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俺は善人なんかじゃない  作者: エクレアだった物
日常編1

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第17話

翌週の昼休み。


一陽が弁当を食べ終えたところで、教室の扉から照平が顔を出した。


「ハル、放課後って暇?」


「暇」


「よし。付き合え」


「何に?」


「買い物」


「一人で行けよ」


「冷たい!」


照平が大げさに胸を押さえる。


「友達に向かってそれはないだろ!」


「何を買うのか聞いてない」


「バスケ用品。荷物持ち」


「帰る」


一陽が席を立とうとすると、照平が慌てて肩を掴んだ。


「待てって!」


そこへ咲が教室にやってきた。


「またハルで遊んでるの?」


「遊んでねえよ。ちゃんと誘ってる」


「荷物持ちとして?」


咲が呆れると、照平は両手を上げた。


「……言い方!」


一陽は二人を見てため息をついた。


「俺、帰っていい?」


「駄目」


照平が即答する。


「即答かよ」


「どうせハルが断ると思って、私まで呼んだんでしょ?」


咲が照平を見据える。


「正解」


「開き直るな」


一陽は二人を交互に見てから、少し考えた。


「……まあ、いいけど」


照平が拳を握る。


「よし!」


「ただし、荷物は自分で持て」


「えー」


「当たり前だろ」


「ケチ」


「なんで俺が悪いんだよ」


咲が笑った。


「いつもの二人だね」


「どこが?」


一陽が聞き返す。


「全部」


---


放課後。


一陽、照平、咲の三人が駅前の店へ向かっていると、後ろから声がした。


「大波くん」


振り返ると、美琴が立っていた。


「あ、三芳さん」


「今から帰るの?」


「うん。照平の買い物に付き合うんだ」


「そっか」


美琴は三人を見回した。


「……楽しそう」


「俺たち、バスケ用品を買いに行くんだ」


照平が一陽に代わって答える。


「大波くんも?」


「巻き込まれた」


「ひどい言い方だな!」


美琴は少し笑った。


「じゃあ、行ってらっしゃい」


「三芳さんは?」


「私は図書室に行こうかなって」


「一人で?」


「うん」


「じゃあ、一緒に――」


一陽が言いかけると、咲が横から口を挟んだ。


「ハル、今、何でも自分が付き合おうとしたでしょ」


一陽は黙った。


美琴も笑う。


「大丈夫だよ。今日は一人で行きたいから」


「……分かった」


以前なら、そのままついていこうとしていただろう。


けれど今は、相手が自分で選んだことを受け入れられる。


「じゃあ、また明日」


「うん。また明日」


美琴が図書室のある校舎へ向かって去っていく。


その背中を見送ってから、照平が一陽の肩を叩いた。


「成長したじゃん」


「何が?」


「『俺がやらなきゃ』って顔しなかった」


「そんな顔してた?」


咲が即答する。


「してた」


「二人とも俺のこと見すぎだろ」


「ずっと見てるからね」


咲が笑った。


---


駅前の店に入ると、照平はすぐにバスケ用品の棚へ向かった。


「これどう?」


「普通」


「感想それだけ?」


「何て言えばいいんだよ」


咲も商品を覗き込む。


「照平、これ前に買ったやつと同じじゃない?」


照平の手が止まる。


「……色違い」


「いらないじゃん」


「いる! 気分!」


一陽が小さく笑う。


「理屈がないな」


「スポーツ用品に理屈を求めるなよ」


「お前、さっきまで俺に論理を求めてただろ」


「俺はいいんだよ」


「都合がいいな」


照平が別の商品を手に取る。


「そういうこと言うなら、もう一つ選ぶの手伝えよ」


「自分で選べ」


「親友だろ!」


「それを理由にするな」


三人で笑いながら店内を進んでいると、店の奥から声が聞こえてきた。


「一陽先輩?」


振り返ると、凪が立っていた。隣には美月がいる。


「……凪?」


「やっぱり一陽先輩だ」


凪が近づいてくる。


「どうしてここに?」


「買い物」


「何を?」


「写真用品」


凪が袋を持ち上げる。


「お姉ちゃんと一緒に来た」


美月が一陽たちに小さく頭を下げた。


「偶然ですね」


「本当に偶然だな」


「一陽先輩は?」


「照平の買い物」


「荷物持ち?」


「違う」


一陽が否定すると、照平が横から口を挟んだ。


「違わないだろ」


「おい!」


一陽が照平を睨む。


美月が二人を見て微笑んだ。


「仲が良いんですね」


「まあ。こいつ、俺の親友なんで」


一陽が一瞬だけ黙る。


「……急に言うなよ」


「なんで?」


「恥ずかしいだろ」


「今さら?」


凪がくすくす笑う。


「一陽先輩、照れてる?」


「照れてない」


「顔に出てるよ」


「出てない」


咲が横から言う。


「出てるよ」


「お前まで言うな」


美月も穏やかに笑った。


「ふふ……」


「海老名先輩まで笑わないでください」


「すみません。でも、少し微笑ましくて」


「……もう帰りたい」


「まだ買い物終わってねえぞ!」


照平が慌てて一陽を止めた。


---


買い物を終えて店を出ると、六人は駅前の小さな公園へ向かった。


照平がベンチに座る。


「疲れたー」


「買い物しただけだろ」


「歩いた。それが疲れるんだよ」


咲が呆れる。


「照平って、本当に体力あるのかないのか分からないね」


「あるよ!」


「じゃあ走る?」


「今はない」


「ほら」


「今はって言っただろ!」


凪が笑う。


「面白いね、この二人」


「大波君と狭山君?」


美月が尋ねる。


「確かに」


美月が一陽を見る。


「大波くん、普段より楽しそうです」


「そう?」


「はい」


「……まあ、楽しいからな」


一陽が答えると、凪が目を丸くした。


「素直じゃん」


「何が?」


「楽しいって言った」


「言うくらい普通だろ」


「前なら言わなかった気がする」


一陽は少し黙る。


「……そうかもな」


美琴とは違う。


咲とも違う。


照平とも違う。


美月とも、凪とも。


一緒にいる相手によって、自分の話し方まで少し変わっている。


それが嫌ではなかった。


---


「そういえば」


美月が言った。


「今度、学校で進路相談がありますよね」


凪の表情が少し固まる。


「……うん」


一陽は凪と美月を見た。


「武蔵浦霞のこと?」


「はい。まだ調べているところです」


凪が続ける。


「この前より、ちゃんと話せるようになったよ」


「それならよかった」


「一陽先輩も来る?」


凪が尋ねる。


「俺?」


「うん。前に一緒に調べてくれたし」


美月も続けた。


「もし大波くんがよければ、お願いしたいです」


一陽は少し考える。


「俺がいてもいいなら」


「もちろん」


凪が即答する。


美月も頷いた。


「はい。大波くんがいてくれると、私も落ち着きます」


「……俺、そんなに頼りになる?」


「頼りになりますよ」


美月が微笑む。


凪が横から口を挟んだ。


「ただし、お姉ちゃん。今度は一陽先輩に全部任せちゃ駄目だからね」


美月が少し困った顔になる。


「分かっています」


一陽は二人を見て笑った。


「俺も全部はやらないよ」


凪が目を細める。


「本当に?」


「本当」


咲が横からぼそっと言った。


「……たぶん」


「おい」


照平が笑う。


「信用されてねえな、ハル」


「誰のせいだよ」


「自業自得じゃん」


「照平まで……」


六人の笑い声が、公園に響いた。


---


帰り道。


公園で別れたあと、一陽と咲は駅から二人で歩いていた。


「今日、結構しゃべったね」


咲が言う。


「そうだな」


「疲れた?」


「少し」


「嫌だった?」


「いや」


一陽は少し前を見た。


「……むしろ、こういうほうがいいかも」


「何が?」


「誰か一人と話すのもいいけど、みんなで適当に話してるほうが楽」


咲は嬉しそうに笑った。


「ハル、変わったね」


「またそれ?」


「だって本当にそう思うから」


「俺は俺だけど」


「うん。そこは変わらなくていいよ」


一陽は少しだけ笑った。


「……それなら安心した」


夕方の道を、二人は並んで歩く。


以前なら、沈黙になれば一人になろうとしていた。


今は違う。


何も話さなくても、隣に誰かがいる。


それだけで、妙に落ち着く。


一陽はふと空を見上げた。


「……明日も暇かな」


「暇なら?」


「誰か誘ってみようかな」


咲が足を止めた。


「え?」


一陽も止まる。


「何?」


「いや……ハルからそんなこと言うとは思わなくて」


「俺だってたまには誘うよ」


「誰を?」


一陽は少し考える。


「……照平」


「そこは私じゃないんだ」


「冗談」


「もう」


咲が笑う。


一陽も笑った。


その笑い方は、以前より少しだけ自然だった。

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