↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は善人なんかじゃない  作者: エクレアだった物
第四章『生徒会は、問題解決屋を知っている』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/54

第37話

次に向かったのは、二年四組だった。


 ここも体育館を使う予定だが、二年二組とは事情が違った。


「うちは、体育館じゃないと困ります」


 代表らしい女子生徒が即答した。


「実演があるので、教室では狭すぎます。多目的ホールでもできますが……」


「何か問題が?」


「毎年、二年四組を見に来る三年生が多いんです。楽しみにしてくれていて」


 一陽は資料を確認した。三年生の一部が毎年参加している。二年生だけで予定を組み直しても、三年生に影響が出る。


「三年生側の予定も見せてもらえますか?」


「実は、一年生側にも問題がある」


 怜司が別の資料を開いた。


「一年一組が体育館のステージを使う予定だ。当初は短時間だったが、三年生の観客が増える可能性が出ている」


 一陽は資料を見つめた。


 一年生、二年生、三年生。それぞれの事情が学年間で繋がっている。


「二年二組を動かせば三年生に影響し、二年四組を動かせば一年生に影響する」


「そういうことだ」


「学年ごとに予定を管理しているから、余計に複雑になっているんじゃないか?」


 怜司が顔を上げる。


「参加する側は学年で分かれていない。なら、予定表も一つにまとめればいい」


「量が多すぎる」


「企画を全部載せる必要はない。見るべきなのは、企画側の都合より観客の動きだ」


 一陽は紙に三本の線を引いた。


「例えば、一年一組を十三時から体育館で行い、その後、二年四組を十三時四十分から見る。観客はその間に移動する」


「体育館に空き時間ができるぞ」


「空いていい。空白があれば人が移動できる。一か所への集中も避けられる」


 怜司が頷いた。


「空白時間を交通整理に使うのか」


「ああ。ただし、学年を跨いだ調整が必要だけどな」


「誰がやる?」


「生徒会と各学年の代表。各学年から条件を出してもらい、生徒会でまとめる」


 和花が頷いた。


「それなら、生徒会が勝手に予定を変えたという印象も薄くなりますね」


「決めるのは生徒会。でも、材料は各学年から出してもらう」


 怜司が眼鏡を押し上げた。


「もっと無茶な案を出すと思っていた」


「俺を何だと思ってるんだ」


「噂では、問題を起こす人間だ」


「問題が俺のところに来てるだけだよ」


 綾乃が笑った。


「決まりだね。一年生、二年生、三年生、全部繋げよう」


「言い方が悪い」


「じゃあ、全部巻き込もう」


「もっと悪くなった気がする」


「でも、いい案だと思います」


 和花が微笑む。


「本当の意味で校内交流になりますから」


 一陽は教室の外を見た。


 今までの計画は学年ごとに閉じていた。だから、どこかが動けば別の場所が崩れる。


「ただし、条件があります」


「何?」


「生徒会の名前で一方的に押し付けないこと。みんな、自分たちの準備が無駄になるのを怖がっている。『従え』ではなく、『こうすれば準備をそのまま使える』と説明するんです」


 怜司が頷いた。


「俺も各学年の代表との話し合いに同席する。今回の予定表をまとめた側だからな」


 一陽は周囲を見回した。会長の綾乃、副会長の怜司、書記の和花。生徒会の主要なメンバーは、今ここに揃っている。


「そういえば、生徒会の他のメンバーはいないんですか?」


「いるよ。ただ、別の作業を任せている」


 綾乃が答えた。


「会場の備品確認や各クラスへの連絡、申請書類の整理をしてもらってる。全員をこっちに連れてくるより、役割を分けた方が効率がいいからね」


「なるほど。だから、ここには来ていないんですね」


「必要になれば呼ぶけど、今はそれぞれの仕事を進めてもらってる」


「俺なら面倒で逃げる」


「一陽はもう会長に捕まっているから逃げられない」


「それもそうだった」


 綾乃が満足そうに笑った。


「じゃあ、次は一年生だね」


     ◇


 一年生のフロアへ向かうと、生徒会長、副会長、書記、そして二年生の一陽という組み合わせだけで目立った。


「例の問題を起こした先輩じゃない?」


 廊下から声が聞こえる。一陽は聞こえないふりをした。


 やがて一年生の代表者たちと合流する。


「この企画で、絶対に変えられない部分は?」


「ステージです」


「観客数は?」


「できれば多い方が。三年生も見に来てくれるので」


「時間は変えられますか?」


「少しなら」


「なら、今の予定を守るより、準備したものを無駄にしないことを優先しましょう」


 一年生たちは顔を見合わせ、頷いた。


 その場を離れると、綾乃が笑った。


「大波君って、思ったより人の話を聞くよね」


「問題を解決するなら、当然でしょう」


 その時、廊下の向こうから三年生の集団が歩いてきた。


「三年側もかなり揉めてるよ。二年四組と時間が被ってるし」


「やっぱり、三年生も二年四組を見たいんですね」


 綾乃が頷く。


 一陽は校内図を広げた。


「学年ごとの企画を順番に並べるんじゃなく、最初から混ぜた方がいい」


「一年生、二年生、三年生を?」


「はい。一年生の企画の隣に三年生、その次に二年生。学年をばらけさせれば、一か所に人が集中しません」


 怜司が地図を見る。


「観客が自然に校内を移動する」


「そうです」


 一陽は三年生たちに尋ねた。


「皆さんが絶対に見たい企画は?」


「二年四組と一年一組」


「逆に、三年生の企画で下級生に来てもらいたいものは?」


 三年生たちは顔を見合わせた。


「……結構ある」


「ですよね」


 ようやく見えてきた。


 これは時間が足りない問題ではない。全員が自分の予定を守ろうとするから、予定同士がぶつかっている。


 なら、予定を守ったまま全体を動かせばいい。


「朝霞。生徒会室に戻ったら、全部の企画を一枚にまとめよう。学年別じゃなく、校内全体の地図に」


「分かった」


「綾乃先輩、各学年の代表を集めてもらえますか?」


「任せて」


「和花先輩は、各企画の『絶対に変えられない条件』を整理してください」


「分かりました」


 三人が動き始める。


 最初は面倒なだけだと思っていた。けれど、今は少し楽しくなってきている。


 誰かを負かす必要も、予定を奪う必要もない。全員が少しずつ見方を変えればいい。


「珍しいな」


 怜司が隣に立った。


「何が?」


「君が楽しそうだ」


 一陽は校内図を見ながら笑った。


「たまには、全員が得する問題解決も悪くないだろ」


 怜司はしばらく黙り、小さく頷いた。


「……そうだな」


 ただし、この時の一陽は知らなかった。


 全学年を巻き込んだことで、表に出ていなかった別の問題まで浮かび上がることを。


 そして、その問題こそが、交流フェスティバルを本当の意味で難しくすることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。