第9章:初めての血の染み
「ニ……ニコ?」
聞き覚えのある声だった。だが、今まで聞いたことのないほど震えていた。見知らぬ男の頭蓋骨を、自分の弟が足で踏み砕いている光景。足元に広がる血だまり。
「お、俺……望んでなんか……」ゆっくりと、俺は顔を上げた。グスタボが、怯えた目でこちらを見ていた。
体が動かなかった。涙が、これほど零れ落ちる寸前まで来たことは、今までなかった。
俺は人を殺した。俺は人殺しだ。
正当防衛だろうとなんだろうと、これは殺人だ。俺は、自分の意志で、一人の男を殺すことを選んだ。
俺は人殺しだ。それは、一生変わらない。
本当に、俺は——
いや。
これが、俺が殺した最初の人間というわけじゃない。
「ニコ……」グスタボは慎重に、数歩近づいてきた。「だ、大丈夫……お、俺たちは——」
「他に方法なんてなかったんだ、クソッ!!」
俺はよろめいて後ずさり、何かに足を取られて、ファブリツィオの死体の上に倒れ込んだ。
「あ、あいつ、戻ってくるって言ったんだ……ほ、他に道はなかった、本当だ!あいつは軍を呼んで、俺たち全員を殺すつもりだったんだ!」
俺は体を丸めた。鎧は、傷だらけではあったが、汚れてはいなかった。輝いていた。わずかに、情けないほど草の跡がついているだけだった。
頭部は……血が、ほぼそこに集中していた。両目が飛び出し、頭蓋骨は砕け散り、歯は折れて散らばり、脳が剥き出しになっている——
ち、違う、違う……こ、こんなのおかしい、俺はただ蹴っただけだ。何か見間違えてるんだ!これは幻覚か何かなのか?あ、あいつ、まだ生きてるはずだよな?
「ニコ!」グスタボがいきなり俺の目の前に来て、両手で俺の頬を挟んだ。
「お前のやったことは、絶対に間違ってない」
それで、俺は止まった。瞬きをして、初めて彼の言葉がちゃんと耳に入ってきた。
「お前は正しい選択をしたんだ。あいつは戦士だった。戦いの中で死ぬことを、いつもわかってたはずだし、たぶん望んでもいたはずだ。それ以上の誉れなんて、あるわけないだろ!?」
「わかってない……」俺は地面を見つめた。「お、俺は……お、俺は説得しようとしたんだ、立ち去って、平和に生きてくれって、で、でもあいつは拒否した!あ、あいつ、今殺さなきゃ教皇の軍隊を呼ぶって言って、それから不意打ちを仕掛けてきて——」
「それでいい!」グスタボの声が、それを遮った。「な……俺も……俺も、あの男を殺したんだ」
「お前……お前も?」
「ああ」グスタボはため息をついた。「あいつも、俺に選択肢を与えなかった。戦士ってのは、そういうもんなんだろうな。絶対に諦めないとか、そういう」
噓つきめ。俺を支える彼の指が、何度もずれそうになっていた。目が合うたびに、彼の瞳が揺れていた。グスタボは誰も殺していない。嘘をついているんだ。
だが……それは、俺を慰めるためのものだ。
「ほ、本当に……」俺はつかえながら言った。「ほ、本当に大丈夫なのか、俺がただ……」
「絶対に大丈夫だ。あれは正当防衛だ。お前が言った通り、あいつはお前に不意打ちを仕掛けようとした。でも、たとえそうじゃなかったとしても、大丈夫だ。戦士なら、いつでもやることだ」
それは事実だ……俺はずっと中世の騎士になりたかった。誰よりもそれをよくわかっている。
「あいつが祖国に戻って文句でも言ったら、ここに軍隊がやって来てた。ニコ、お前は正しい選択をしたんだ」彼は、さっきより柔らかい声で言った。
俺は答えなかった。答えようがなかった。
だが、少しだけ、落ち着いた気がした。
「来い」彼は俺の腕を掴み、立たせてくれた。俺はされるがままだった。
「本当に、お前のこと誇りに思うよ、ニコ」彼は俺の髪に手を置いた。「お前は本物の男だな。泣きもしなかった」
それは本当だ。ニコラウ・ブリトンとして、俺は一度も涙を流したことがない。それがいいことなのかどうか、俺にはわからない。まあ、どうでもいいか?何かの病気なのかもしれない。
「で、大丈夫か?」彼は、いつもの笑みを浮かべて聞いた。
「うん……」俺は彼の目を見ることができなかった。
「じゃあ、行こう。家で少し休んだ方がいいと思う。それと、腕を強く掴みすぎてたらごめん、かなり痛んでるみたいだから」
彼が先を歩いた。俺はその後を、少し遅れてついていった。
「そうだ、先に教会に寄って、フランバー先生に傷を治してもらおう。先生が無事かどうかも確かめないと。それに、回復魔法を俺たち二人に教えてもらえないかなとも思ってるんだ。どう思う、ニコ?」
「……」
「ニコ?」
「グスタボ……あいつの死体、どうするつもりなんだ?」俺は聞いた。
「ああ、心配するな。俺が片付けておく」
「グスタボ……飛んで行けるか?」
彼は一瞬、ためらった。「うーん、お前、飛べるか?俺が運んでやろうか、それとも?」
「平気だ」
「……わかった。じゃあ、行こう」
俺たちは飛び立った。高度を上げるごとに、森がどんどん小さくなっていく。
そしてついに、血の跡は見えなくなった。
「ニコ、こっちだ」彼が呼びかけた。
俺はグスタボの方を見た。それまで、俺はずっと、自分たちが立っていたあの場所だけを見つめていた。
「行くぞ」彼は腕を一本伸ばし、体を水平にした。「ゆっくり行こう、自分の体に無理させるなよ」
俺は答えなかった。そして今回は、両手を伸ばすことすらしなかった。ただ、飛んでいるだけだった。
……何かが、引っかかっている。今、思い出した。あの真実を。
俺は——
「ニコ、着いたぞ」顔を上げると、もう教会の扉が目の前にあった。
「ああ……」俺はふわりと降り、足をつけた。
「大丈夫か?」彼が聞いた。
「うん……心配するな」
「わかった。でも、頼むから、中で少し休んでくれ」
「もう空の上で休んだ」
「いや、それはカウントしない」
「でも……」グスタボは目を逸らした。何か、喉に引っかかっているようだった。
「ニコ、この件について、母さんには言わないでくれ」
俺は数秒、黙っていた。それを言うのは自分の方だと思っていた。彼じゃなく。
「わかった」
「ありがとう……それと、すまない」
トントン。グスタボがドアを叩いた。
「先生、フランバー先生、俺たちです!」
教会の門が開いた。
「お前たちか!?」フランバー医師の声が鋭く飛んだ。彼は汗だくで、疲れ切った様子だった。
「先生、大丈夫ですか?」グスタボが聞いた。
「それはこっちの台詞だ!外国人が二人、うちのドアを叩いてきたんだぞ、開けなかったら、その後——」
「もう帰りましたよ」グスタボは落ち着いた声で言った。臆面もなく嘘をついていた。
「本当か?」フランバー医師は戸惑った様子だった。
「はい。話し合いだけで、帰ってもらいました」
「な——何だって?お前たち、あいつらと一緒にいたのか?ここのドアのすぐそばで、走る足音みたいなものが聞こえたんだ。叫び声もな、あれはお前たちの——」
「少し大変ではありましたけど、大したことは起きてません。先生、お願いです、中に入れてください——傷を負ってるんです」
「き、傷だと!?坊主、嘘をつくのはやめろ。一体何が起きたんだ——」
「お願いします、先生」グスタボの声が、冷たくなった。「とにかく、中に入れてください」
フランバー医師は眉をひそめ、強い口調で言った。「全部、ちゃんと説明してもらうぞ」
グスタボは頷いた。
ついに、フランバー医師は折れた。脇に身を引いた。
グスタボが先に、すばやく中に入った。俺は少し遅れてから、その後に続いた。
これから先、この先生の目を、今までと同じように見られるんだろうか?
この人は人の命を救う人で、それなのに俺は……
俺はこの世界にいる。俺は……わからない、俺は……ニコラウ・ブリトン。俺は……俺は……俺はニコラウだ。そうだよな?
ああ……一体、何を言ってるんだ俺は?まあいい……
◇◇◇
二時間が過ぎた。その大半を、俺は教会の小さな部屋に座って過ごした。その間、グスタボは先生に事情を説明していた。残りの時間は、フランバー医師に傷を治してもらっていた。途中で疲れたのか、グスタボが本当のことを話したような気もする。あるいは、もっと手の込んだ嘘だったのかもしれない。よくわからない。聞こうともしなかった。正直、どうでもよかった。
俺は……もう少し、飛びたい気分だった。
窓を開けると、空はまだとても青かった。
たぶん、午後四時くらいだろう。あまり長く外にいたら、エドゥアルダが心配するかもしれない。俺はまだ、六歳なんだから。
それとも、本当は二十九歳、だっけ?ハハ……
行こう。
俺は窓から、後ろ向きに飛び出した。予定通り、落ちなかった。ただ、静かにそこに浮いているだけだった。
分厚く灰色の雲が、太陽を呑み込んでいるのを見上げた。本当に天国というものがあるのか、ふと考えてしまった。自分がそこに入ることを許されるのかどうかも。
答えはもうわかっていた。ニコラウ・ブリトンになった瞬間、俺の可能性はゼロになったんだ。それに、今やっと、はっきりと気づいた。
「あ」一滴が、頬に当たった。それから、もう一滴。
そうだ、あの雲は灰色だったんだ。
以前は、眠るために雨音を流していた。心が落ち着いたから。だが、雨には、それ以外にも俺を引きつける何かがある。
小さな記憶。
俺は漂い始めた。地面の方へ、急がずに——ただ、その感覚を確かめるように、あちこちをふわふわと移動するだけだった。
いい感じだった。覚えていたよりも、ずっと。風が頬の周りを動き、俺の進む先についてくる。雨が周りすべてを包み、あらゆる音をくぐもらせていた。
特に何も考えないまま五分ほど経った頃、俺はようやく自分に問いかけた。一体、俺は何をやってるんだ?
……わからない。答えられない。
「ニコ!!」雨を切り裂くように、声が聞こえた。
捕まったか。まあいい、俺は——いや、待て。今の声、ちょっと高すぎる。
下を見た。気づかないうちに、ベラさんの家のちょうど真上を漂っていたらしい。下の開いた窓から、小さな女の子の顔が見えた。まだ少し金髪が残っている。パタだ。
「く、クソ……」俺は呟いた。見つかった。
明らかに、必死で俺の気を引こうとしている。たった今、俺が飛んでいるところを見られたんだ。今この瞬間、彼女の好奇心は限界知らずのはずだ。
他に選択肢は、あまりなさそうだ。
彼女の叫び声が、秒ごとに大きくなっていくので、仕方なく彼女の窓まで漂っていった。窓枠に降り立つ。雨粒がもう家の中に入り込んでいて、ちょっと気まずい気分になった。
「ニ、ニコ、飛べるの!?」彼女は目を見開いて聞いた。
「ああ……実は、これは——」
「とにかく、その雨の中から出て!」彼女は俺の腕を掴んで、中へ引っ張り込んだ。俺はすぐに、彼女の絨毯をびしょびしょにしてしまった。
彼女は窓を閉めた。彼女の部屋は、俺の部屋によく似ていた——小さな木製のベッド、教会が正面に見える大きな窓が一つ。
彼女に何と言えばいいのか、よくわからなかった……俺は——
「ちょっと待ってて」パタは——まだ四歳の彼女は——そう言うと、あっさり部屋を出ていった。
え、何だ?彼女は——ま——待てよ……ああクソ、わかりきってるじゃないか!家族全員に、俺が飛べるって言いふらすつもりなんだ——
「はい、どうぞ」パタは俺に、何の変哲もない白い毛布を投げて寄越した。「体、拭いてください。エヴァみたいに風邪をひいたら、大変なことになりますから」
ああ……予想外だ。
「ありがとう」俺は毛布を髪と顔に当てた。何だか、気持ちよかった。
「お前の姉さん、病気なのか?」
「はい。エヴァは風邪をひきました。たぶん、天気のせいです。あの人、ちゃんと厚着しないので」声は落ち着いていたが、座って俺を見つめるその瞳の奥には、何か落ち着かないものがあった。理由は、俺にもわかった。
フェショの気温はそこまで厳しくない——冬に近いが、真冬ではない。エヴァはもう少し気をつけるべきなんだろう。
「大丈夫なのか?」中世では風邪がもっと命取りだったことを思い出した。
「はい、心配いりません。ただ、一ヶ月はベッドで安静にしないといけませんけど」
「フランバー先生に、治してもらえばいいんじゃないのか?」
パタはじっと俺を見た。「回復魔法は、病気を治せません。知らなかったんですか?」
ああ、ついにこの話題か。それにしても、四歳にしては、ずいぶん丁寧な喋り方だ。
もう、隠すのは無理だな……
俺は最後の髪の毛を拭き、濡れた布を首の後ろにかけた。
「なあ、パタ……俺——」
「飛べるんですか!?」やっぱり、好奇心の強さは姉妹で同じレベルらしい。
「ああ……」俺はため息をついた。「飛べる」
パタは立ち上がった。さっきまでの落ち着きは、すべて消えていた。
「す、すごい!本当に飛べるんですか!?天国にも行けるんですか?宇宙は!?月とか、太陽とか!?もう試しましたか!?絶対試してください!ニコ——」
「お、おい、落ち着けって!た、大したことじゃないんだから」
「大したことなくないです!飛べるんですよ!」
「違うんだ……こ、これは、見つけたポーションを使って——」
こいつに嘘をつく意味なんて、ないか……
「パタ、頼むから、誰にも言わないでくれ」俺は静かに言った。
パタはベッドに座り直し、いつもの様子に戻った。「わかりました」
「本当に?てっきり——」
「ただし、その代わりに、何かもらえるなら」
ああ、こうなることは、予想しておくべきだったな……
「四葉のクローバーが欲しいのか?」
「なんでそれが欲しいんですか?」
クソッ……
「じゃあ、何が欲しいんだ?」
パタは立ち上がった。「大きくなったら私と結婚して!」
「だめだ」
「そう、ですか……」パタはしゅんとした。「じゃあ、何もいりません」
「いいのか、それで?」
「はい。隠しておきたい理由が、あなたにもあるんだと思います。それに、見つけてしまった私が悪いので」
「いや、たぶん、俺が悪いんだと思う……」
チッ……このまま終わらせたら、こっちが気まずい。何か渡しておいた方がいいな。
「パタ」
「はい?」
「ポーションでも魔法でもないんだ。本当のことが知りたいなら、お前の家にある本を見てみろ。説明が書いてある」
エヴァはもう、トータライザーが何かを知ってるはずだよな?あの本を盗んだのも彼女だった——ああ、いや、開いてすらいなかったか。だが、たとえ開いていたとしても——
「でも私、字が読めません」
ああああ……そうだったな……
完全に間抜けな気分だ……
「悪い、パタ。もう家に帰らないと」
「はい、大丈夫です。これは、私たちだけの秘密ですね?」パタは小指を差し出した。その笑顔は、今日一日で見た中で、一番本物だった。
「もちろんだ」俺は自分の小指を絡めた。指先が絡み合う。魂の約束が、交わされた。「お前が大きくなったら、必ず本当のことを教えるって誓うよ」
「わかりました。私、まだとても小さいですから」
まだ髪が金髪のままなくらい、小さい……
文句を言うことなんて、何もない。彼女なら本当に、これを胸にしまっておいてくれる気がする。
ああ、本当にありがたい……
「なあ、パタ。ありがとう。お前、本当にしっかりしてるな」
「皆にそう言われます。魔法も、とても上手なんですよ」
それは信じられるな。俺も、皆にそう言われて——
ま——待てよ……
皆に、そう言われた?しっかりしてるって?そ、それってつまり……
「パタ……」
「はい?」
「お前、別の世界から来たのか?」
彼女はすぐには答えなかった。ただ数秒、俺を見つめていた。
「ニコは、そうなんですか?」
「ああ……俺は、地球から来た」
パタの目が輝いた。
「すごいです!!!だから飛べるんですね!!」
あ——ああ、クソ、俺は本当に、とんでもない間抜けだ。
数分後、俺は冗談だったと言い訳し、彼女はそれを信じた。俺は、入ってきたのと同じ窓から出ていった。驚いたことに、彼女は俺が出ていく間、背を向けていた——見てしまうと、もっと夢中になって約束を破ってしまうから、と言って。
ともかく、彼女と話せてよかった。本当に賢い子だ。それに、一瞬だけ、俺の気を紛らわせてくれた。
だが、あの記憶が戻ってきた。窓から抜け出した瞬間、すべてがまた頭の中に流れ込んできた。
今、俺は自分の家の屋根の上にいる。座って、ただ雨を浴びている。
そうだ、また濡れてしまった。理由は、自分でもよくわからない。
だが、今頭の中にあるのは、それじゃない。雨粒の感触すら、ほとんど感じない。すべてが、空っぽに感じる。
雨……首筋を伝う、この冷たい水。ようやくわかった。なぜ俺がこんなにも、この雨と風の組み合わせが好きなのか。なぜ、生まれ変わったその瞬間から、こんなにも飛びたいと願っていたのか。
風が、あの「落下」を思い出させる。
雨の中、アパートから落ちた、あの瞬間を。
今、思い出した。
ニコラウ・ブリトンとして生まれ変わったその時から、俺は人殺しだった。あの兵士を殺したところで、何も変わらない。
結局のところ、俺はもう——自分自身を殺していたのだから。




