。


「一陽」


「何?」


「放課後も生徒会?」


「たぶん」


「じゃあ、あとで行く」


「授業終わってからな」


「うん」


 杏が頷く。


 綾乃が一陽の肩を軽く叩いた。


「じゃあ、放課後もよろしくね」


「……何で俺が当然のように参加する前提なんですか」


「もう慣れたでしょ?」


「何に?」


「私たちに」


「……」


 一陽は少しだけ周囲を見た。


 綾乃。


 和花。


 怜司。


 美琴。


 そして杏。


 少し前までなら、こんなふうに誰かと昼休みを過ごすことすら、面倒だと思っていた。


 けれど。


「……まあ」


 一陽は小さく息を吐く。


「悪くはないです」


「でしょ?」


 綾乃が笑う。


「ただし、午後の仕事はちゃんとしてください」


「もちろん」


「会長が一番怪しいんですよ」


「ひどいなあ」


 美琴が笑い、和花も笑う。


 怜司は呆れながらも、どこか楽しそうだった。


 杏はプリンの容器を掲げる。


「一陽」


「何?」


「午後もよろしく」


「はいはい」


 そう返して、一陽は歩き出した。


 その後ろから、美琴たちも続いていく。


 昼休みの中庭。


 特別な出来事なんて何もなかった。


 ただ、一緒に弁当を食べて。


 くだらない話をして。


 少し笑っただけ。


 それでも。


 一陽にとっては、そういう何気ない時間こそが――少しずつ大切なものになり始めていた.

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