第12話
放課後。
第二資料室。
美琴は机に資料を広げた。
昨日までは「自分が悪くなかったこと」を探していた。
今日は違う。
「何が起きたのか」を確認する。
美琴は、展示物管理表、第二資料室の鍵貸出記録、文化祭実行委員の当日予定表、実行委員のグループチャット、各クラスの展示物使用記録を並べた。
「……よし」
まず、展示物八枚の所在と、鍵の貸出記録を時系列で確認する。
展示物管理表によると、八枚が最後にまとめて確認されたのは十五時二十分だった。
美琴は自分の予定表と照らし合わせた。
「十五時十分から十五時三十五分まで、体育館前で打ち合わせ」
十五時二十分には、確かに体育館にいた。
ただ、それだけでは証拠として弱い。事前に展示物を持ち出していた可能性があるからだ。
美琴は鍵の貸出記録を確認した。
自分の貸出と返却の下に、別の貸出記録がある。
時刻は十五時二十八分。
「十五時二十八分……」
その時間も、美琴は体育館にいた。
つまり、第二資料室には入れない。
「……私が最後に鍵を持ってたわけじゃない」
胸が少し熱くなった。
けれど、これで終わりではない。無実を証明するだけでは、八枚の行方は分からない。
美琴は展示物管理表を開き、八枚を一枚ずつ追った。
①は二年一組へ貸し出され、返却記録はない。
②は一年三組へ貸し出されている。
③も二年一組へ貸し出されたが、途中で別の教室へ移動している。
④と⑤も貸出記録だけが残っている。
⑥には、第二資料室から持ち出された記録がある。
⑦は使用場所が空欄。
⑧は予備。
美琴は、八枚の所在と記録をノートに整理した。
「……紛失したんじゃない」
一枚ずつ追えば、同じ場所から消えたわけではない。
「管理できてなかったんだ」
誰か一人が持ち出したのではない。
複数の人間が使い、別の場所へ運び、返却を確認しないままになっている。
最後に、美琴が鍵を持っていた。
それだけだった。
「……私一人の問題じゃない」
口にすると、少し怖かった。
誰かを責めることになるかもしれない。
それでも、確認しなければならない。
美琴は資料を持って、文化祭実行委員のもとへ向かった。
最初に話を聞いたのは、展示担当の男子だった。
「この日、第二資料室の鍵を借りた?」
「俺? ……借りたかも」
「十五時二十八分の記録」
「ああ……たぶん、俺だ」
「何を取りに行ったの?」
「展示シートを何枚か」
「どこに持っていった?」
「一年三組。頼まれてたから」
「誰に頼まれたか、覚えてる?」
「……そこまでは」
「返した?」
男子は黙った。
「……覚えてない」
美琴は頷いた。
「分かった。ありがとう」
男子が不思議そうに尋ねる。
「怒らないの?」
「え?」
「三芳、結構責められてたじゃん」
美琴は少し考えた。
「だからって、今度は私が誰かを責めるのは違うと思う」
「……そっか」
美琴は次の人に話を聞いた。
その次の人にも。
少しずつ証言が集まった。
二年一組へ持っていったという委員。
一年三組から戻したと思うという委員。
けれど、誰も正確には覚えていない。
記録も途中で途切れている。
美琴は、誰が、いつ、どこへ、何を持っていき、返却したのかをノートにまとめた。
「……これなら」
十分とは言えない。
それでも、「三芳美琴が八枚を紛失した」だけでは説明できない。
美琴は第二資料室へ戻り、一陽にメッセージを送った。
『分かったことがあります』
『何が?』
美琴は資料の写真を送った。
『八枚全部が私の管理下でなくなったわけじゃありません』
『鍵も、私が返した後に別の人が借りています』
そして、最後に送る。
『一緒に確認してほしいです』
数秒後、返信が来た。
『分かった』
たった四文字だった。
それでも、美琴は少し安心した。
翌日の昼休み。
二人は誰もいない旧校舎の廊下にいた。
「これが全部?」
一陽が資料を見る。
「うん。鍵の記録がこれで、展示物の記録がこっち。証言は……これ」
「ずいぶん集めたな」
「まだ足りないと思うけど」
一陽は黙って資料を確認した。
しばらくして、資料を机に置く。
「……これなら言える」
「何を?」
「三芳さん一人に責任を押しつけるのは無理がある」
美琴は頷いた。
「私もそう思う」
「でも、ここから先は俺が言う」
美琴の顔が曇る。
「……また一人で悪者になるつもり?」
一陽は答えなかった。
その沈黙で、美琴には分かった。
「大波くん。私も行く」
「駄目だ」
即答だった。
「どうして?」
「三芳さんは当事者だから」
「大波くんも当事者でしょ」
「俺は――」
「私のために嫌われた」
一陽が黙る。
「だったら、今度は私も一緒に行く」
美琴は資料を抱え直した。
「私が調べたことだから。私が自分で話す」
一陽は美琴を見た。
以前の彼女なら、ここで引いていた。
「大波くんに任せます」と言っていたはずだ。
でも、今は違う。
一陽は小さく息を吐いた。
「……分かった」
美琴の表情が緩む。
「ただし、俺も言うことは言う」
「分かってる」
「たぶん、かなり言う」
「……それも分かってる」
二人は資料をまとめた。
翌日の放課後。
文化祭実行委員と担当教師を交えた確認の場が設けられた。
美琴が、展示物八枚の所在と鍵の貸出記録を整理した資料を机に置く。
一陽も、その隣に立つ。
まだ誰も知らない。
ここから、一度は一陽を悪者にした空気そのものが、ひっくり返ることを。
ただし、一陽には、その後、自分が何を引き受けることになるのか、まだ分かっていなかった。




